165●『ゴジラ-1.0』の疑問点と続編を妄想推理する。⑫こうやってマイゴジ君に勝 つ!

165●『ゴジラ-1.0』の疑問点と続編を妄想推理する。⑫こうやってマイゴジ君に勝

つ!




 小説や映画を鑑賞し終えると、しばしば考えます。

「結局、最後に笑った(あるいは泣いた)のは誰だろう?」


 笑う、と言ってもいろいろあって、悪の黒幕が高笑いするだけでなく、皮肉な含み笑いや、無邪気に楽しい笑い、ホッとした安堵の笑顔、穏やかな微笑もありますね。

 その逆に、泣きの種類もいろいろありますが……

 要するにそれが、最初の“読後感”になります。


 『ゴジラ-1.0』で、最後に笑ったのは……

 残念ですが「何もしなかった日本政府」ですね。

 ゼロコストで国民にゴジラを退治してもらい、問題解決となったのですから。

 公助でも共助でもなく、自助で物事にケリをつけてくれる、これ、政府にとって最も都合のいい、理想的な国民です。

 しかも、命まで投げ出して戦ってくれた。

 政府としては感謝状と慰霊碑でジ・エンドです。

 為政者からすれば、言うことなしのカモ……もとい、善良国民となりますね。


 その点が、『ゴジラ-1.0』の後味の今一つなところ。

 手放しで「よかったなア」という爽快感にはならないのです。


       *


 とはいえ、「特攻隊員なのに死に損ねてしまった」と自責の念に苦しんだ主人公、敷島青年は、橘氏の助けによって「特攻精神の呪縛」から“脱出”し、根深いトラウマから解放されたようです。


「浩さんの戦争は終わりましたか?」(P187)ですね。


 二人がついに取り戻した平和。

 ひとまずは、この件については、めでたしです。


       *


 でも、お話を読み返してつくづく思うのは、マイナスゴジラ……マイゴジ君を打ち破る方法として、海神作戦にはかなりの不備が目立ったこと。

 主に、下記の点ですね。


一、ゴジラがクジラ並みに深度3000mまで自由に、かつ安全に潜水する能力を持っていれば(クジラにできてゴジラにできないはずがなかろう)、そもそも作戦の効果が期待できない。


二、46センチ主砲弾の水中爆発で、フロンガスと炭酸ガスのボンベ、強制浮上用の気嚢まで破壊されるであろうから、作戦の後半は破綻する。


三、フロンガスと炭酸ガスは深海数百から千数百mの範囲で気体の状態を保てなくなるようであり、ゴジラの深海潜没は、中途半端な結果になるだろう。


四、46センチ主砲弾、フロンガスと炭酸ガスのボンベ、強制浮上用の気嚢、それぞれの作動を制御する信号電線がいちいち必要となるなど、装備が複雑すぎて脆弱化するのではないか。


五、二隻の駆逐艦がワイヤーケーブルを引いてゴジラを深海から強制浮上させる場面(P176-177)では、体重二万トンのゴジラに対してワイヤーの強度が不足し、破断する可能性が高いのでは。


六、「一人の犠牲者も出さない」(P147)と宣言した翌朝には「水中拡声器部隊、壊滅!」(P157)と、作戦指導者の言動が無責任すぎて信用できない。


 などなど……


 それでは、どのような作戦が合理的なのか。

 考えてみましょう。

 ここからは特攻戦争映画でなく、「怪獣退治を楽しむ怪獣映画」として妄想を膨らませてみます。


       *


 まず大切なことは、「日本政府も米軍も当てにできない」(P128)という前提を崩すことです。

 「怪獣退治に日本政府も米軍(GHQ)も巻き込まなくてはならない」のです。

 それができなかったら、民間人だけで動いても意味がありません。

 自己責任になるからです。

 ケガをしたら「働き損のくたびれもうけ」ですし、死んだらただの「無駄死に」でおしまいです。しかも、そうなる確率が非常に高い。

 そんなボランティアは、やめた方がいいでしょう。

 闘うことよりも「ゴジラ早期警報:Gアラート」の仕組みを整えて、Gさんに踏みつぶされる前に逃げ出す体制を整えた方が賢明と思われます。


 それでは、怪獣退治の作戦に日本政府と米軍……つまるところマッカーサー元帥とGHQの全面協力を得るには、どうすればいいのか。


 最適の人物がいます。

 白洲次郎しらすじろうさん。

 吉田茂の懐刀ふところがたなで、当時、GHQを手玉に取る勢いで暗躍した、稀代のネゴシエーターでありフィクサー。マ元帥を怖がりません。

 一応フィクションなので、アメリカ帰りの「ジラース四郎」という名前にします。

 この人にコネをつけて、マッカーサー元帥に話をつないでもらうのです。


ジ 「マッカーさん、いくら何でも、このままシカトはあきまへんで。ゴジラの怪光線で皇居もGHQも灰かぶりの焼け野原や。なんぼあんたがソ連ビビリでも、こない赤っ恥では世界の笑いもんですわな。そや、わてに名案がありまっさかい、いっちょ話に乗ってちょもらんま」

マ 「そらな、わてかて頭にきてまんねん。イワンの奴ら、アメさんが陛下の御身おんみを守れんのやったら、モスクワで預かってあげまんがなと、嫌味たっぷりなんやがな、もう、どないしたらええんや! 名案あるんやったら教えてちょんまげ」

ジ 「せやせや、アメさんは事情があって動かれまへん……となったら、どーでっしゃろ、アメさんの軍艦やらB29を、わてらニッポンに貸してくれまへんか。お金は『日輪の遺産』(映画は2011)言うて、21世紀やったら200兆円に相当するていう、超メガトンな金塊が手元にありまっさかい、ご心配なく」

マ 「そんな隠し財産、どこにありまんねや! あんたらニッポン人、こっそり軍資金を隠匿……あ、あーっ、それ、わてがフィリピンで隠しとった黄金のヘソクリやがな! わてが敗けてフィリピンを留守にしたのをいいことに、山下将軍がネコババしてニッポン本土へ持ち帰った金塊や。今、M資金いうて、わてが必死で探させとるんやで、返せドロボー!」

ジ 「まあまあ、『日輪の遺産』(映画は2011)では来年の1948年に、マーさんへお返しする段取りになってますさかい、ここは堪忍堪忍どすえ。せやけど今は、わてらのお金やさかい、一つ頼んまっさ。B29を百機ほど中身のクルーごとわてらに貸与してくれはったら、ゴジラを倒してしんぜますさかい。そや、B公の胴体と翼の★マークは塗りつぶして、日の丸にさせてもらいまっせ」

マ 「まっさーかー! そんなアホなことできまっかいな。あんたら占領下の日本やで、オキュパイド・ジャパンなんや! 何あつかましいことほざいてまんねん」

ジ 「せやから代案だしますよって。国連でんかな、こ・く・れ・ん。UNやったらよろしおすやろ。国連軍が世界平和のために怪獣退治しますンや。わてらもあんさんも国連軍に武器と兵士を貸し出す形を取れば、ソ連の真っ赤なイワンはんも、いちゃもんつけよーがありまへんで。文句あったら、あんたも参加しよし、と誘ったらよろしいんですワ」

マ 「そ、そうか、その手があったか!」

ジ 「ルパンが相手だったら天下御免で出動できるんでしょ……あ、もとい、国連の旗さえ振ってたら、天下御免でゴジラ退治、世界どこでもオッケーでんがな。この機会に日米合同で、国連軍やらしまへんか!」

マ 「そら名案やけど、安保理事会やら総会やら待ってたら、何日かかるんやろ」

ジ 「いえいえ、心配ご無用どす! わてらが今すぐ国連の旗買ってきて書類を整えまっさかい、マーさんはサインとハンコついてくれはるだけでよろしいんや。おわかりどすな」

マ 「うぬー、そうか、“勝手に国連軍”か」

ジ 「もちろん内密どす。わてらニッポンの有志が“私設国連軍”いう便利なモンを立ち上げまっさかい、マーさんはわてらのイカサマペテンにハメられたふりしておくんなまし。つまり、ニセモンの第三者をデッチ上げて、そっちを主体に事実上の軍事行動をやらかすいうカラクリどす。なーに、ゴジラに勝ったら大手柄やさかい、国連はんは事後承諾で自分らがやったことにしてホクホクでんがな、勝てば官軍どすえ」

マ 「で、敗けたらどないすんねん、負けてもたら!」

ジ 「しらばくれて、最初から何もなかったことにすればよろしおす。どーせ、敗けたら参加者は全滅ですよってな。口封じの手間は、心配おまへん」


                〈会話は英語ですが、関西人が意訳しました〉


      *


 かくしてティファニーブルーにオリーブの葉と地球マークを染め抜いた旗を盛大にはためかせ、なぜかポンコツ駆逐艦ばかりで編制された国籍不明の艦隊が、伊福部昭先生の「怪獣大戦争マーチ」も華やかにゴジラ退治に出撃した。

 めざすは相模湾でお昼寝中のマイゴジ君である。


 名付けて「ゴジラ・ハラキリ作戦」。





    【次章へ続きます】

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