113●おすすめ映像音楽(11)…今こそ語り、耽溺したい、日本人の『サンダーバード』愛!

113●おすすめ映像音楽(11)…今こそ語り、耽溺したい、日本人の『サンダーバード』愛!




 ここでしばし、脇道に逸れます。

 厳密には映画と言うよりもTVシリーズですが、『サンダーバード』について。


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 映画『サンダーバード』&『サンダーバード6号』のサントラは、“オリジナル MGM モーションピクチャー・サウンドトラックス”と銘打って、ララランド・レコードから出ています。(LLLCD1306)

 TVのBGMサントラもありますが、いずれも、各曲が短めで、ブツ切り感覚になるのは致し方ないところ。

 まとめて聴くには、サントラではありませんが、『組曲サンダーバード ジェリー・アンダーソンの世界』(1992年 東北新社 APCF-5117)が何度か再版もされていておススメです。第一楽章から第七楽章までジャンル別に編集された大作。

 おまけにしては立派なことに、『スペース1999』『ジョー90』『スティングレイ』『謎の円盤UFO』『キャプテンスカーレット』の掌品もついており、これ一枚のお得感と満足度は言うことなしです。

 演奏はロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ。サントラはブラスの響きが派手ですが、こちらは弦が充実、ムーディなパートをまったりとエレガントに聴かせてくれます。

 特に良いのはトラック13の最終曲、組曲の第七楽章ですね。

 これぞサンダーバード!

 全編のいいところを凝縮した、ピカイチの一曲です。


 なお、トラック3の『ジョー90』も大好きです。テレビドラマの本編とは違った、小粋なオーケストレーション。もともと音源が少ないので、貴重な一曲。


 同じ1992年に『サンダーバード秘密基地セット』なる、LPレコードサイズのBOXに入ったサウンドとプラモCM映像、計五枚組CDの豪華製品も発売されています(BCCM9001-4R)。こちらの『BGM集』は日本国内で特別編成したオーケストラ、いくぶん小編成ではありますが、イージーリスニングに適した、品のある繊細かつ瀟洒しょうしゃな音色が魅力的です。

 このCDは新たに参集した国内オケに、1990年代の日本人声優さんたちが加わって、TVシリーズ第一話を含む三エピソードをサウンドドラマに仕立てた作品がメインです。

 セリフや語りがテレビ放映物に対して格段に補完されていて、映像が無くても“聴けばわかる”ように構成されているのが心憎いですね。

 ドラマの臨場感よりも、“和製サンダーバードストーリー”というか、サンダーバードにより深くのめり込むための解説的な音声番組と理解すればいいかと思います。

 チラッとセリフの間違いもあり、頭の中でツッコミながら聴くのも、ひとつの楽しみですね。


 にしても、前述の二つのCD、ライナーノーツを見る限り、日本側からのプロデュースですね。どちらも日本人の、いわば“サンダバ愛”が結実した、20世紀のデラックス文化遺産と考えてよかろうかと。当時はバブル景気の絶頂期、金持ちの道楽気分でもなければ実現しないリッチな企画だったでしょうね。大事に聴いてあげましょう。


 なお2002年にBGM集のみ、トクマジャパンから単独CDで再販されています。(TKCA-72328)



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 『サンダーバード』の作品としての魅力の心髄は、なんといっても、国際救助隊が……

 金持ちの道楽、であることですね。

 悪い意味ではありません。

 単なる一個人が、計画し実施する企てであること。

 その根底が崇高なノブリス・オブリージュの精神に基づいている点は、高潔な志に燃えた英国貴族といった風情です。

 根本的に、個人のボランティア。


 これが素晴らしい。

 金持ちの道楽であり個人のボランティアであるからこそ、世のイデオロギーや思想や宗教に束縛されることなく、“国境なき”人命救助が行えるということですね。

 どこかの国や政権に、エコヒイキも遠慮もすることなく、自由に出動できる。

 国際救助隊は地球上の誰からも命令されない、自由な組織である。

 だから、国際救助隊の行動を制約するのは、人道的な正義だけである。

 この要素が、作品を、他に類を見ない傑作に磨き上げました。


 同じ制作系列の作品『スティングレイ』『キャプテン・スカーレット』『謎の円盤UFO』などはみな、主人公がある種の公務員であり、所属している組織は公的機関か軍隊です。

 正義の主人公は、自分の正義を掲げることよりも、上司の命令に従うことが前提となります。

 正義に対する“敵”はいつも明瞭であり、その敵を撃破する……必要なら抹殺することも、上司の命令に含まれます。

 要するに、主人公は一見、正義と自由のための戦いをしているようで、実態は殺戮オッケーの、ただのサラリーマンでもあるわけです。

 だから作品としての面白さは限定されます。

 主人公の行為は戦争の一部であり、基本的に、目の前の敵に勝つことが正義となってしまうからです。

 戦争はしょせん、殺すか殺されるかの世界。上司から命じられれば、自分はいやでも、死ぬ覚悟をしなければならないでしょう。

 主人公は、そこまで自由を放棄している。

 それでは、ドラマとしてつまらない。

 主人公が信じる正義ゆえに、上司に逆らったり、うまく誤魔化したり、逃亡したりすることでドラマが劇的に展開する成功例もあります。

 国内では、半沢直樹さんが、そうですね。

 多少無茶苦茶ですが、クリント・イーストウッド主演の映画『戦略大作戦』(1970)も、常識を外れるから面白いのですね。

 が、そんなことをTVで毎回繰り返すわけにもいきません。

 それだけ、トロイさんやスカーレットさんやストレイカーさんたちは私たちの現実の、雇われ仕事に近いのです。

 現実に存在する軍隊組織、そしてカイシャと極めて近い労働環境ってことですね。


 その点、『サンダーバード』の救助活動は、徹頭徹尾、個人の自由意志による無償のボランティアです。文字通りのスーパーボランティア。

 だから地球上のどの国家の何者にも縛られず、自分たちの自由な意思で判断し決定して行動できる。

 これ、現実世界の労働環境では、まず実現不可能な、理想的な職場ですね。

 子供の頃、『サンダーバード』と、『スティングレイ』『キャプテン・スカーレット』『謎の円盤UFO』を見比べたときにやはり、「なりたい!」と憧れを感じたのは国際救助隊のメンバーでした。

 組織の目的と使命が、他の作品と根本的に異なるからです。


 それにスティングレイのワスプも、スペクトラムもUFOのシャドーも、就職先としては大変そうで……

 命のやり取りをする仕事の上に、あの上官ですから。

 ワスプのサム司令官なんか、すぐ頭にきて怒鳴るわ愚痴るわの石頭で、指示命令がほとんど支離滅裂ですよ。あれでは命がいくつあっても足りなさそうで……

 トロイ君はいずれアトランタ嬢とできてサム爺さんの娘婿におさまるつもりで、我慢してるんじゃないかな?

 好感を持つのはフォンズ君の方です。キャラもフェイスもレッド・バトンズのクリソツさんですし、あのお気楽さは、サラリーマンの鏡。彼がいるから『スティングレイ』が作品的に救われているんですね。フォンズ抜きだったら、毎回、半魚人をクソ真面目に殺すだけの虐殺物語に終始したかもしれませんね。



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