114●おすすめ映像音楽(12)…“金持ち道楽”の国際救助隊、偉大なボランティア!?

114●おすすめ映像音楽(12)…“金持ち道楽”の国際救助隊、偉大なボランティア!?





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 それにしても……

 私財を投じて、無償で人命救助に尽力する……というのは、“金持ちの道楽”の中では最も尊い部類に入るでしょう。

 そう、サンダーバードの隊員たちの行いは決して夢でも幻でもなく、現実に実行している人って、実際におられますね。

 故・中村哲先生に率いられ、現在も活動が継続されている、ペシャワール会とか。

 その精神と行動の崇高さは、サンダーバードの組織の設立意図に通じるものがあるように思います。

 その意味で、サンダーバードはけっして、子供だましではない。

 他の作品にない魅力と存在価値が、そこにありますね。

 永遠なれ、サンダーバード。


 一方、百億円とかをポンと出して、宇宙に行った大富豪もおられます。

 これも、広い意味で“金持ちの道楽”に含まれるでしょう。

 悪いこととは思いませんよ。でも、尊い行いかと言えば、私にはわかりません。

 手放しで礼讃できるかといえば、これも、わかりかねるところです。

 今の時節柄、かの国に支払われた百億円が巡り巡って、宇苦来奈国の国境を包囲している十万の大軍の戦車やミサイルに化けたりしないことを祈るばかりです。

 費用が本当に百億円なら、国外でなく国内に投資された方が、ありがたかったのに? と、勝手に思うのは私がボンビー族であるがゆえ、何卒お許し下さい。



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 さて『サンダーバード』のもう一つの魅力は……

 “科学礼賛なのに科学不信”なこと。

 作品の設定年代は西暦2026年(異説あり)、もうすぐですね。

 科学万能の便利な未来、スマホやパソコンは普及していませんが、テレビ電話があり、アングラ放送局が衛星軌道をめぐり、原子炉を積んだ原子力旅客機が平気で空を飛ぶ(墜ちたらどうする?)という能天気な世界です。

 そこで、人々の命をおびやかす科学的クライシスが発生する原因は、だいたい次の三つですね。


一、ポカミスなヒューマンエラー

 まあ大丈夫さ……的な、油断と過信が生む災厄です。

 クラブロッガーの暴走が代表例ですね。他には、火星ロケットを載せて崩落したアーリントン橋、トンプソン・ビルの大火災、イギリス銀行の大金庫閉じ込め事件、太陽反射鏡のアッチッチ地獄、宇宙放送局の墜落事故とか、です。


二、自然の科学的摂理を無視した傲慢な行為

 自然の猛威に潜む科学的因果関係(エコロジーな法則性)をすっかりナメて、無思慮な行為に走った結果……

 オーシャンパイオニア号の爆沈事件が代表例ですね。そのほか、コング(サイドワインダー)の陥没事件、エンパイアステートビルの倒壊、海上石油採掘ステーション近海の海底火災、巨大ワニの襲撃など。


三、テロ行為

 悪者フッドを筆頭とする、悪漢たちが引き起こす災厄。

 ファイヤーフラッシュ号への爆弾脅迫事件、アナスタ湖の湖底遺跡の破壊、戦闘機レッドアロー号撃墜事件など。


 科学文明はすばらしい、しかしそれは人々の暮らしを便利にしても、より安全にしたり、より幸せにしてくれるとは限らない。それは人間の行いにかかっている。科学の恩恵を台無しにするのは人類自身なのだ……

 つまり、“科学礼賛なのに科学不信”。

 という、ちょっとペシミスティックで風刺の利いた英国っぽい人間観が通底していて、それが『サンダーバード』でしか味わえない高品質な魅力となっています。

 『スティングレイ』『キャプテン・スカーレット』『謎の円盤UFO』ともに、“軍人の、軍人による、軍人のための戦い”(勝ったら自分たちは評価されるが、全人類的にみてそれが正しいのかは検証されない)が大きく描かれています。

 しかし『サンダーバード』では、さまざまな“人間”が生き生きと描かれ、だからこそ人命救助の意味合いが問われもし、そして輝いています。

 シリーズ最終話とされる、アングラ放送衛星の墜落事故がそうですね、救助を拒まれたときのアランの対処と、その結果が、人命救助の一つの本質を語っています。

 つまり…… 

 敵を殺して任務完了……の真逆で、人を救ってこそ任務完了の物語ですから、必然的に、今回、救われることになる人々が、どのような人々なのかが描かれて、視聴者に対して、ある種の問いかけもしているのですね。

 これですべてが良かったのか? それは皆さんのお考え次第ですよ、と。

 救助メカに眼を見張る一方で、救われる人の人生模様にも光を当てることになり、それがシリーズの奥深い魅力となっているのですね。


 全話を通じて最高の回は、個人的には『死の大金庫』です。

 執事のパーカーひとりの生きざまにペネロープを含めて周囲が翻弄されますが、愛すべき結末が待っています。

 未来社会でありながら、パーカー氏の得も言われぬ庶民感覚が最後に吉と出るわけで、大人を楽しませてくれる貴重なエピソードだと思います。


 “科学礼賛なのに科学不信”な、とてもひねりの利いたストーリー構成は、『ニューヨークの恐怖』のエピソード前半に見られます。わずかな手違いで、軍のミサイルが飛行中のサンダーバードを襲うという悲劇的な椿事ですね。

 科学の力で守られているはずのサンダーバードが、誤射とはいえ、科学力を悪用した兵器に狙われる、それも悪漢ではなくて正規軍がコントロールする兵器に。

 この皮肉なめぐりあわせを、スルーせずにしっかりと描いただけでも、『サンダーバード』の作品的な偉大さがわかるというものです。

 フツーの作品なら、黙って、描くのを控えておくでしょうから。


 この回の場合はイレギュラーなアクシデントでしたが、おそらく国際救助隊はその組織が各国の軍隊や警察に敵視されて攻撃の対象とされないよう、常日頃から秘密裏のネゴシエーションに励んでいると思われます。

 たぶんそのために、ペネロープ嬢が活躍する諜報活動などで英国や米国など軍事大国に力を貸して、恩を売っているのですね。『スパイにねらわれた原爆』『情報員MI.5』『魅惑のメロディ』など。

 そのやり方は、決してキレイゴトではなく、ときには人殺しすらいたします。


 そうすることで各国の軍や警察と対等な関係を築き、国際救助隊の活動の安全を保証させ、軍や警察の協力も取り付ける。

 さすが、ジェフ・トレーシー氏は単なる理想主義者でなく、利己的で身勝手な各国のパワーバランスに留意しつつ、恩義を売り、同時に相手の弱みも握ることによって、中立的な立場で国際救助隊の存在意義を認めさせる……そんな“正義の謀略家”としての側面も併せ持っているわけですね。

 この点も含めて、『サンダーバード』はお花畑の夢物語に終わらない、したたかなまでのリアリティを伏在させていると言わざるを得ません。

 それゆえ、時代を経ても陳腐化しない、永遠の名作になり得ていると思うのです。


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 なので、実写映画版の『サンダーバード』(2004 米)は、駄作とは言いませんが、間違いなく愚作の範疇に入るでしょう。あ、あくまで個人の感想ですが。

 要は、ラスト近くでジェフが某大統領から自分のスマホにダイレクトコールを受けて、得意げに小躍りする場面。

 やめとくれ。

 いつの間に国際救助隊は、たかが大統領の一人や二人に尻尾振るポチに成り下がったのかい。

 国際救助隊は独立した個人のボランティアなんだぞ、世界のどの国家にも隷属しないのだ、相手が大統領だろうが幼い子供だろうが、等しく救助対象なのだ。

 だからこそ尊いし、魅力的なのだ。それに……

 自分のスマホの番号なんか教えて友達登録したらアカンではないか。

 こっちの居場所、筒抜けになりゃせんか?

 個人情報、某国に抜き取られてしまいまへんか?

 電話受けるなら、相手の電波を軌道上の5号でキャッチして、こっちから5号経由でかけ直さなきゃ。

 これだから、キ●デラックなんかのダッサーなFAB-1が空飛ぶパチモン映画になってしまうのだ。(以下も、あくまで個人の感想です)

 あれ、ロール●ロイスしか許されんだろ。

 あの魔法使いみたいなマーリン・エンジンを世に出したロール●ロイスだからこそ、サンダーバードの純正エンジンメーカーとされるのだ。

 ペネロープ嬢がキ●デラックに乗っていたら、サンダーバードのエンジンメーカーはゼネ●ルモータースになってしまうじゃないか。ありゃ戦車のメーカーだろ。

 そこまで設定を捻じ曲げると、いかにもニセモノ臭い。

 人形劇の方で『ニセ者にご注意』の回があったが、見事なニセ者である。

 まあパラレルな別世界の出来事……異世界に転生した連中のパロディ二次創作としてなら、かなり面白いし、高く評価できると思うが。

 ヤマトの実写作品『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(2010)もそうだったけれど……

 要するに、これ、コスプレ大会の記録映像なんだよね。

 実写ヤマトの方がパロディ精神満載で、むしろいさぎよかったくらいだと。

 そう思いませんか?





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