198●この国が良くなる気がしないのは、なぜだろう?⑬21世紀のエヴァは「綾波レイ救済計画」、ただそのために作られた!?

198●この国が良くなる気がしないのは、なぜだろう?⑬21世紀のエヴァは「綾波レイ救済計画」、ただそのために作られた!?




 とあるカントクと、彼に取りついた自縛霊の対話。

 あ、あくまで、とある誰かアンノウン氏の場合を想定した個人的妄想です。 

 人物は特定しておりませんので、くれぐれも誤解なきようお願い申し上げます、ゴメンナサイ、失礼の段、何卒お許しのほどを……。


霊:カントク……。

カントク:ふにゃ……(寝ぼける)

霊:うらめしや~

カ:わ、わわっ、なんだ霊ちゃんじゃないか、ふらっと夢枕に現れて、脅かすなよ。

霊:あの、カントク……旧劇場版の、あれで「完」なの? あれで「終劇」なの? 

カ:え、そうだよ。『痔・炎怒・汚腐・絵蛮下痢音』(1997)って本も出したし。

霊:あれっきり? あれっぽっちでおしまい?

カ:だ、ダメかな?

霊:あたし、一生懸命、脱ぎました。バスタオル一枚で中学生に押し倒されたり、体のあちこち、いけないところを触られたり、彼のお股の上にあたしのお股を乗せて一体化もさせられました。

カ:そ、そうだったかなあ、そんなこともあったっけ? 僕、ネルフに記憶を消されたみたいで。

霊:しらばっくれちゃって……20世紀はまだ世間のコンプライアンスが甘かったのをいいことに、ミサトさんもアスカもそうだったけど、女の子を平気でお手軽にポンポンスッポンポンにしちゃったでしょ。

カ:す、すまない。気を悪くしたら謝るよ。

霊:あたし、とてもとても恥ずかしかった。でも我慢しました、愛する碇君のために。なのに総司令のヒゲヅラおじさんは胸の中やお腹の中にまで手を突っ込んでムニムニするし、すごく気持ち悪かったし、そのとき左腕が落ちて骨まで剥き出し。でも総司令は、哀れみの顔一つせず、包帯を巻いてくれることもしないで、知らん顔だった。…非道い(涙)…。

カ:しかしね、それは僕の演出上、必要なことだったんだよ。三度目インパクトのために、君の魂と肉体が絶対不可欠なことは、TVシリーズの出演前から話していたじゃないか。だからギャラもはずんで……

霊:カントク(キッと見つめて)……あたしは、カントクのお人形じゃないわ。

カ:う……。で、でもさ、きみのサービス、サービスぅのおかげで作品が大ヒットして、霊ちゃんは全国のオタクの人気者になれたんだよ! コスプレマニア続出で、アニメ界最高峰のアイドルかもしれない。

霊:おさわりバーの看板で「綾波あります」って宣伝されても、ですか……

カ:あーいや、それは行き過ぎかもしれないな。ブームが過熱しすぎて。

霊:あたし、地味でいいです。もともと地味っ子がいいンです。食パンくわえて走って、街角で誰かさんとゴッツンしてる方が、よほどマシです。あんな風になりたかった。……なのに三度目インパクトだか何だかであのデブオタクな体形の白いブヨブヨマシュマロ君と合体して巨大化させられて、みんなに怖がられて嫌われて、マヤさんなんか阿鼻叫喚パニック。挙句、ラストシーンではヘタクソなスイカ割りみたいに顔面半壊で水平線に転がされるなんて……晒し首って、あのことじゃないですか。もう……イヤです。イヤなんです! あたしは清純派なんです、エログロ女優じゃありません!

カ:わかったわかった、僕が悪かった、この通り土下座だよ。

霊:なんか、ムカムカしてきちゃいました、カントクを雑巾にして絞り上げたいくらい……あ、そう! ポカポカしちゃっていいですか。

カ:わっ、両手にN2爆雷握って、僕をポカポカしないで!

霊:ATフィールド全開!

カ:わーっ、やめちくれ、ここで餡脳インパクトを起こす気か!

霊:うらめしや~、あなたを憑代よりしろにして十字架にハリツケて聖痕つけてあげるわ。ゴルゴタの丘に立てたら、きっと見た目もバッチグーよ。♪ヒューどろどろ~

カ:わわわわわ、もう精魂尽き果てております。何でもするからカンベンしちくれ~

霊:だったら作り直しよ~、リビルドよ~、あたしをメインヒロインにして、カッコよくして、全部新作で撮り直すのよ~。

カ:御意、ははーっ、仰せのままに、霊様。

霊:空前絶後の超大作にするのよ、旧劇場版を全否定して、美しいワタシを麗々しく描き上げるのよ!

カ:ならば三部作、「序・破・急」で行きますか。

霊:もう一本! 四部作にしなきゃ、ファーストガンダム劇場版三部作を超えられないじゃないの。

カ:えーっ、四部作? ただでさえ死ぬ思いで働いてるのに、わっちをコロス気か、もう、あっちの姫よりワガママだ。

霊:何か言いました?

カ:いえいえ何も……あっ、でもしかし、死ぬ気で作ってみると四部作、できちゃいました。

霊:どこが死ぬ気なのよ。ジブリとシンゴジでノソノソ道草食ってただけじゃない。ファンを散々やきもきさせて。でも、四部作がキチンと「起・承・転・結」になったのは褒めてあげるわ。さすが堀越●郎さん。それにまたまた大ヒットしたから、許してあげる。

カ:ありがたきしあわせ……こんなとき、どんな顔したらいいのかな?

霊:笑うしかないと思うわ。


       *


 それはともかく、③の“ヱヴァンゲリヲン新劇場版”四部作(2007-21)は、何はともあれ、あれだけいぢめて虐げた綾波の悲劇を償って、彼女にせめてもの幸せを取り戻すために制作された……ことは、疑いようもないと思うのです。


 綾波レイの心の奥底に秘めた、まさに底なしの母性愛。

 彼女が人工的な複製体クローンとして作り出されたことは、四部作の第三作目、将棋対戦の場面で冬月副司令がきちんとセリフで明言されているので、間違いありません。また、エヴァ初号機にユイの霊というか魂が宿っていることも説明されていましたね。

 

 で、綾波レイの悲劇です。

 ゲンドウの身勝手な意志で、今は亡きユイの代用品として扱われてきた哀しさ。

 人としてではなく、インパクトの一部品にされてきたレイが、シンジ君たちとの触れ合いを通じて、みずからの自我と、人間的な幸せに目覚めていく。

 その大きな変化が「ごはんを作って、みんなで食べてもらいたい」という願いが生まれたこと。

 四部作の二作目は、レイが自分自身の母性愛を自覚しつつも、自分なりに自然体で生きようとする物語でしたね。


 レイに救済がもたらされ、彼女の初めての満面の笑顔に対面できる……と期待させておきながら、またまた庵野監督は観客を絶望の淵に突き落とします。

 

 第二作のラスト。

 レイは、そしてアスカも……死んだのか?


 そこまでクリティカルなシチュエーションに追い込んだまま、「つづく」となり、続く第三作は、ついに最終決戦かと思わせる予告編が流れるのですが……


 ここで、まさかの事態が。


 ファンを三年待たせて2012年に公開された第三作の内容は、第二作(2009)の本編末尾の予告編に語られた内容と全く異なっていたのです。


 まさかの禁じ手の「予告編踏み倒し」!

 ファンにとって全く想定外の珍事です。


 ストーリーは突如14年もスキップ。

 ミサトさんはネルフ殲滅をもくろむ反ゲンドウ組織の組長に収まっていました!!


 ファン、唖然……

 庵野様、ご乱心か? 大丈夫か?

 ……と、誰もが監督とエヴァの今後を案じたことと思います。


       *


 いやしかし、心配ご無用。

 たぶん監督の深謀遠慮がなさしめた、驚天動地の路線変更だったのですね。 

 というのも……


 第一作(2007)と第二作(2009)の延長線で、すなわち第二作末尾の予告編の流れでストーリーを進めていったら、どうなるか。


 ゼーレの悪だくみと、それを私的に利用するゲンドウによって起こされるサードインパクトを防ぐために、使徒と闘い続けるネルフの面々、ミサトを筆頭にシンジ君たちチルドレン。


 この図式が続きますと、まずはサードインパクトの阻止が当面の課題となります。

 しかし、先の旧劇場版『まごころを君に』のラストで、サードインパクトは中途半端ながら、途中でストップされましたね。


 インパクトは途中で中止できる。


 そのことが証明されているのです。

 となると……

 新劇場版で、第一作(2007)と第二作(2009)の延長線をそのまま第三作以降に継承したら、そこでもサードインパクトは中止できることになります。

 すると続いて……

  フォースインパクトをやらかす →  途中で止める。

  フィフスインパクトをやらかす →  途中で止める。

  シックスインパクトを……


 ……と、テンプレな輪廻が繰り返され、理論上そのまま輪廻の輪が永遠に続いていくだけになるでしょう。

 つまり、「終わりが来ない」のです。


 大ヒット作が陥る宿命の「続編無限ループ」ですね。

 ラスボスを倒して完結したと思ったら、次なるラスボス二代目がどこからかやってきて襲名し、いつまでたってもお話が終わらないというジレンマ大作の出現です。

 『葬送のフリーレン』だって、ラスボスの魔王を倒した後のお話なのに、敵は次々と現れてきているでしょう?


 典型的な例としては『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』『超時空要塞マクロス』の、それぞれ一連の続編的作品がそうですね。いつまでたっても終わりません。

 『進撃の巨人』は、まさに人類と戦争の永遠の輪廻をアピールする最終回でしたね。あれで「終わった―――」って感じには、ちょっとなれません。続編の余地が残されています。新たなる巨人が出てくればいいだけで。まさに巨人軍は不滅です。

 『鬼滅の刃』とか『ワンピース』も、そういった傾向で展開していったストーリーですね。

 「新たな敵」さえ出てくれば、続編なり外伝で、いつまでも続けられるでしょう。

 あまりいい例ではないかもしれませんが、『スター・ウォーズ』のシリーズ作品は完璧にこの、「続編無限ループ」にハマっています。


 そして『エヴァンゲリオン』の一連の作品も、この「続編無限ループ」に突入しようとしていました。


 だから、第三作で、あえて予告編を踏み倒し、トンデモな抜本的路線変更がなされたのだと思います。


       *


 『エヴァンゲリオン』を本当に完結させるには、次のことが絶対条件です。


 「綾波レイを救済する。彼女を悲劇の輪廻から解放してあげる」


 そうですよね。エヴァに乗って戦って死んでも、複製体クローンなのだから、いくらでも「綾波〇号」が登板して戦って死んでゆくのですから。

 この哀しい輪廻をどこかで断ち切り、そして彼女の魂に救いがもたらされなければ、お話が終わりません。


 そして、綾波レイを救うためには、次のことが不可欠です。


 「ゲンドウの死」


 ですから、第三作に入って、ようやくシンジ君の「父殺し」がストーリーの俎上に上がってくるわけです。

 そして綾波レイが物語の中心線に躍り出てくることになるのですね。




    【次章へ続きます】


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