69●『君の名は。』(3)……今も残る謎と混乱:秋祭りの日の不思議(20210225追記)

69●『君の名は。』(3)……今も残る謎と混乱:秋祭りの日の不思議(20210225追記)





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 『君の名は。』には、今でも、気になる点があります。


 国民的ヒット作の宿命でしょうか。細かな矛盾点など、ファンの熱心な根掘り葉掘りの指摘がネットに公開されています。

 たとえば、新幹線の三列席が富士山側だとか、2013年には無かった車両が走っているとかの鉄ちゃんネタ、日付や曜日の、現実のカレンダーとのズレといったことですね。


 また、人口わずか千五百人(『小説 君の名は。』新海誠著2016年 P125より。千五百人のうち三分の一の五百人が被災範囲に会って亡くなったとされる)の小さな町に高校まであるのは、なんだか不思議。高校はもっと大きな町にあって、糸守町の少年少女は鉄道かバスで遠くへ通うのが一般的ではないかと。特殊な学習カリキュラムを採用した、私立の中高一貫校だったのかな?


 それら以外にも、私なりに、ちょっとどうかなあ、奇妙だなあ……という感想を持つ部分が、今もあります。

 あ、ケチをつける意図は毛頭ございません。

 このような作品世界だと理解すれば、何ら問題ないのですが……

 わからない、という点は、わからない、としか申し上げようがなく……

 作品公開後五年を経た今でも、謎として心に引っかかっているんですね。

 ただ、気になる性格なのです。

 あくまで、個人的な感想ということで、何卒お許し下さい。



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●「秋祭りの日」の謎


 まずは、“秋祭りの日の謎”。

 『君の名は。』で描かれる、三葉と瀧君の魂の入れ替わりがあった期間は、三葉にとっては2013年の9月の初めから、糸守町に大災厄が訪れた10月4日までの、およそ一か月間です。

 で、10月4日は、宮水神社の秋季例大祭。

 神社の境内に縁日が出ております。

 はためくのぼりにも“宮水神社”とありますね。

 このお祭りに出向く三葉たち、浴衣姿です。しかし……

 飛騨地方の10月初めの平均気温を鑑みますと、やはり寒い。

 とくに、山地で標高が高く夜間ともなれば、相当に寒いです。カゼをひきます。

 画面では、その日の朝、三葉の家の軒下に風鈴が提げられている描写がありますので、なんだか夏真っ盛りに感じてしまいますが、日付は10月4日。

 ちょっとこれは、辛いかも……

 まあ、地球温暖化ということかもしれませんが……

 思いますに、もともとの構想では、“夏祭り”だったのではないでしょうか?

 三葉と瀧君の魂の入れ替わりが始まるのを4月の桜の時期にして、災厄がやってくる夏祭りの日は、7月~8月初旬の夏休み中に設定されていたのではないか……と考えてしまいます。一か月遅れの8月7日前後に“七夕祭り”をする地域もありますし。


 どのような理由で秋祭りにされたのかわかりませんが、夏休みが始まってしばらくしたら宮水神社の夏祭りがある……と設定されていた方が、テッシーたちと無人の部室を勝手に使うとか、学校の放送室に忍び込むといった状況が、かえって自然になったと思うのです。


 そしてさらに……

 10月4日当日は、宮水神社のお祭りです。

 三葉は宮水神社の巫女さんです。例大祭ともなれば、超大忙しのはず。

 前夜から当日の深夜まで、神事があるでしょう。

 来客も多く、接待もするでしょう。

 町長の親父なんか、来賓の筆頭ですよ。

 前日から社務所に詰めてもいいくらいの、てんやわんやでしょう。

 どうみても、浴衣を羽織って、のんびりと祭りを見物する立場ではありません。

 また、前日は祭りの準備で多忙を極め、突然に東京まで出かける余裕はなかったと思われます。


 そのかわり、災厄がやって来た時に、三葉(そしてテッシーたち)が神社の例大祭の主催者側として行動できたならば……

 その立場を利用して、住民たちに、より効果的に災厄からの避難を促すこともできたでしょう。

 テッシーたちの協力で神社の裏山を爆破して、閃光と煙、そして特撮映画的な合成音響で、噴火か山津波の前兆を演出するとか。

 そして神社の名で、祭りのBGM用のスピーカーなどを使って、「山津波の危険がある」と、お祭り会場へ放送し、遠方の高校への避難を呼びかければ……

 そうすれば少なくとも、大災厄の直撃を受ける神社から、人々を速やかに引き離すことができたと思います。

 

 ……などと想像してしまうのですが。


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 付け加えますと、この大災厄の当日、10月4日の秋祭りの日は、「休日なのか平日なのか?」という謎が重なります。


※20210225追記:画面に映る、町役場内のカレンダーから、10月4日は金曜日であると特定できます。


 2013年10月4日の世界は、二つのパターンが描かれます。

 まず、大災厄が糸守町を襲い、住民の三分の一の五百人が犠牲になる時間軸の10月4日夕刻ですね。

 三葉の中身は三葉のままです。

 この場合、日暮れ時に祭りに出掛けるテッシーたちの前に、浴衣姿の三葉が現れると、「いつ、髪を切ったんだ?」と驚かれます。

 ということは、当日は登校日ではなかったことになります。登校日ならば、朝、教室に入った時点で驚かれているので、テッシーが改めて「いつ切ったんだ?」と驚くことはないからです。

 どうもこのあたり、物語の設定がやはり当初は“夏休み”になっていて、それを前提に作画されてしまい、それを、あとから“秋祭り”の設定に変更されたのでは?


 もうひとつの10月4日は、瀧君の魂が三葉の肉体に入った状態で目覚める10月4日ですね。

 朝、“入れ替わり状態”で起床してから、この日一日を使って、三葉(中身は瀧君)が頑張ってテッシーたちを説得して、住民避難作戦を練り、実行に及ぶのですが……

 これ、みんな制服を着て登校しているので、平日ですね。

 しかし、無人の部室に入って作戦会議する時に食糧の買い出しまでしている様子は、なんだか夏休みっぽいですね。先生方の目が届いていないようですから。


※20210225追記:買い出しに出たサヤちんに、コンビニのおばさんが「学校は?」と尋ねていることから、当日は平日(金曜日)で、三葉(中身は瀧君)とテッシーとサヤちんは授業をサボって無人の部室にフケ込んで、そこで町民避難計画を練ったと思われます。……とはいえ、平日で授業があれば先生方も多く、すぐにバレそうな気もするのですが。……やはりこの日は夏休みに設定する方が自然だったのではないでしょうか。



 このあたり、観ていてやや混乱する箇所です。


 あ、訂正……箇所なのです。

 DVDを幾度か見直して、ああそうかと納得できた次第。


 いっそ、夏休みの設定にしてくれればよかったんだがなあ……


 当日が夏休みならば、三葉(中身は瀧君)は携帯でテッシーたちを無人の部室に呼び出せば済むのですから。


 それにしても、そもそも祭りの主催者側である三葉が、例大祭の前日から自由行動していて、巫女のお勤めを果たしていないことには、やはり強い違和感が残ります。

 ウルトラマンが怪獣退治をサボって、セブンとつるんでコンビニにフケているみたいな図式ですね。


 それともすでに時間線が分かれて、巫女のお勤めを果たしている三葉と、自由行動の三葉がパラレルワールドに存在しているのかな?

 そうかあ、そうだとしたら、私の頭の中はもう、カオスでワヤクチャ……



 ……というところに、あの“(^^♪前前前世~”の歌が流れてきます。

 歌そのものは良いのですが、“入れ替わり”のお話に“生まれ変わり”の歌詞が重なるので、申し訳ないのですが、思考の混乱カオスに輪がかかってしまうのですよ。





  【次章へ続きます】




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