70●『君の名は。』(4)……今も残る謎と混乱:糸守災害はもっと早く気付けた?

70●『君の名は。』(4)……今も残る謎と混乱:糸守災害はもっと早く気付けた?




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●「糸守町の災害はもっと早く気付けたはず?」の謎


 次に、“糸守町の大災厄を、瀧君と三葉は、いつ知ることができたのか”……という謎です。


 瀧君の肉体に三葉の魂が入れ替わった初日。9月の初めですね。

 瀧君(中身は三葉)が、ドア越しに教室を覗いた場面で、そのドアの裏側に学園祭のポスターが貼ってあり、“2016”と表記されています。

 また、瀧君と三葉、両名の居室や、瀧君のバイト先の控室には、一枚ものか月めくり式のカレンダーが貼ってあります。(アニメだから“描かれている”のですが)

 コマを静止してズームすれば、カレンダーに違いない掲示物を確認できます。


 2013年の三葉と2016年の瀧君の魂が入れ替わると、日付か曜日がズレてしまいますので、携帯を開いたらすぐに違和感を持ったはず。


 あれれ、曜日が違う……とか、で、あたりを見回したら……

 ポスターかカレンダーが目に入り、年代の差に気付いて「じぇじぇじぇっ!」と2013年当時風に仰天することになったはずです。

 入れ替わりの初回では気付かなくても、三回目、四回目となれば、まず、どこかで気が付くでしょう。


 “三年、ズレてる”ことを二人が知らないまま、一か月が過ぎてしまうとは考えにくいのです。


※作品中で二人が「入れ替わってる!」と気付く場面で、瀧君はスマホのダイアリーで9月12日を確認していますから、二人が入れ替わりを自覚したのはおそらく瀧君側の世界では13日であろうと思われます。



 二人は“入れ替わり”が現実の出来事であると悟ってから、互いの携帯やノートにメモを残して、コミュニケートしています。

 このとき、年代のズレに気付いた側が、“三年ズレてる”とメモを残せば、一目瞭然となるはずです。


 そしてまた、二人はそれぞれがノートに“お前は誰だ?”のメモを残しています。

 その意味合いとしては“お前は、どこの誰なんだ?”という質問ですね。

 その質問への答えとして、三葉が瀧君のノートに“糸守町に住んでいる”と記入して自分の住所を伝えることは、当然、想定されるわけです。

 そこで2016年の瀧君が三葉の住所を地理的に特定するため、“糸守町”のワードでスマホ検索すれば、たちどころに、三年前の大災厄が判明するはずです。

 もちろんそのことを、瀧君は三葉に知らせようと、三葉の携帯かノートに記入することでしょう。


 大変なことが起こる! 今の君は何年何月何日にいるんだ? ……と。


 やはり、一か月もの間、三年間のズレと、糸守町の大災厄にまるで気付かなかったというのは、不自然ではないでしょうか。


 むしろ、入れ替わりが始まって二~三週間程度で、糸守町の災害は二人とも知ることになったとするのが、ストーリーの自然な流れかと思います。


 瀧君は三葉に、事前に避難するよう伝えるでしょう。災厄の訪れを警告して、自分と家族だけでも確実に現場を離れるように……と。

 携帯の日記、あるいはノートにしたためたメモを使って……


 しかし、そのような展開になりますと……

 過去の少女を災厄から救うために、未来の少年が時空を超えて警告のメッセージを送る……というシチュエーションとなり、これは、韓国映画の『イルマーレ』(2000)と完全クリソツになってしまいます。主人公の男と女が逆になるだけなのです。


 さすがにこれはマズいかな……と思われます。


 となると、物語をさらに展開するために、“警告のメッセージを伝えるだけでは2013年の三葉が避難してくれない”という障害が必要となるでしょう。


「家族だけでなく、住民全体を避難させなくてはいけないわ。でも町長のお父さんが絶対に信じてくれない」と、三葉が悲鳴を上げるケースです。


 そこで瀧君は、三葉と住民たちを救うための、より詳しい情報を得るために、飛騨地方の現地へと赴くことになるのではないでしょうか。


 つまり、現地へ出向いて初めて大災厄のことを知るのではなく、最初から、なんとかして三葉たちを救う方法はないのかと考え、その具体的な手立てを探るために現地へ向かい、もうひとつの時間移動手段である“口噛み酒”のある“御神体”に到達する……という行動の方が妥当であると思われるのです。


 そうしますと……

 2013年の10月4日に大災厄が訪れる、その何日か前には、2013年の三葉は大災厄の到来を知り、2016年の瀧君と情報を共有、互いに協力して町民避難の計画を立案し、実行に移すための時間の余裕を得られることになったと思われます。


 前述しましたように、10月4日の設定を、“秋祭り”でなく“夏祭り”にしておけば、夏休み中の数日間を使うことができ、授業が無いので行動の自由を得られ、友人のテッシーたちを説得する時間も十分に作れたでしょう。その方が、観客として理解しやすい設定であったと思われるのですが。

 実際の作品では、災厄当日の朝から登校し、おそらく授業を経て放課後までの数時間でテッシーを説き伏せて段取りを組み上げているのですが、そこまでスピーディに物事を進められるのか、さすがに疑問に感じますから……。


 ともあれ、『君の名は。』の映像を見る限り、魂の入れ替わりによる二人の交際期間が一か月あるのですから、“年代のズレ”と“大災厄の事実”に気付くには十分であり、二人はもっと早く住民の避難計画を検討することができたと思われるのです。






  【次章へ続きます】








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