50●『大YAMATO零号』(3)……“軍艦”でないことの不思議
50●【アニメ】『大YAMATO
西崎ヤマト&リメイクヤマトと、大YAMATOの違いの根幹は……
まさに松本零士らしさ、
どう違うのでしょうか。
なによりも、大YAMATOの艦長以下、乗組員の立場が、まるで違います。
大YAMATOの艦長たち幹部乗組員は、もともと優秀な軍人だったのが、さまざまな特殊事情でスピンアウトしたクセモノ揃い。
他の乗組員もみな、地球をはじめ、それぞれの星系社会からはみ出した奇人変人。
軍人モドキだけど、軍人ではない、正確には全員が民間人なのです。
それも、有能だけど、枠にはめられるのが大嫌いな自由人ばかりです。
アウトローみたいな、ヒッピーみたいな、素浪人みたいな人々。
つまり大YAMATOは異能者ばかりが集まった、自由意志のフネ。
だから「フネを降りたい者は丁重に地球へ送り返せ」との指示が、最初に徹底されます。
そしてフネそのものも……
軍が建造したのではなく、地球を訪れた善意の異星人がこっそり、コツコツと秘密裏に建造したという来歴が触れられています。
ということは、大YAMATOは、車検を受けずナンバープレートももらっていない、非公式の民間船……。
つまり、不思議なことに大YAMATOは……
軍隊に属する軍艦ではないのです。
一艦で独立した海賊一家みたいなもので、私掠船に近いですね。
私掠船とは、……すなわち、特定の国家から私掠免状をもらって、敵国の船を“合法的”に襲撃し略奪して戦争に協力する海賊船のことです。
17~18世紀あたりの英仏で、よく見られました。
ある王国政府が、戦争している敵国の船を、個人営業の海賊船に襲わせる。
その海賊行為は合法とする。戦果を上げれば褒めてやる。
そういう仕組みですね。やってることは海賊で変わりありませんが。
要するに個人で軍事協力(通商破壊)する海賊船です。
実在人物として、19世紀初頭のフランスの海賊ロベール・シュルクーフが有名。
第二次大戦のフランス潜水艦シュルクーフの名称の由来となった人物です。
潜水艦は、数奇な運命の末に映画『ローレライ』(2005)に出ていましたね。
と言うことで大YAMATOは……
正規の軍(地球防衛軍とか)に所属する宇宙戦艦ヤマトではなく、ハーロックやエメラルダスの宇宙海賊船の方に近いのです。
だから、アルカディア号の翼を授けられているのではないでしょうか。
大YAMATOは、軍人が操る軍艦ではない。
この点、とても大事です。
大YAMATOは
命令に対する拒否権を有し、好きな時に上官に発言し、正々堂々と単独行動に走ることのできる、かなり奔放な自由性を発揮するのです。
こうなると、同じ戦争でも『銀河英雄伝説』あたりの軍艦とは全く異なります。
『無責任艦長タイラー』の駆逐艦そよかぜも、無責任と言いながら、上官の命令にはちゃんと服従していましたね、ときどき叛乱しましたが、それは明らかに“叛乱”として処罰の対象となっていました。
ところが大YAMATOは、断固として平然と、わが道を行きます。
命令を受けて「了解」と返答しながらも、忠犬ポチな服従精神に陥りません。
自由意志で行動します。
誰かに命令されて、唯々諾々と操られる存在ではないのです。
正義の行動を旨として、理不尽な命令はしれっと無視するか、跳ね返す。
まさにハーロック的な「宇宙の海は俺の海」の精神なのです。
母国とはいえ、ちっぽけな地球の政府に従う義理もありません。
それなのに、地球を救うために一肌も二肌も脱いで活躍します。
たとえ地球が明日の(希望の)無い星であっても「やはり守って戦う」覚悟があるのです。
ここが、西崎ヤマトにない、松本ヤマトたる大YAMATOのキモなのですね。
大YAMATOは自由意志のフネですので、軍隊的な統率は不得手です。
ちょっとしたきっかけで、各自がバラバラになるリスクをはらんでいます。
大YAMATOの良いところは、作中で、その場面を描写していることです。
第四話で、白亜帝艦が地球を襲うことがわかり、遠く離れた大YAMATOの乗組員に動揺が走る場面ですね。
艦内大反乱の危機が訪れ、あわや『ケイン号の叛乱』(1954)になりそうなところで、一人の中年リーダーが事態を収めます。
その手腕たるや、まことに昭和的。たいしたものです!
その成功の影に、日ごろからそのリーダーが部下をどれほど可愛がり、部下のために命を懸けてきたのかが察せられます。
浪花節……と言ってしまえばそれまでですが、これぞ松本スピリット! と感嘆させられるのも確か。
昭和の遺物、と片付けてもいいのでしょうが、俺は感動するぞ。
大YAMATOは軍艦ではありません。
艦長オズマを父親とした“一家”であり、“大家族”の風格が感じられます。
能力主義ではありますが、年功序列で終身雇用な空気が濃厚に漂っています。
年功序列と終身雇用は、決して悪弊とは思いません。
「いったん採用したら仲間として育てる、悪さをしない限り、ここに置いてやる」
そういう仕組みですね。
採用した側が、人材育成に責任を持つシステムでもあります。
否応なく、“年功に応じた能力”を身に付けさせねばなりませんから。
20世紀末に非正規雇用が一般化してから、年功序列と終身雇用は突然にブラックな制度の元凶みたいに蔑まれるようになりましたが、人を育てずにサクサクとクビにする現在の能力主義の方が、よりブラックだと思いもするのですが。
ともあれ、大YAMATOはひとつの“家”。
そうですね、これは極めて“昭和的”な宇宙戦艦なのです。
【次章に続きます】
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