49●『大YAMATO零号』(2)……これはもう伝統芸能
49●【アニメ】『大YAMATO
松本零士先生の、本来あるべきヤマトのイメージを具現化したかのような、『大YAMATO
なにゆえ“本来あるべきヤマト”なのかというと、まずはキャラ設定。
登場キャラの造形が、間違いなく松本キャラなのです。
視ればわかりますよね。
20世紀の西崎ヤマト、そして21世紀のリメイクヤマトも、キャラクターの顔が、それぞれの時代におけるイケメンキャラ風に加工されていました。
西崎ヤマトは、当時の熱血スポコン漫画風、リメイクヤマトは特に女性キャラが萌え風にリファインされていますね。もともとの、筆っぽいデフォルメの輪郭線を基調とする松本キャラを素顔とすれば、それなりにメイクして“盛った”(あるいは“盛り”を取った)キャラになっているわけです。
そこが、大YAMATOでは、こだわりの効いた純正な正調・松本キャラ!
これは嬉しい。
もうそれだけで、DVDボックスを買う価値アリです。
しっかりと松本キャラに忠実に造り上げたアニメ作品は、他に『ザ・コクピット』があるくらいですから。(あ、後述の『松本零士 オズマ』も秀作ですが)
正調・松本キャラの作画、これはもう重要文化財です。
メカの作画もまさに大松本重工製といった感じでGOOD。
例えばTVアニメの『SUBMARINE SUPER99』(2003)は、ほぼ現代の海洋を舞台としていますので、艦船のデザインが実在の既製品っぽいものに制約されます。しかもそれら艦船の作画がまるで子供の粘土細工でして、相当に残念でした。それだけで観る気が萎えます。バチスカーフはしっかり描けていましたが、一万メートルの高水圧の深海で「メインタンク・ブロー!」というのは、ちょっと疑問ですね。
『松本零士 オズマ』(2012)は、砂に潜る
その意味でも『大YAMATO
松本キャラと松本メカに徹した作画は、たぶん、萌えキャラに慣れた令和の観客層には響かないのでしょうが、昭和の松本作品を知る世代にとっては、こうでなくては松本作品と言えません。
この正調・松本キャラでなかったら、『大YAMATO
そこで、物語は……
われらが
一、宇宙の龍、メタノイドラッケン。
二、見えない敵、影の艦隊。
三、聖帝ザリク率いる白亜帝艦。
四、宇宙の軍隊蟻、メタノイドインセクター。
これら凶悪な侵略者に対して、A銀河軍の切り札となるべく地球から単艦で参戦したのが、大YAMATO
知恵と勇気だけでなく、義理と人情も駆使して、強敵を撃退します。
各エピソードの内容はシンプル。
いかにして敵を倒すか、基本はそれだけですね。
強大な敵が
古代ローマの元老院を思わせるA銀河の指導者たちは、あわてふためき、嘆き絶望し、強がったりケチをつけたり、さまざまな戦略・戦術の知識をひけらかします。
しかし例によって、指導者の議論は、戦局に何ら貢献することはありません。
まあつまり、最前線の現場にはケほども役に立たないわけでして……
とはいえ総力を投じて敵を迎え撃たんとする
さすがに大勢力となり、旗艦に陣取る総司令官はムフフと余裕の笑み。
しかし鎧袖一触……されてしまうのは防衛艦隊の方でして、勇戦虚しくボコボコにされます。
味方なのにガミラス並みに青ざめて戦意を失う総司令官。
画面が転じて敵艦隊の総司令官、グワッハッハと呵々大笑します。
ときに「ちょこざいな」が口癖の敵将もおられて、この人、好きですよ。
悪役ってこうでなくちゃ、な振る舞いなのです。
そして威風堂々と登場する大YAMATO
敵と渡り合い、いい勝負しますが、諸般の事情で形勢不利となります。
ピンチだ頑張れ大YAMATO!
そんな観客の声援に応えて、心強い助っ人が登場。
この助っ人、理由もなく現れるのではありません。
大YAMATOに乗り組んでいる誰かさんと古い関係があり、そこに義理と人情の熱い絆があったのです。
西崎ヤマトの真田さんのクリソツキャラさんと、街のロボットをめぐる友情秘話とか、どうみてもデスラーのクリソツさんが“デスラーの恩返し”みたいな美談を残してくれます。
そして、大YAMATOと義理堅い助っ人さんがガッチリスクラムで協力、決定的なパンチを敵にお見舞いします。
見事に敵をノックアウト、銀河の果てへブッ飛ばします。
めでたし、めでたし……
だいたい、そういったパターンです。
え? ワンパターンすぎてつまらないって?
そんな声、ネットに散見します。ごもっとも。
この作品のネット評価を見ると、最高か最低に二極分化していまして、まさに賛否両論。
しかし、だから、いいのです。
ここは普通のSF宇宙空間ではありません。
きっと、大松本宇宙の大松本銀河なのです。
西崎ヤマトの定石がてんで通用しない大松本ワールドなのです。
ましてや21世紀のリメイクヤマトの科学的考証の複雑さに比べると、もうまったく物理的前提が異なる異次元の世界。
サイエンスというより、ファンタジー、それともポエム?
いやむしろ、それは哲学。
松本フィロソフィと言うべき精神世界ではないかと思います。
つまりですね、大YAMATOの物語は、いまどきのスペオペアニメじゃなくて、形式的にはほぼ、水戸黄門か大岡越前か遠山の金さんか鞍馬天狗。
ヒーローは必ず正義の味方であり、決まった時間に印篭とか桜吹雪の背中なんかを見せたりして、これでもかと勝負をつけます。
そう、スペオペじゃなくて時代劇なのです。
(といっても両者、やっぱり同じようなものか)
時代劇にして、しかも義理人情の浪花節なのです。
あるいは歌舞伎の定番作品とか。
決まった役者が決めポーズで大見得を切って喝采を浴びる、あれですね。
『大YAMATO
21世紀のリメイクヤマトが『М-1グランプリ』ならば、大YAMATOは『笑点』か古典落語。
そのように理解すればいいのではないでしょうか。
古典落語や歌舞伎の桟敷席に座る気分で観賞すべき作品……ということですね。
【次章に続きます】
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