アニメOVA『大YAMATO零号』(2004-2008)

48●『大YAMATO零号』(1)……“松本ヤマト”の真骨頂

48●【アニメ】『大YAMATOゼロ号』(1)……“松本ヤマト”の真骨頂




 憶えていますか、あの大YAMATOの偉大なる旅路を。

 大銀河を睥睨するあの壮大華麗な雄姿を。

 どこかメチャクチャだが、いざとなればちゃんと仕事するド根性の乗組員を。

 今、万感の思いを込めて望郷する……


『大YAMATOゼロ号』よ、甦れ!


 知ってる人は知っている。

 知らない人はやっぱり知らない。

 そんな、損な存在のOVA作品、『大YAMATOゼロ号』。

 “宇宙戦艦ヤマト”でググッても、てんで出てこない哀しさよ。

 かく言う私も、大YAMATOは長らく記憶のわだつみに沈んでいて、最近になってようやくDVDボックスを手にした次第ですが……


 改めて、想うのです。……あのころはよかった、と。


 OVA、全5話。各話40分程度。

 制作は2004~2008年。

 原作、総設定、デザインは松本零士先生ご本人。こうでなくちゃ。

 そして大YAMATOの艦長の声は、なんと、ささきいさお兄!


 この作品、制作にあたり、いろいろと事情があったようです。

 もともと『宇宙戦艦ヤマト』シリーズの一環として西暦2000年に松本零士先生によって雑誌連載された漫画『新 宇宙戦艦ヤマト GREAT YAMATO』(未完)が嚆矢となり、翌年にはイメージアルバムともいえるCD『交響組曲 新 宇宙戦艦ヤマト』が発売され、それらをベースとして、本格的なアニメ化が構想されたということです。

 しかしこれに前後して、TVシリーズの原作者としてクレジットされている西崎義展氏との間で作品の著作権をめぐる訴訟騒動があり、2002年に西崎氏側が勝訴したことから、従来の『宇宙戦艦ヤマト』とは別個の独立した作品として仕切り直された結果、『大YAMATOゼロ号』として、5話分を制作、発表されたということのようです。


 だから、ヤマト似だけれど、ヤマトじゃない、“大YAMATO”ということですね。


 ちょっと、ややこしい……

 しかし、だからこそ、それまでの“西崎ヤマト”のパターンから否応なく解脱した、破天荒なまでに特別な“大YAMATOゼロ号”が誕生したと言えるでしょう。

 つまり、西崎ヤマトではない、まさに“松本ヤマト”の真骨頂。

 結果的に、これでよかったと思います。

 あくまで個人的な感想ですが、アニメの“西崎ヤマト”には、1975年に松本零士先生が出されたコミックと比較しても、どこか物足りない感じがありました。

 具体的にはうまく言えませんが、“松本零士らしさ”とも言うべき、作品のスピリットにあたる部分が、ちょっと違う……ということです。


 その“物足りない点”を引き摺ったまま、いや、むしろ拡大させながら、劇場作品やОVAで、『さらば』→『新たなる旅立ち』→『永遠に』→『完結編』→『YAMATO2520』と20世紀を駆け抜けて(2009年には『復活編』)、終わりそうで終わらない、なんとももどかしい迷走を続けてしまったのが、“西崎ヤマト”ではないでしょうか。

 ああ、DVDを観るにつけ、順番の前後がわからない。

 ヤマトは今、どこの宇宙をさまよっているのだろう……と。

 その結果……

 最初から物足りなかった“松本零士らしさ”がますます希薄になっていき、とうとう“松本抜きのヤマト”に転身してしまったと思われます。


 『大YAMATOゼロ号』は、それら一連の“西崎ヤマト”に対するアンチテーゼであると思われ、ある意味、“変異種”ともとらえられますが、今のところ唯一の、「原作:松本零士」で完成されたヤマトアニメであることは確かでしょう。


 つまりこれは、特別なYAMATO。

 西崎ヤマトからたもとを分かったことで、“松本スピリット”とでも呼びたい何かを宿した、“本来あるべきだったYAMATO”が結実した一例なのですね。

 この作品、だからアニメ史上、貴重な逸品だと思うのです。



 大YAMATO、その雄姿ときたら……

 私の主観的目測ですが、全長が二千メートルはありそうな超巨大艦。

 ぱっと見には、ほぼほぼ宇宙戦艦ヤマト、と思いきや……

 砲塔の数や翼状構造物の配置など、ディテールは西崎ヤマトと比べて“似て異なる”デザインとなっています。


 サイズがやたらデカいのは……

 艦体の中に未整備の余剰空間が多々残されており、今後の必要性に応じて、兵器や機関、格納庫や工作施設、研究施設などを自在に増設して近代化改装が可能な、いわばフレキシブルに“進化する船”とされているからと考えられます。

 家を建てるときにお庭を広くとって、適宜増築できる余地をみておくようなものですね。

 これは大事な視点だと思います。

 艦内容積にゆとりがないと、時代の変化に合わせた兵装や機能の増強についていけず、結局、まるごと廃艦にして、代わりの新艦を建造することになるわけですから。


 ところで21世紀の“リメイクヤマト2199年”の全長は333メートルだとか。

 東京タワーと同じですね。

 それでは明らかに小さすぎます。

 多数の艦載戦闘機の格納庫や整備スペース、補給品の倉庫や備蓄タンク類だけでも、その程度の全長では収めきれないでしょう。少なくとも千~二千メートル以上の全長がなくては、まともな収納キャパが確保できないと思われます。


 ちなみに米国で最新鋭のジェラルド・R・フォード級空母は全長337メートル。

 空母機能だけで、このサイズです。

 ヤマトは、これに波動エンジンや波動砲やショックカノンを“盛る”ようなもので、キャパ的には全然ムリだとわかりますね。


 『トップをねらえ!』のエクセリヲン級が全長7キロメートルあまり、これがむしろ、宇宙戦艦としては理にかなったリアルサイズだろうと思います。

 活動範囲を星系内に限る、海防艦的な用途なら、西崎ヤマトなみに小さくてもいいでしょうが……


 そんな、諸般のムリムリを解消して、でーん! と太っ腹な艦型を選択したのが大YAMATO。

 納得至極です。


 そして、西崎ヤマトとの外見上の最大の相違点は、固定式の主翼があること。

 艦体前半部には、超巨大フリスビーをパックンとくわえ込んだような、半円形の円盤構造が左右両舷に生えています。TVのヤマト第一話に出て来たサーシャの船に似ていますね。

 これ、本来の用途は翼ではないことが作中で明らかにされますが、補助翼的な機能も兼ねているのでしょう。大気圏内を飛行すれば、揚力を生み出しそうな形状です。艦首の姿勢を安定させる効果もあるかと思います。


 そして艦体後半部には……

 どうみてもハーロックさんのアルカディア号から取って付けたとしか思えないマンモスなデルタ翼が、左右両舷にドカッと広がります。

 す、すげえ……

 しかも、でかい……

 初めて見たときは、なんとも人を喰ったデザインで、ヤマトディア号とでも呼んであげたくなるような造形です。

 銀河系社会の指導者たちや乗組員自身もこの翼には驚いたようで、作中で「なんだこの翼は?」みたいなセリフも聞こえてきます。

 アルカディアな主翼、なにかと物議を醸していたようです。

 観客の皆様の好みも分かれているようです。

 まあしかし、いいじゃないですか。私は好きですよ。

 西崎ヤマトのお腹からチョロチョロと出し入れする、いかにも中途半端なサイズのデルタ翼よりも、ずっと潔くて清々しい姿です。

 真空の宇宙を飛ぶ戦艦に翼はいらない……という固定観念を笑い飛ばす、爽快さですね。

 そりゃ、真空の宇宙を飛ぶのに、基本的に翼はいりませんよ。

 でも、あって困るものじゃなし。

 大気圏内飛行をする機会はまれとはいえ、惑星降陸戦わくせいこうりくせんとかで、たまにあることはありますよね。

 だから一応翼はほしい、しかしそのために翼の折り畳み収納システムという、故障の元凶にもなるデッドウェイトを抱えなくても、終始翼を「出しっぱ」にしておけばいいじゃないか、という、気持ちスッパリとした選択なのでしょう。

 この開き直り感、松本メカらしくてGOODです。

 銀河鉄道だって、なんであんな形の宇宙汽車が走っているのか不自然に見えますが、真空の無重量空間なのだから、どんなスタイルでも基本オッケー。

 あらゆる異形も通用する大宇宙、太っ腹です。

 この大YAMATOゼロ号、大松本造船所様が大宇宙に送り出した数々の航宙船の中でもピカイチの集大成仕様だと思うのですが、いかがなものでしょうか。


 なんといっても、艦首の巨大砲口に輝く“大”の文字が立派。

 男気がありますなあ。

 関西人にとっては、大和地方の大、大阪の大、京都は大文字送り火の大、大丸百貨店の大、ということで、気持ちなじみます。

 それに大きいことは、いいことです。特に大砲は。

 男なんですから。



  【次章へ続きます】




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