『超時空要塞マクロス/愛・おぼえていますか』(1982-1984)は、「オタクの方舟」。

143●『超時空要塞マクロス/愛・おぼえていますか』①…嗚呼、不滅の三角関係

143●『超時空要塞マクロス/愛・おぼえていますか』①…嗚呼、不滅の三角関係




 TVアニメ『超時空要塞マクロス』(1982-83)

 劇場版『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』(1984)


 今さら議論の余地なき、不滅の金字塔ですね。

 凄いのなんの。

 もしも未見の方がおられたら、その御不幸に「ご愁傷さま」と哀切の意を申し上げたいほどの超名作。

 『宇宙戦艦ヤマト』(1977)、『機動戦士ガンダム』(1979)で、子供だましに終わらないオトナのアニメに目覚めた当時の中高生(特に男の子)に三発目のサードインパクトをドカンと食らわせてオタク文化の熱狂に着火させた、いわば、“オタク爆誕アニメ”。

 それまでは社会の片隅に迫害されていたエルディア人みたいな悲しい存在だったアニメファンたちが、隠れキリシタンな仮面をかなぐり捨てて、堂々とアニメ文化の担い手を標榜するようになった、まさにその一時代を創った作品ですね。

 社会に居場所がなく、哀れなさすらいの民族だったアニメオタクたちの前に、ついに現れた約束の地。

 それが『超時空要塞マクロス』だったのです。


 にしても、2023年の今からみて、もう40年前の作品です。40周年。


 しかし一片たりとも朽ちてはいません。

 劇場版の『愛・おぼえていますか』に至っては、観るにつれ、ため息。

 21世紀のアニメに、この超絶の名作を超える作品があるとは思えないほど。


 同じ1984年と言えば、『風の谷のナウシカ』が公開されていました。

 翌年の1985年には猫キャラの『銀河鉄道の夜』、そしてOVAの『メガゾーン23』、これらに先立って、劇場版の『銀河鉄道999』(1979)、『地球へ…』(1980)、『クラッシャージョウ』(1983)、もありましたね。いずれの作品も輝きを失っていません。ホント、素晴らしい時代でした。

 どう素晴らしいかというと、アニメファンが未来への希望に燃えていたのです。

 今はいい歳したオトナたちにバカにされていても、いずれ必ず文化の表舞台に立つ作品が生まれるはずだと。

 それらの中でも、マクロスはひときわ輝く、あかつきの明星だったと思います。


 なんといっても、あれから40年になるというのに、中古のDVDやCDが、困ったことにてんで値崩れせず、当時の正価と同じかプレミア付きで流通していること。初代ファーストマクロスの人気がいまだに衰えていないことを物語ります。

 今、あってほしいのは、TVシリーズ36話分の画像をリタッチして、作画の乱れを綺麗に修正した完全版ですね。デジタル作画技術とAIの応用で、かなり、できるんではないでしょうか。それをぜひ再放送していただきたいものです。もちろん日曜の午後二時なんかではなく、週末の夜とかに、ですね。


 思えば、宇宙戦艦ヤマトは『ヤマト2199』(2012-13)として全編リビルドされて成功しましたね。ガンダムも『THE ORIGIN』(2015-18)として大事な部分がリビルドされましたし、エヴァも『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』(2007-21)四部作としてリビルドされています。

 初代マクロスのTVシリーズも、劇場版『愛・おぼえていますか』の、TVとは異なるストーリーをうまく融合させて、最新のテクニックで全編をリビルドしてくれないかなあ……

 そう、『甲鉄城のカバネリ』(2016)の、あのクオリティで。

 40周年を機会に、ぜひ、と思うのですが……


 いまだに実現していないのは、再制作にあたって、著作権その他の権利関係の複雑さが、いろいろとややこしいのかと想像されますが……


     *


 で、マクロスが、どう凄いかというと……


① “スタジオぬえ”原作による壮大にして緻密なSF設定とメカ設定。

……“戦闘機⇔ロボット”の変形を精密に実現したバルキリー。人型ロボットに変身する理由が“敵兵士と身長を合わせる”という大納得。そして五十万年の太古に起因する地球人とゼントラーディ人の関係、その伝説、そしてゼントラーディ語まで構築する徹底ぶりに感服するしかありません。


② 板野一郎氏による、板野サーカス。

……言わずもがな、「子供たちの動体視力を向上させた」(『BSアニメ夜話』2005)と讃えられるほど芸術的にして超絶の空中戦シーン。その後、劇場版の『ULTRAMAN』(2004)では実写CG映像の板野サーカスが堪能できます。ゴジラに特攻する震電も結構ですが、こちらの怪獣と闘うF-15こそ、ド根性の空中格闘戦を感じさせますね。


③ 羽田健太郎先生による音楽。華麗なるハネケンサウンド。

……マクロスはやはり、ハネケン先生のサウンドあればこそ。TVシリーズではミンメイの歌の作曲もこなされているので、全編にわたって、BGMと歌唱が統一されたテイストで構成され、いわば、アニメでミュージカルを観るような斬新な演出です。

 1980年代当時は、劇団四季の『キャッツ』や『コーラスライン』、あるいは『ラ・マンチャの男』『ピーター・パン』などのミュージカルが盛り上がっていました。その時期に映像と音楽の総合芸術として『超時空要塞マクロス』を完成された功績、絶大だと思います。しかも音曲の格調の高さが別格。一大スペースオペラとして舞台化し、ミュージカルとして上演されても十分に成立したでしょう。

 アニメ作品とミュージカルの融合は、田中公平先生作曲による『サクラ大戦』(アニメは2000年)と一連の舞台作品に見事に結実していましたね。マクロスはその意味でも先駆的な意欲作だったと思われます。

 ハネケン先生は2007年に58歳で他界されました。ただただ悲しく悔やまれます。存命されていたら、神的かみてきに尊い交響曲の新作をお聴きすることができたでしょう。


④ 美樹本晴彦氏によるキャラ造形、超次元アイドル・ミンメイの降臨。

……1980年代は、アイドルの時代でした。1980年ひとつとっても、松田聖子、河合奈保子、三原順子、岩崎良美、柏原芳恵さんなどがデビューされています。三次元のリアル・アイドル全盛期ですね。そこへ、なんと二次元の動画で彗星の如く登場したのが、われらのリン・ミンメイ!

 つまり、三次元でなく二次元の、超次元アイドル・ミンメイのご降臨です。

 二次元のアイドル歌手としては『金髪のジェニー』(1979)が先行作かもしれませんが、そちらはフォスターの古典歌謡ですから、やはり現代のアニメアイドルとして完成形を示したのはリン・ミンメイが元祖で本家ということになるでしょう。

 なによりも、美樹本晴彦先生の手になるキャラ造形。ステージで歌うミンメイの表情の豊かさとともに、少女の可愛さと色香の境界スレスレをいく、蠱惑的コケティッシュなポーズとカメラ目線が、三次元のリアルアイドルを完璧に超越していました。『♪私の彼はパイロット』あたりでズキュンとハートを射抜かれた男子、続出したのでは?


 ミンメイの素晴らしさは、やはり二次元であることです。

 二次元キャラは不老不死ですから、まさに永遠のアイドルとして、いつまでもバーチャルの世界に生きることができます。キャラデザインを継承してリビルドすれば、永遠に新曲を出し続けることが可能なはず。

 中古のDVDやCDの価格をみれば、マクロスとミンメイの人気がまるで衰えていないことが証明されるのではありませんか? 彼女は永遠性を獲得しているのです。


       *


 ということで、上記の①~④の要素が揃ってこそのマクロスです。

 しかしそれに加えて、第五の要素、これも欠かせません。

 初代マクロスの、いわばフィフス・エレメントは……


⑤ ヒカルと未沙とミンメイの、不滅の三角関係。

……とりわけ、TVシリーズの第28話『マイ・アルバム』から第36話の最終回に至るまでの全9話分は、ひたすらに主要キャラ三人の三角関係に終始します。

 ウィキペディア等によると、28話以降の9話分は、急遽放送が延長されたことで付け足されたエピソードであるとされています。いわば付録。

 そして、そこで描かれたのは、もっぱら三角関係のラブコメでした。

 バトルアクションは全般に地味目で、最終話も圧巻の演出ではありましたが、盛大な大団円というほどではなかったようです。三角関係も完全に納得できる決着という感じではなく、敵のミサイルが降る真っ最中に「何のために歌うの? 何のために戦争するの?」と、やや説教じみた口論が、どこか強引でかつ中途半端な印象で……


 それゆえに「本来のストーリーは第27話『愛は流れる』が実質的な最終回」と認識されて、あとは金魚のフンかトカゲの尻尾みたいな蛇足扱いに甘んじてきたような……。

 上記の要素の①と②は、2007年の『BSアニメ夜話』で熱く語られていましたが、三角関係の深さは、全36話のうち四分の一の9話分も使われた割にはあっさりと「予想を裏切る結末でしたね」と評されておしまいだったと思います。


 しかしこの三角関係、考えてみると、物凄く重要だったのでは?


 この“トカゲの尻尾”な9話分があり、その後に劇場版の『愛・おぼえていますか』が続いたからこそ、ミンメイのアイドル性に、神格化ともいえる永遠性が備わったのではないか?

 そんな気もするのです。


 初代ファーストマクロス40周年を機に、少し考察してみましょう。


 といっても、私の個人的な独断と偏見の感想です。


 




   【次章へ続きます】


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