144●『超時空要塞マクロス/愛・おぼ…』②…恋のウワバミ? 未沙の暗闘。
144●『超時空要塞マクロス/愛・おぼ…』②…恋のウワバミ? 未沙の暗闘。
主人公ヒカルと、未沙&ミンメイの三角関係。
TVシリーズの第28話『マイ・アルバム』から最終回の第36話『やさしさサヨナラ』までの九話分(なんと全体の四分の一!)が、この三角関係の物語に捧げられています。
では、いつからこの三人の三角関係が始まったのでしょう?
じつは第27話『愛は流れる』では、死を覚悟して出撃するヒカルがミンメイに「好きでした」と告白し、ミンメイが戸惑って「友達だと思ってた」と拒否っています。
そしてお互いに心の中で、「さよなら、ヒカル」「さよなら、ミンメイ」と独白して恋愛感情に決別しています。いや、決別しようと努力しています。
つまり、第27話までは、「未沙→ヒカル←ミンメイ」という、明確な三角関係は成立していなかったのですね。
となると、第27話の後半で、地球へ降下したヒカルが未沙を救助して、二人の心に新たな絆が生じてから、三角関係が形成され始めたことになります。
続いて第28話となり、物語世界では二年が経過、平和を手にした“戦後”の世界で歌手として“落ち目”を自覚し始めたミンメイがカイフンとの関係に亀裂を生じて、ヒカルに思いを寄せるようになったことで、三角関係が出来上がったと考えられます。
したがいまして、“戦後”を描く九話分は、まるごと三角関係物語。
三角関係の発生と、その解決が、最終話までのストーリーの主軸となります。
未沙とミンメイの恋の闘いが壮絶に展開します。
恋愛こそ“平時の戦争”ということでありましょう。
*
さて、未沙(19歳→戦後は21歳)とミンメイ(15歳→戦後は17歳)、この二人のヒカル(17歳→戦後は19歳)に対する“愛し方”には、根本的な違いがみられます。
二人の、ヒカルに向けた愛のスタンスは、こうでしょう。
未沙は……「あなたを愛したい」
ミンメイは「あなたに愛されたい」
この差異が、作中にくっきりと描写されていきます。
まず未沙の場合です。
彼女は12歳にしてイケメン軍人のライバー君に初恋をします。
しかしライバー君、あえなく戦死。
死別という衝撃的な出来事でかけがえのない初恋を壊された記憶は、未沙の悲しいトラウマとなっています。
これを解決するため、彼女が“ライバーさんの代わり”、すなわちライバー2号となる人物を求めるのは当然のなりゆきでした。
未沙は物心ついたときから、ハイレベルのエリート志向。
それゆえ、自分の失敗を絶対に認めません。
『2001年宇宙の旅』のHALさんか、ニッポンの某ソーリみたいなものです。
彼女の中で未完に終わった初恋は、良き形で完成しなくてはならないのです。
当初、ライバー2号の候補はカイフン氏でした。
面影が似ていたからでしょう。
しかしカイフン氏は大のドがつく軍人嫌い。
店内の乱闘でケガした彼に未沙が差し出したハンカチを、すげなく辞退します。
しかもミンメイとの、結婚を前提にした交際を標榜する始末。
これは……無理。
カイフン戦線から、未沙はひっそりと撤退します。
しかし、いったんライバー2号を求め始めた未沙の心は、止められなくなります。
そこで、カイフンのかわりに、ライバー2号として白羽の矢を……というよりも、ほぼ、“槍玉に上げた”のがヒカル君でした。
つまりヒカルは未沙にとって、「ライバーの代わりのカイフンの代わり」だったのですね。ヒカルがそれを知ると、さすがに気を悪くしたことでしょう。
とはいえヒカルは、同じ職業、同じ組織の、自分より地位の低い部下です。
しかもライバーと違って、二歳も年下。
思えば、安易すぎた選択だったとの批判を免れないのではないでしょうか。
彼女は飢えた猛禽の如く、最も手近な若い燕に手を出してしまったのです。
これは誇り高い未沙にとって、初恋を完璧に成就させるための恋愛。
だから、愛する主体は
自分に愛されるヒカルの都合は、まるきし考慮していません。
しかし、そのことにてんで気づかない未沙は、自分が“愛の押し売り女”と化してしまう危険性が見えなかったのです。ああ恋は盲目。
未沙も基本的に善人です。純真なお嬢様です。だからこそ、ミンメイに対する恋のさや当てが暴走しているとは、夢にも思わなかったのでした。
未沙は第28話『マイ・アルバム』から、早速ヒカルに愛の大攻勢をかけています。
頼まれてもいないのに、ヒカルの家にシレッと上がり込み、掃除に整理整頓、おそらく洗濯も、ときにはお夜食も作ってあげたことでしょう。
そして室内のミンメイのポスターに気づくや、サカサマに張り直すイジワルさ。
ヒカルのアルバムを無断で覗き見。ミンメイの写真ばかりと気づくや、自分のベストショットの写真を何枚もヒカルに渡します。
次の回で、ヒカルが「あの写真、アルバムに貼っておいたよ」と話していますから、それまでチクチクと「あの写真、どうなさったの?」とか、探りを入れていたのでしょう。
このように、ヒカルに一切の見返りを求めることなく、ヒカルの世話を徹底的に焼きまくる未沙。
その行為は無償の愛、かいがいしいまでの善意です、それは確か。
しかし要するに、彼女がやっていることの本質は……
ヒカルからミンメイの痕跡を拭い去り、自分との思い出で上書きさせること。
周到な作戦、まさに未沙らしい、戦略的恋愛ですね。
ヒカルは哀れ、蟻地獄の蟻と化してしまいました。
自分の持ち物は勝手に整頓され、引き出しは勝手に開けられ、おそらくエロ本やHビデオの隠し場所も露見しています。
自分のパンツまで洗濯され、部屋には未沙のフレグランスの残り香が漂います。
そして、じわじわとゴミ箱へ追いやられる、ミンメイ関連グッズ。
ミンメイが地方のドサ回りでマクロスシティを留守にしたのをチャンスとばかり、未沙のヒカル攻略作戦は一歩また一歩と進行してゆきます。
事あるごとに未沙はヒカルにささやきます。
「私たちってケンカしてばかりね、私ってイヤな女よね」
いやいやもう、本心のはずがありません。
「そんなことないよ、仲が悪いはずがないよ、君はいい
こんな状態が半年や一年も続いたら、着々と積み重ねられた既成事実によって、まるで真綿で首を絞められるように、ヒカルは陥落してしまうでしょう。
……未沙なくして、ボクの生活は成り立たない、未沙はとてもいいひとだ……。
ほぼマインドコントロールなのですが、ヒカルは未沙の押し売りサービスを断ることができません。上官のせっかくの好意を拒否ってトラブルのは避けたいからです。
これぞ、“押しかけ女房&世話女房”作戦。
そして目指すは、リアル“姉さん女房”!
その作戦の粘り強さには、年増の貫禄(ごめんなさい!)すら漂います。
しかしヒカルは元来、ヒコーキのフライトとバトルは断然得意でも、それ以外については自分で物事を断行できない優柔不断な性格です。心根が優しくて相手を優先させてしまう。しかしミンメイの歌『やさしさSAYONARA』そのままに、彼の優しさは「弱さの裏返し」でもあるのです。
だから、ミンメイへの未練を断ち切る決断力がなく、ずるずると引きずります。
ミンメイはどうしているかな、困ったことがあれば助けてあげなくては……と。
ここで未沙、カチンと来ます。
この私の眼を盗んで、二人はこっそりと逢引きしてるんだわ……
そんな疑いがムラムラと……
【次章へ続きます】
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