145●『超時空要塞マクロス/愛・おぼ…』③…未沙のパワハラvsミンメイの“おねだり”。

145●『超時空要塞マクロス/愛・おぼ…』③…未沙のパワハラvsミンメイの“おねだり”。



 そこで未沙のウワバミ度、エスカレートします。

 第30話『ビバ・マリア』では、ヒカルに「命令」して自分にキスをさせます。

 「人前ではいやだ」とへっぴり腰のヒカルに……

 未沙、やる気満々のガブリ寄り。

 「私にキスしなさい」と命じておきながら、自分から猛然と“攻めキス”!

 これぞ肉食系猛禽類の所業です。 


 しかし以前(ただし劇場版の方です)、ゼントラーディの捕虜となり、逃亡する途中で咄嗟にヒカルに抱き寄せられてキスをしたときには、直後にヒカルをバシっと平手打ちしていましたっけ。

 これ、プライドです。「わたくしの承認なくしてするのは許しませんわ!」ってことですね。

 つまり、キスする主導権をヒカルに奪われたことへの怒りです。

 主体的に「あなたを愛したい」未沙としては、「自分からキスする」のでなくては我慢なりません。だから自分からヒカルに“命令”する形を整えて、自分からキスをするのです。

 文化どっぷりの“強制キス”、21世紀の職場なら大問題、まんまパワハラです。

 未沙のデカルチャーぶり、いよいよパワーMAXですね。


 極めつけが、第32話『ブロークン・ハート』のラストシーンです。

 ようやく無事に再会し、人目もはばからず、ひしと抱き合うヒカルとミンメイ。

 しかし、「いちゃいちゃする暇があるんだから!」と憎々しく吐き捨てた未沙は、ヒカルの背中をツンツンして、これぞ命令とばかりに、敵の追撃に向かわせます。

 引き裂かれる思いでヒカルのバルキリーを追いかけ、地面に倒れ伏してなおも、彼の機影を見上げるミンメイの痛切さ。

 そんな二人の様子を見る、未沙の表情は……

 清々しいまでの微笑。

 笑っている、地面にコケて土まみれで涙うるうるのミンメイを、未沙が幸せそうに笑って眺めている……

 これは怖い。

 背筋にゾゾッと来る、ホラーシーンでした。


 この不気味な微笑が1982年のTVでオンエアされてしまったわけで、その事実にさすがに反省したのか、次の回の冒頭、未沙はマクロスのバルコニーで涙にじませ、つぶやきます。

「あたしって、イヤな女ね」

 そりゃあイヤな女ですよ。そのものですよ。このままでは鬼畜ですよ。口先だけで自戒するのでなく、もっと心から自覚しなさい!

 ……そう助言してあげたくなるほどの、性悪ぶり(御免なさい!)でした。


 未沙のヒカルへの執念、その奥深さを推して知るべしでしょう。

 しかし未沙、第30話『ビバ・マリア』では、ゼントラーディの工場衛星に向かって宇宙を移動する艦内の自室に、初恋の人ライバーのポートレート写真を持ち込んで飾っています。これぞ未練の証です。

 その部屋にヒカルを招き入れるのですから、なんとも嫌味。

 ということは、ヒカルは明らかにライバー2号に過ぎません。

 未沙は未完成の初恋を貫徹させる信念で、ヒカルを愛しているのです。


 私の恋に失敗の文字はない!


 ナポレオンばりの誇りをかけて、目指せ理想の“姉さん女房”!


 やりたい放題の未沙様でした。


       *


 こうして完璧に見えた、未沙のヒカル攻略作戦。

 しかし意外な誤算が、未沙を錯乱させます。


 ミンメイが歌手として落ち目となり、カイフンとも破局して、もうやぶれかぶれの全身全霊でヒカルを頼ってきたことです。

 歌手をやめるから一緒になって! ……ということですね。


 自分が一番大切にしている“歌”を捨ててでもヒカルを選ぶ……

 ここまで徹底すると、ミンメイはもう“無敵の人”です。

 すべてをかなぐり捨て、失うもののない状態で、ただヒカルの愛のみを求める。

 これまでの未沙の小細工は、一瞬にして蹴散らされてしまったのです。


 どうする未沙?


       *


 ということで、ミンメイです。

 未沙が「あなたを愛したい」のに対して、ミンメイは「あなたに愛されたい」。

 これは宿命的なスタンスです。

 「あなたに愛されたい」思いこそ、天性のアイドルゆえの感情なのですから。


 その感情は、ヒカルに対する“おねだり”となって現れます。

 逢いたいナ、どこかへ連れてって、いいところ、楽しいところ、私が輝けるところ、でなきゃスネちゃうよ、泣いちゃうよ。

 そして辛いときには慰めてよ、気を悪くしないで、優しくささやいて、私を喜ばせて、その代わりにキスしてあげるから……

 それやこれや、こちらもなんだか、やりたい放題な感じでしたね。


 そもそも第27話『愛は流れる』で、ヒカルのことは友達と思ってた……と、恋愛関係を拒否ったくせに、歌手のお仕事が落ち目になるや、その寂しさゆえにヒカルに涙目の視線を送るようになってしまいました。

 しかしなんといっても、“可愛い!”。

 何をしてもカワイイからアイドルなのであって、切ない視線で媚びられると、イチコロで転ばない男はこの世にいないのです。だからアイドル。


 アイドルは愛を求めます。貪欲なまでに。

 そしてそのたびに「お願い」とささやきます。

 こうした「あなたに愛されたい」キャラの尊いオーラを存分に振りまくミンメイ、まさに愛の天使。

 これまた無敵感満載の恋愛戦術です。


 私は歌手をやめてもいい、だからヒカル、私を愛して! お願い!


 落ち目ゆえの悲しさと淋しさに、歌を忘れたカナリアの“最後のお願い”に、ヒカルがコロッと降参するのは、まあ無理からぬことでしょう。


 これには未沙も太刀打ちできません。

 敗北を認めます。

 しかし最後の最後、敵のミサイルが雨あられと降り注ぐ修羅場で、未沙は乾坤一擲の反撃に賭けるのです。

 ミンメイさん、あなたは誰のために歌うの? ……と。


 歌を忘れたカナリアに歌を思い出させる!

 これはまさに神の鉄槌。

 土壇場の逆転劇となります。



   【次章へ続きます】

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