98●ラノベな大河『黄金の日日』(5)…見事な伏線:人身売買と子供たち。
98●ラノベな大河『黄金の日日』(5)…見事な伏線:人身売買と子供たち。
NHK大河ドラマ『黄金の日日』を観終わってしばらくして、思い返すと……
作品の全編を通じて、ストーリーの随所に配置されていた、絶妙な伏線が浮かび上がってきました。
子供たちです。
主人公の助左衛門は、スケザと呼ばれていた青年時代から、貧しい子供たちに優しく接します。
たとえば、上司である今井宗久の隠し子であり、戦乱で母まで失った幼女、桔梗を命がけで保護し、親友に託します。
浮浪児だった少年、銭丸を、店番に雇ってやります。
この二人とも、その後、悲惨な運命に直面することになりますが……
そのほか、ルソンの族長の娘マリキットを牢獄から助け出し、父のもとへ送り届けます。彼女との、言葉が通じずとも心が通じあう触れ合いは微笑ましかったですね。
また、親を戦場で殺されて逃げて来た無名の少女(伊藤つかさ嬢!)に米を与える、さりげない善意。
そんな子供たちを取り巻く環境は、戦国の世にあっては、凄惨そのもの。
肉親を失い、自分の命もいつ誰によって奪われるかわかりません。
加えて、人身売買が日常の社会でした。
ウィキペディアの項目『乱妨取り』『倭寇(項目内の“奴隷貿易”)』『ポルトガルの奴隷貿易』から概略をうかがうことができます。
凄まじいものですね。
戦国時代、敵軍に蹂躙された村では、勝者の足軽たちが強奪を行い、同時に人狩りで捕えた敗軍側の民間人を大人から子供まで、奴隷として海外へ売り飛ばしていた、とのこと。
日本の海賊である倭寇によって東南アジア各地に“輸出”され、ポルトガル商人によってマカオ等で転売され、果てはインドまで送られたとか。
そういったことを知った秀吉にとっちめられたとき、ポルトガル側の言い分は……「ニホンジンが売りつけるから、それを買っただけ」とか。
げに恐ろしきは同胞の日本人です。
20世紀でも戦前には、地方から“口減らし”で遊郭などへ流れる女性が後を絶たなかったわけで、親が子を売ってカネに換えるという、おぞましい事案は決して過去に消えた幻想とは言えますまい。
そういった奴隷の一人として売られてゆく途中で、堺の豪商、今井宗久の目に止まり、買い受けられて養女となった……という経歴を、ヒロインの美緒は記憶に秘めています。
彼女の心のわだかまりとなっているのは、自分と同じ境遇で、しかし救われることなくルソンのマイニラへと売られていった少女たちの、その後。
現地へ赴いて、まだ生きているなら、一人でも救いたい!
美緒がスケザの船に強引に乗り込んでルソンを目指す、最大の動機として設定されています。
美緒が、自由を求める別天地として、ただ居心地が良い逃亡先という理由でルソンへ船出するのではなく、幼い頃の記憶に深く刻まれた悲劇を少しでも解決したいとの信念が秘められているところに、伏線の巧みさが見えますね。
スケザが子供たちと触れあう数々の場面は、最初は、主人公の助左衛門が子供たちを愛する心優しい青年であったことを印象付けるための、刺身のツマ程度の演出だと思っていました。
しかし物語も終盤近くになると、それらが一つ一つ集まって、作品のバックボーンをなす、見過ごせない伏線として立ち上がってきます。
当時の大人たちの身勝手な欲望に翻弄され、人格も命も奪われる子供たち。
助左衛門も美緒も、そんな世界の不条理に対して、懸命に抗おうとします。
百害の元凶は
秀吉の朝鮮出兵をどうにかして阻もうとする助左衛門の脳裏には、それまでに接してきた子供たちの面影が次々と浮かんでいたことでしょう。
それがなければ、おそらく金儲けにならない和平工作など、商人のスケザには意味が無いからです。
ガッポリ儲けたければ、戦争をあおって死の商人となるか、いやそれよりも、奴隷商人となればいいのですから。
だから、いくらかでも戦乱の殺戮を食い止め、この醜い世の中から、せめて子供たちだけは救いたい……。
それが、物語終盤における、スケザの行動原理となっていったのだと思われます。
もっとも、これはあくまでフィクションとしての助左衛門。
現実の歴史におけるリアルな彼は、極悪非道な守銭奴だったのかもしれません。
それは誰にもわからぬこと。
だからここでは、ラノベ的大河ドラマの主人公、架空人物スケザのお話です。
最終回。
破滅がせまる堺の町、行き場を失った迷い子たちを、スケザは探します。
そして、エンドマーク直前。
彼が眺める光景は、作品全体に散りばめられてきた、不幸な子供たちとの何気ない交流が積み重なった結果としての、見事な伏線回収となっています。
本当に、心温まる終幕。
メインのストーリーとは別に、ほぼ全編を貫く、地味ながらも最高に美しい伏線でありました。
武士が勇猛果敢に生き、戦って大望に挑んで、死んでゆく。そんな大河とは根本的に異なる終わり方ですね。
これほど胸を打つ演出は、おそらく『黄金の日日』だけではないでしょうか。
イチオシの大河です。
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