97●ラノベな大河『黄金の日日』(4)…ロス対策のシメには、『大盗賊』をどうぞ。
97●ラノベな大河『黄金の日日』(4)…ロス対策のシメには、『大盗賊』をどうぞ。
●時代の名優が交差した
『黄金の日日』の、今となっては貴重なレガシーは、比類なき俳優陣です。
最終話の末尾に流れる“主な配役”をながめるだけでも、うわ、これは凄い……と、ため息が出るばかり。
昭和の大御所、揃い踏みです。
1960年代に大成した大俳優の面々と、1980年代に大成することになる大俳優たちが1978年に交差した十字路……といった趣ですね。
もしかしなくても、空前絶後の豪華番組だったのでは。
物語前半は、スケザの活躍よりは、豪商・今井宗久を演じる丹波哲郎さんの独演会といった様相でした。
ちょっともう、迫力と凄みが違います。
演技でつくったのではない、本物感と妖しいオーラがムンムンです。
私見ですけど丹波哲郎さんは、昭和の“怪優”の最右翼ではないでしょうか。
“怪優”の最左翼は天本英世さんだと思いますが。
丹波哲郎さんの怪演ぶりは、『豚と軍艦』(1961)、『ジャコ萬と鉄』(1964)、そして『007は二度死ぬ』(1967)で炸裂したという印象ですが、さらに『日本沈没』(1973)の総理役で極まった感があります。
どうにも、表現のしようがないのですが……
“変だけど、凄い”
その一言に尽きるような。
最期はとうとう、晩年に執心された自作『丹波哲郎の大霊界 死んだらどうなる』(1989)の真実を確かめに行かれたのでしょうか。
とても良い意味で“日本一の怪優”であられたのではないか……と思います。
『黄金の日日』の物語後半は、自分で船を持ち、成長したスケザ…市川染五郎さん…の演技が大爆発でして、彼を巡るバイプレイヤーが綺羅星の如く輝きます。
近藤正臣さんの石田三成を筆頭に……
鶴田浩二さんの千利休、小野寺昭さんの小西行長、鹿賀丈史さんの高山右近……
女優陣の栗原小巻さん、竹下景子さん、名取裕子さん、島田陽子さん、夏目雅子さん、そしてフィリピンの皆さん……
さらに、滅びに瀕する堺の街をそのまま体現するかのような、妖気漂う灯台守の女“お仙”を演じた李礼仙さん。彼女の実際の夫である唐十郎さんは、ダンテかぶれの文芸海賊、ただし冷酷非道な
そこにキリシタンの鐘や祈りの演出が重なって、この作品に独特のファンタジーな空気感を与えています。
演技はどなたも最高。
2021年の今観ても、まったく違和感がありません。
時代の錆にまみれることなく、一瞬たりとて古びていないのです。
特に、1960年代に大御所となられている俳優さんの演技は、ド迫力。
やはり、太平洋戦争の終戦、玉音放送に無条件降伏、そして復興……といった歴史的事実をリアルに体験された背景が、効いていると思います。
1978年当時は、戦後まだ33年。
若い頃に戦場へ行って、実際に戦闘し、敵兵に向けて発砲し、あるいは狙い撃ちされたことのある人が、普通に現役で働いておられた時代です。
国産戦争映画のエキストラさんたちが、敬礼しても行進しても、軽く本物だったわけですね。21世紀の映画の兵隊さんたちと比べて、キビキビ感が段違いです。
『黄金の日日』は、ある意味、滅びの物語。
無謀な戦争の末の国家滅亡という歴史的事実に直面したことのある人の演技は、21世紀では観ることのできない精神性を醸し出していると感じます。
演技を超えた、本物感です。
さて『黄金の日日』の唯一の不満は、模型帆船を使った特撮場面。
当時の国産帆船、いわゆる“朱印船”は、鎖国下の江戸時代に沿岸近くを走っていた廻船などと比べるとはるかに大型で、高い二本マストに船尾楼の
コロンブスのサンタマリア号は100トン強、安土桃山時代末期の西暦1600年に日本へ漂着したオランダ船リーフデ号でも300トンとされ、ダーウィンのビーグル号でも排水量235トンとか、ほぼ200年後の帆船バウンティ号が全長30メートル弱で215トンというのですから、お
で、結局、ニッポンが鎖国してから、ショボい一本マストの和船に退化させられてしまったようですね。
ということで、エロール・フリンの海賊映画に出てきても遜色のない、堂々とした国産大型船が国際港・堺から東南アジア各地へと船出していたのです。
まさにニッポン大航海時代、“戦国〇ンピース”ってところですね。
それだけに、やや、模型の出来に愚痴が……
ここは最近のCGテクでレタッチして、船体やロープや帆や、海面のディテールを描き加えれば、言うことなしの大迫力になったと思えるのですが。
*
それにしても……
これほどの名作ゆえ、最終話を観終わってしまうとさすがに、『黄金の日日』ロスにとらわれます。
なのに、まだ
あれからスケザはどうなったのだろう?
*
しかし心配ご無用。
『黄金の日日』ロスを癒してくれる、もう一つの『黄金の日日』がありました。
国産映画の『大盗賊』(1963)。DVDも出ています。
しかしこれは、『黄金の日日』よりも先に観てはいけません。
なにしろ、
主人公はまさにその人。
作品中でも、もっぱらスケザと呼ばれます。
海賊の嫌疑で処刑されかかったところを脱走、狭いニッポンには住み飽きたとばかりに豪快に船出したスケザの冒険を描く時代活劇……なのですが、スケザの
そこんとこ、元祖ラノベの異世界ものですね。
いや、これはこれで面白い!
主演は、ニッポンを代表する名優、三船敏郎さんが
三船敏郎さんはあくまで真面目のカタブツなのですが、演技はリラックス、せっかく姫に横恋慕したところでイケメン婚約者が現れたのでしぶしぶ遠慮する表情がどこか“むっつりお茶目”な雰囲気。観客のこちらもムフフと笑えます。
まあ、みんなで学芸会やってる感じも、無きにしも
例によって、クライマックスはお城に乱入してチャンバラ大会、天本英世バーサンの滅び方は、さすが魔女ならではと笑いが吹き出します(こうでなくちゃ)。お城の廊下の落とし穴にスケザが引っかかり、生きて還った者はいないという地下牢へ直行とか、悪玉の宰相が無理矢理結婚式を挙げる場面では会場入り口の両側に並んだ近衛兵が頭上で剣を交差させ、その下を姫君がくぐるあたり、ムードはカリオストロ。
大盗賊となったスケザの三船敏郎さんが姫君さんの心だけを奪って、財宝には目もくれないとか、悪玉宰相の滅び方も、アレに挟まれてお陀仏となるところも、どことなくカリ城。元ネタとまでは言いませんが、なんだかジブリな気分ですよ。
余談ですが、国産映画の『
元ネタとまでは申しませんが、こちらもなにやらジブリ気分な展開です。
かように1960年代は、明るいラノベ的な国産映画が
21世紀の今からみると、ケータイとネットの無い異世界で冒険しているようなもので、実は、けっこう楽しめる作品が多いですよ。
21世紀の映画ではまず見られない、カラリと晴れ上がった、爽やかなユーモア。
クレージーキャッツの面々がハッチャける、いわゆるクレージー映画。
小林旭さん、宍戸錠さんたちの日活アクション映画。
加山雄三さんの、若大将シリーズ。
ハナ肇さんと山田洋次監督が組んだ『馬鹿が戦車でやって来る』以下の馬鹿連作。
吉永小百合さんたち、舟木一夫さんたちの青春映画。
堺正章さんが高校生役で出演していた時代です。いやーお若い。
どれもいいですよ。
いやホント、素朴だけど元気が湧いてくる作品ばかりなのです。
ということで、『黄金の日日』ロスは、『大盗賊』で解決です。
『黄金の日日』のスピンオフ外伝として存分に楽しめますよ。
公開年代はこちらが早いので、『黄金の日日』のスタッフはおそらく参考に観ていたことでしょう。
助左衛門をスケザ、スケザと呼ぶあたり、『黄金の日日』に引き継がれたのかもしれませんね。
今は2021年の10月、『黄金の日日』の再放送は後半戦に入ったところです。
未見の方は、今からでも、ぜひ。
こう言っては何ですが、最近の大河よりも、たぶん何十倍も面白いですから。
※本稿は2021年に作成したものです。
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