84●主人公は“コミュ障な状態”に苦しむ。

84●主人公は“コミュ障な状態”に苦しむ。




 コミュニケーション障害、いわゆる“コミュ障”は、主にネット上で語られるようになった概念です。病理的な障がいとは異なり、他者との無難な雑談や、その場の空気を読んだ発言といった、“要領のいい会話術”が上手とはいえない人を指すようです。

 一般的に、“仲間と打ち解けるのが不得手”なことを意味するのだと思いますが、本人の人間性には何ら関係なく、多少不器用な側面がある、といった程度でしょうか。

 しかしそんな些細なことを採り上げて問題視し、噂の種にするのが私たちの現実社会です。

 LINEでの発言の言葉尻をとらえて、本人に隠してボロクソにけなしまくる……といったことは、哀しいことながら、日常茶飯事ですね。

 良いこととは思いません。これは人と人との良好なコミュニケーションを阻害する悪質な行為であり、これこそが、私たちを苦しめる、“悪しきコミュ障”だと思うのですが……。

 LINEをはじめ、さまざまなコミュニケーションツールが、いかにも便利であるかのように私たちの生活に忍び込んでいますが、それらが、かえって私たちの良質なコミュニケーションを阻害してはいないか、常にチェックすることが必要でしょう。



 それはさておき……


 ヒット作の主人公たちも、例外ではありません。

 思春期の年齢であればなおさらのこと、対人コミュニケーションが不器用であって不思議はないですよね。


 だから主人公たちは、“他者との意思疎通に苦しむ”ことになります。



 『ガンダム』のアムロ君は、第一話から家にひきこもって、メカオタクぶりを発揮しています。人間関係が不得手、という性格がたちまち露見。フラウに叱られます。

 その後もアムロ君の“コミュ障”な振る舞いは続き、とうとうフラウに見放され、セイラさんには「あなたならできるわ」と戦場へ放り出され、ミライさんには距離を置かれ、マチルダさんへの恋心は不発のまま挫折するしかありません。

 その代わり敵方の美女キャラには妙にモテるようで、深く心を通じ合ったララァとの悲恋は伝説となりました。


 『エヴァ』では言わずもがな、シンジ君の“コミュ障”ぶりは相当なもの。第一回冒頭で出会ったミサト女史に対する態度からして、“内にこもる”タイプであると察せられ、ミサト女史からその点をずばり指摘されてなおのこと落ち込みます。

 数あるアニメの主人公の中でも、最もアンチヒーローなタイプで、コミュ障の権化的な位置づけですね。

 全編を通じて、ミサト女史や、綾波嬢、アスカ嬢との意思疎通に苦労している様子がありあり。綾波嬢との動作的シンクロだけはバッチリですが、あれはシンジ君の才能というより、綾波嬢が完璧に合わせてくれたからですね、きっと。

 もっとも、コミュ障の原因はシンジ君だけにあるのでなく、周囲の女性キャラがそれぞれ、心の奥底に深い傷を抱えていることも無視できませんが……

 他者とのコミュニケーション能力の不足に苦しむシンジ君が、その問題を解決し、精神的に解脱することが物語のバックボーンのひとつであったことは、シリーズの25-26話を見れば、歴然としています。


 『進撃の巨人』では、主人公の二人、エレン君とミカサ嬢の間には、いろいろとコミュニケーションの齟齬が重なっていることが、アニメのファイナルシーズンで際立ってきましたね。

 ミカサが身を捨ててエレンに向ける好意は本物なのか、それとも彼女の血にプログラムされた条件反射的行為に過ぎないのか?

 この謎が最終話では解決されて、二人に幸せが訪れることを願っております……



 『約ネバ』でも、主人公たちは他者との意思疎通に苦労、というより苦心していますね。グレイスフィールド脱走作戦を組み立てるノーマン、実行役のエマやレイとの連携、そして何よりもママに気取られないこと。

 ママの監視下という極めて制限された状況の中で、互いに秘密の意思疎通を確立していく主人公たち。かれらはいわゆる“コミュ障”ではありませんが、困難な環境の中で相互のコミュニケーションを保ち、信頼関係を維持し続けることの難しさが、物語にスリリングな面白さを引き出していましたね。



 『鬼滅の刃』では、もちろん主人公の炭治郎君は、鬼にされた“妹”との意思疎通、そして仲間となった鬼殺隊のメンバーとの意思疎通に苦労しています。彼自身はあまりコミュ障を感じさせませんが、むしろ鬼殺隊の先輩たちの方が問題、とにかくクセが強くて、それぞれが、ある意味猛烈に“コミュ障”な人たちですから……


 このように、ヒット作として掲げた五作品の主人公たちは、いずれも、“他者との意思疎通”に悩み苦しみ続け、やがて心を通じて信頼関係を構築し、闘いに勝利する……というヴィクトリーパターンを築いてゆきます。


 これもまた、ヒット作の共通原則と言えるでしょう。



 そして苦労の末に他者とのコミュニケーションを成功させ、家族や仲間の絆を結いあげて、信じあえる人の輪を結実させたとき、主人公は自分が“帰る場所”をそこに見い出すことになります。



 


  【次章へ続きます】





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