85●主人公は“ホーム”を目指す。それは“承認欲求の物語”。
85●主人公は“ホーム”を目指す。それは“承認欲求の物語”。
ベースボールでも、攻撃側の選手はみな、一生懸命にホームを目指しますが……
ヒット作の主人公も、同じですね。
誰もが最終的にはホームを目指します。そこが物語のゴールでもあります。
で、“ホーム”というのは……
この場合、“家族や恋人や仲間といった、信じあえる人々に守られた、心安らぐ理想郷”といったイメージでしょうか。
主人公は戦い、恋し、迷い、苦しみ、喜び、勝利して、結局のところ、“ホーム”を目指して突っ走るのです。
で、その“ホーム”を構成する要素は……
物理的な場所とか、家庭というだけではありませんね。
親を失って孤独な主人公を心から受け入れ、信じ、愛してくれる人々がいること。
“本物の仲間”といえる人々が待つところでしょう。
『ガンダム』(ファーストガンダム)では、最終話のラストシーン、アムロが幻影のララァと別れて向かうところは、ホワイトベースの仲間たちが
ホワイトベースという軍艦そのものでなく、“苦楽と生死を共にした仲間たち”の集団内にあるはずの自分の居場所を目指すのであり、アムロをぶったブライト氏(ある意味、父親のかわりに殴ってくれたともとれますが)が、まるで父親のようにアムロを迎えようとしているようにも見えます。
『エヴァ』では、第26話の“食パン加えた綾波”に始まる、喧嘩しながらも仲良しのクラスメイトたち。そしてラストシーンの、全員の拍手ですね。コミュ障気味のシンジ君でしたが、彼を心から受け入れ、歓迎してくれる人々の輪がそこにあります。たとえそれが、シンジ君の儚い白昼夢であったとしても。
『進撃の巨人』では、まだ完結前なので何とも言えませんが、エレン君とミカサ嬢の心が通い合い、幸せを感じられる結末になることを祈っています。二人のバッドエンドってことは、まず、ないでしょう。
『約ネバ』では、これぞ典型的なハッピーエンドとなりましたね。エマ嬢は仲間の子供たちに迎えられます。ただしコミック版とアニメ版では、後半の展開は全く別作品といえるほど異なっていますので、その結末を同列にはできませんが……
とはいえ、アニメ版のエマ嬢の最後のセリフは「ただいま」。
還るべき
『鬼滅の刃』は、完結したのはコミック版だけですが、こちらも完璧なハッピーエンドです。主人公の兄妹は、平和な日常を取り戻します。
みんな、“ホーム”へゴールインするのです。
これは古典的な物語手法です。
メーテルリンクの『青い鳥』しかり。
イプセンの『ペール・ギュント』しかり。
ロビンフッドの晩年を描く映画『ロビンとマリアン』(1976)もそうですね。
ミュージカルの『ラ・マンチャの男』(映画は1972)、そのラストシーンは感涙ものです。誰にも受け入れられなかったドン・キホーテの勇気を認め、彼を慈しむ人が、最後に現れるからです。
数々の世界名作物語も、たいていがそうでした。
『家なき娘(ペリーヌ物語)』『小公女』『母をたずねて三千里』……
人生が波乱万丈の大冒険であったとしても、人は最後に平和な日常生活に帰還し、安息の時間に至ろうとするものです。
この種の結末で、最も衝撃的だったのは、TVアニメの『クロノクルセイド』(2003-4)です。二人の、あの終わり方は凄い。忘れることのできない名作です。
*
そういった“ホーム”は、どうすれば手に入れられるのでしょうか。
端的に言いますと……
ホームを手に入れるとは、“承認欲求が満たされる”ことなのです。
マズローの“欲求五段階説”というものがありますね。下記の図式です。
※“欲求五段階説”“自己実現理論”でネット検索すれば詳しく出てきます。
これに、下記のように“第六段階”を追加する説もあります。
各段階のコメントは私が付記したものもあり、学術的根拠は保証できません。
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6.自己超越の欲求……我欲を超越して至高の目的に尽くす。
↑
5.自己実現の欲求……能力を最大限に発揮して創造的活動をしたい。
↑
4.承認の欲求……他者や集団から自分の価値を認められたい。名声、地位、注目。
↑
3.社会的欲求……他者と関わりたい、集団に属したい。
↑
2.安全の欲求……身の安全を守りたい。
↑
1.生理的欲求……生命を維持したい。
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一方、ラノベはその多くが、主人公が“承認欲求”を満たす物語なのである……という説があります。けだし至言であり、正しいと思います。
そのことについては、カクヨムでの別投稿作『秋山完のカクヨム雑感』の16~20章で紹介させていただきました。
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そういうことです。
サンプルにしたヒット作の五作品、『ガンダム』『エヴァ』『進撃』『約ネバ』『鬼滅』のどれをとっても……
どうやら、主人公はみな、マズローの第四段階の“承認の欲求:他者や集団から自分の価値を認められたい。名声、地位、注目。”の過程を経て、その欲求を自分なりに満たすことで、“ホーム”に到達し、そこでハッピーエンドを手に入れる……というパターンを実践しているように見えるのです。
ということは、サンプルの五作品とも……
“承認欲求の物語”だったのです。
“主人公がホームを目指す”とは……
“主人公がマズローの第四段階の承認欲求を満たす”……と言い換えられるのです。
世にヒットしたラノベ系作品の多くに共通する、結末の迎え方が、これですね。
これもヒット作品の共通原則のひとつ、と考えていいのでは、と思います。
【次章へ続きます】
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