アニメ・SF・映画その他えとせとら

秋山完

アニメ・SF・映画その他えとせとら

01●はじめに……1995-2006 “豊穣の十二年”

01●はじめに……1995-2006 “豊穣の十二年”




 2020年6月も半ば。

 おかみから「おうちにいようよ」と躾けられて、はや三か月あまり。

 世の人々はストレスがたまって、夜の街に繰り出したがるようですが……

 私はてんで気になりません。

 もともと出不精のインドア派。

 それゆえ、マスク着用や手指消毒以外には生活形態はなにひとつ変わらず、グータラ猫さながらに、日々、DVDやCDや読書を楽しみ、まったりと日常を過ごしております。

 とはいえ、困ったことはあるもので……


 贔屓の通販ショップの品ぞろえから、これといったDVDやCDや本がたちまち消えていく。

 国民の皆様、考えることはみんな大差ないようで、この機会にお安い映像音楽活字ソフトを調達して、おうち時間を楽しもうとするのですな。おかげで以前から欲しかったソフトがたちどころに品切れとなってあせること。こちらも、あるものはあるうちに……と買ってしまうので、出費の痛い昨今です。

 

 マスク不足もさることながら、ソフト不足もなかなかのもの。

 ひきこもり生活の平穏は、コロナ禍によって粛々と破壊されつつあります。


 最たるものは、スーパーの買い物環境の悪化。

 外食自粛→自炊増加→スーパーの来店客増加→売り上げ増加→スーパー側は強気の商売に転じる→特売や割引率の減少→値引き品の争奪合戦が激化。

 ということで、いまどき白菜が一玉800円相当という狂乱物価が横行する市場環境で、こちとら食い物の調達だけでホント、苦労するようになりました。


 ああ、〇〇ノミクス前の円高天国の時代はよかった……

 とにかく安かった、十年前のM主党政権時代、白菜なんて一玉100円程度で、そもそも分割売りなんて論外も論外、みんな玉単位でドサッと買っていたのですよ。

 給料が安くても、物価はおしなべてもっともっと安かったのだ。

 あのころあたしゃ、テーブルもTV台もベッドも、通販で新品を五千円で買った。送料もせいぜい三千円。

 今は物価が引き上げられて、消費税も上げられて、給料はそのままだからね。

 悪夢とは〇〇ノミクスと見つけたり。かな?

 まあ、愚痴はさておき……


 コロナ禍で番組制作がストップした影響で、世の中、再放送が増えました。

 とても、よいことです。

 記憶の彼方に埋もれた、膨大な番組ストック、寝かしておくのはもったいない。

 ちょっと掘り起こせば、現代の作品がかなわない、すばらしい傑作がざくざくと日の目を見るというものです。


 あくまで個人的な見解ですが……

 アニメ作品に関して言えば、傑作が続々と集中する時期がありました。

 まるでカンブリア爆発のように、アニメファンがおおっとうなる傑作がじゃかすかと目白押しに現れてきた時期です。

 それは、1995年の『新世紀エヴァンゲリオン』から、2006年の『シムーン』に至るまでの十二年間。

 あたしゃ勝手に“豊穣の十二年”と呼ぶことにしましたが……


 この期間の、思い出の傑作といえば……


『新世紀エヴァンゲリオン』に『THEビッグオー』

『ノワール』に『GUNSLINGER GIRL』

『BLOOD』に『BLOOD+』

『トライガン』に『グレネーダー』

  (あの“おっぱいリロード”だけでも、見ごたえ十分でしたね)

『カウボーイビバップ』に『サムライチャンプルー』

『クロノクルセイド』に『スクラップドプリンセス』

『ブレンパワード』に『OVERMANキングゲイナー』

『ガサラキ』に『FLAG』。

『新機動戦記ガンダムW』に『ガンパレード・マーチ 〜新たなる行軍歌〜』


『サクラ大戦』が一世を風靡したのも、この時期でした。


『タイドライン・ブルー』に『サブマリン707R』『青の6号』

『ストラトス・フォー』に『エリア88』

『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』に『サイレントメビウス』

『キディ・グレイド』に『鋼鉄天使くるみ』

『魔法騎士レイアース』に『カードキャプターさくら』

『てなもんやボイジャーズ』に『YAT安心! 宇宙旅行』

『パタパタ飛行船の冒険』に『英國戀物語エマ』

『宇宙のステルヴィア』に『無限のリヴァイアス』

『ラーゼフォン』に『LAST EXILE(ラストエグザイル)』

『ゲートキーパーズ』に『R.O.D -READ OR DIE-』

『舞-HiME』に『Fate/stay night』

『灰羽連盟』に『NieA_7(ニア アンダーセブン)』

『アベノ橋魔法☆商店街』に『彼氏彼女の事情』

『Spirit of Wonder 少年科學倶楽部』に『ヨコハマ買い出し紀行』


 もちろんこの時期、ジブリアニメは『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『崖の上のポニョ』と極上品の最盛期でした。

 それとやや地味ながら、『メトロポリス』『スチームボーイ』など巨匠の劇場作品に加えて、新世代監督のウェル・メイドな逸品も彗星の如き登場を果たしました。

 『アリーテ姫』『時をかける少女』に『雲の向こう、約束の場所』です。


 今敏監督の『Perfect Blue』『千年女優』『東京ゴッドファーザーズ』『パプリカ』そして『妄想代理人』


 異色作として、実験的でシュールな映像美の『巌窟王』が印象的。

 洋物ですが『ルネッサンス』(2006)もインパクト充分です。


 振り返ると、多いですね、実に多い。


 個人的にTVアニメのジャンルで、二十世紀と二十一世紀それぞれの最高傑作と思うのは……

 『少女革命ウテナ』と『シムーン』。

 二作とも、まるで“百合の双璧”と思われがちですが、同性愛のお花畑はちょっと横に置いといて、その世界設定、ストーリーとキャラクターのユニークさ……といった点では、ずば抜けたものがあります。

 全く新たな世界観の構築……という点では、他に類を見ませんね。

 魔法でも超能力でもなく、“心象風景のシュールな具象化”とでも呼ぶしかない『少女革命ウテナ』の世界。

 魔法でも超能力でもなく、“科学的かつ神秘的に組み上げられた異界の時空”とでも形容するしかない、『シムーン』の世界。

 ありえないはずの、もうひとつの世界へ私たちを引き込むパワーの強烈さは、この二作をおいて他になかろうかと思います。

 そしてストーリーの奥深さ、無数の伏線の回収、なおも残る謎と劇的な幕切れ。

 ありえないことに、この二作とも、最終話の後半では、主人公が姿を消すのです。

 死んだわけではありません。

 なのに、猛烈なまでの“喪失感”を残すのです。

 このどうしようもなく胸をえぐる“ロス感覚”は何だろう?

 そう考えたとき、心の奥底にこの作品のテーマが立ち上がります。

 あの感動、尋常ではありません。



 さて、私は、だからといって他の時期の作品を低く評価するつもりは全くありません。

 申し上げたいのは、1995~2006年の範囲に、他の時期と比べて、圧倒的な品質と内容の作品が高密度に出現している……ということです。


 この時期以前では、『太陽の王子ホルスの大冒険』や『未来少年コナン』を嚆矢こうしとして、『宇宙戦艦ヤマト』『機動戦士ガンダム』『超時空要塞マクロス』『銀河鉄道999』『無責任艦長タイラー』『トップをねらえ!』『ルパン三世カリオストロの城』『風の谷のナウシカ』『AKIRA』『MEMORIES』などなど、後世のいしずえとなった金字塔がそびえています。


 ややマイナーですが『おいら宇宙の探鉱夫』(未完)や『X電車で行こう』『老人Z』『ロボットカーニバル』もいいですよ。


 しかし残念ながら、この1995~2006の“豊穣の十二年”のあとから作られた作品は、“よくできているけれど、何かが足りない”的な印象がつきまとうのです。


 まるで、精一杯の進化を遂げたカンブリア紀の百花繚乱の後に、唐突に氷河期が訪れたとでも言わんばかりです。

 世紀をまたぐ1995~2006年の期間には、アニメの制作手法がセル画からCGに移行し、TV画面が横長になりました。さまざまな技術的進化の曲がり角であり、同時に踊り場でもあったのでしょう。


 根拠もなく、なんとなく思うのですが、この“豊穣の十二年”を境に、アニメ界がそれまで半世紀にわたって蓄積してきた歴史がいったん途切れ、消え失せて、今はなにもなくなった荒野で、アニメ制作者たちがすぐれた才能を持て余しながら、行き先を示すコンパスを求めて、さまよい始めているような……そんな感じもするのです。


 もしかすると今、アニメ界を担っている若き人々の多くは、『太陽の王子ホルスの大冒険』(1968)や『未来少年コナン』(1978)を見たことがないのかもしれません。

 だとしても無理はありません、今から四十~五十年も昔の作品ですから。


 もひとつ言えば、『こねこのらくがき』(1957)や虫プロのアニメラマ『千夜一夜物語』『クレオパトラ』『悲しみのベラドンナ』も、一見の価値ありでしょう。


 コロナ禍で昔日の人気作の再放送に関心が向いている今こそ、もはや先史時代の遺跡扱いされているそれらを振り返ってみる、いい機会ではないでしょうか。


 だから、もう一度、観てはいかがでしよう。

 何度見ても味わいが深まる名作って、意外とあるものですよ。



 不定期ですが、アニメに限らず、忘れられてほしくない作品について、つらつら書き記していきたいと思います。





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