『ガンダム』『エヴァ』『進撃』『約ネバ』『鬼滅』にみる“ヒットの共通原則”

80●主人公は“謎を解く”。(1)

『ガンダム』『エヴァ』『進撃』『約ネバ』『鬼滅』にみる“ヒットの共通原則”





80●主人公は“謎を解く”。(1)




 物語をあらわそうと志す人にとって、やはり気になるのは“ヒットの条件”。

 私だってそうです。そりゃあ自分の書いたものが読まれれば嬉しいですし、前向きに評価されればなお嬉しいですね。

 どこかに“ヒットの条件”なるものが落ちていたら、サッと拾って、悪いけど交番に届けずに、自分の懐に入れてしまう……かもしれません。

 それはともかく……

 世に有名なヒット作から、ヒットの条件を抽出することはできないものか……

 そんなこと、考えますよね。

 確実に作品をヒットさせる絶対的な条件を錬金術みたいに絞り出せたら、もうヒャッハーで、作品バンバン書きまくれそう……とか、虫のいい妄想を抱いたりしてしまいますが。

 とはいっても、“ヒットの条件”なんてものは、もう神様マター。

 そんなものが現実にあるのなら、とっくの昔に誰かによって発掘され、世間に知れ渡っていることと思います。

 しかし、そこまで望まなければ……

 “ヒットの条件”くらいなら、ある程度、自力で抽出可能でしょう。

 世に高く評価されるヒット作品から、共通する“原則”のようなものを抜き出してみれば、アバウトながら、なるほど、これが読者の心を引き付けるのだな……と納得できる要素を発見できるのではないか……と思いまして、試してみることにしました。


 まずは、かなり主観的で適当ですが、お手本の作品を選んでみます。


 広義のSF・ホラー的なジャンルで、ギャグではなくシリアス系のヒット作。

 たいてい、どなたでもご存じなアニメの大ヒット作です。


『機動戦士ガンダム(最初のファーストガンダムです)』……以下『ガンダム』

『新世紀エヴァンゲリオン(1995-96のTVシリーズです)』……以下『エヴァ』

『進撃の巨人』……以下『進撃』

『約束のネバーランド』……以下『約ネバ』

『鬼滅の刃』……以下『鬼滅』


  ……いずれも、アニメ作品を基準とします。


 で、この五作品の共通項は……

 なさそうで、ありますね。

 まず思いつくのは……


 主人公が、“謎解き”をすること。


 いずれの作品も、物語の冒頭で、視聴者に対して“大きな謎”が提示されます。

 ストーリーが展開するごとに手掛かりが与えられ、視聴者は主人公とともに情報を集め、作品世界の隠された本質を解き明かしていく……といったプロセスが仕込まれています。


 まず『ガンダム』では、各話の小ネタ的な謎として、“新たな敵にどうやって勝利するのか?”という命題が与えられますよね。次々と繰り出されるジオン軍の新型モビルスーツ等をいかにして攻略するのか、アムロ君、知恵を絞って対処します。

 それに加えて……

 数あるSFアニメの中でも抜きん出た傑作と名高い“大ネタ”の謎が、物語後半に登場しますね。

 “ニュータイプとは何か?”

 今後の宇宙戦争の局面を根本的に変える可能性を秘めた、新人類。

 人類進化の可能性を暗示するこの大きな謎があってこそ、アムロ君とララァ嬢のあの名場面がアニメ史に不朽の足跡を残したわけですし、アムロ君と宿敵シャアの確執もわかりやすく説明されたと思います。

 この“ニュータイプ”の謎とその解明は、他のロボットアニメの追随を許さない、『ガンダム』ならではの作品的な特質であり、作品がSFアニメ史の金字塔と評価されるゆえんではないでしょうか。

 “ニュータイプ”がこの作品の結末をどのように決めていくのか。

 そしてなぜか気になる「シャアはニュータイプなのか?」という疑惑。

 私たちは最終話までアムロ君とともに、それらの謎に引っ張られて行ったのです。



 で、『エヴァ』です。

 『ガンダム』と同様に、毎回登場する新たな使徒に、シンジ君はいかにして勝利するのか。

 レイやアスカとの関係はいかに進展するのか?

 そういった“小ネタ”の謎に加えて……

 とんでもない巨大な謎が、視聴者の前に立ちふさがります。

 “使徒とは何か、どこから来るのか?”

 その謎の解明に不可欠な要素として、“人類補完計画とは何か? ○○インパクトとは何か?”に始まり、エヴァはロボットか? 人造人間って、どういうことか? ネルフってなんだ、ゼーレってなんだ、アダムとイブってなんだ、ガフの扉とかロンギヌスの槍ってなんだ? ゲンドウとその妻が仕掛けたはかりごとは何だったのか?

 いやもう、謎のてんこもり。

 毎回新たな謎が登場して、視聴者の理解力をオーバーフローさせ、ほぼ脳内グロッキーで洗脳状態のまま、最終回まで魂を束縛する、これは庵野戦術というべき視聴者攻略法なのか? ……と、今になって思う次第です。

 “使徒とは何か、どこから来るのか?”という、第一話からの謎を解くための材料であるかのように次々と出てくるさらなる新語に難解語、それぞれがまた新しい謎を生んで、最終25-26話のあの不可解な展開で締めくくられるや、私たちはみんな、ちんぷんかんぷんとは、こういうことかと悟らされ、妙に納得したのではありませんか?

 大ネタ小ネタ、無数の謎が毎回続出し、私たちの探究心をわしづかみ、その謎に最後まで見事に引っ張られて、ラストシーンの拍手で“ありがとう!”。

 ハイ、それま~でェよ。

 みたいな結末だったのですね。

 で、多分、それらの謎は、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(2021)に至っても、とうとう解かれずに終わってしまったようです。すみませんが、私は2021年4月1日現在、まだ映画館に行っておりません。何分ご時世でして、コロナ禍が収まってから観賞しようと思いまして……。

 でも、ネットのネタバレコメントなど読むにつけ、やはり大ネタの謎は手つかずのままで終劇となったみたいですね。

 それがいいか悪いかは置いといて、ともあれ私たち観客は、最初のTVシリーズの放映以来四半世紀、『エヴァ』の謎に魂をつかまれ続け、何度も何度も混乱のリフレインに陥ってきたことは確かです。まさに、“魂のルフラン”……

 視聴者を飽きさせることなく、謎の探究へといざない続けた作品力。

 そこは、さすが名作の迫力だと思います。

 そうは言うものの、“使徒とは何か、どこから来るのか?”の謎に、百文字くらいで明瞭に答えていただきたかった、という思いは残るのですが……。




【次章へ続きます】




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