153●『超時空要塞マクロス/愛・おぼ…』⑪…マクロスは「オタクの方舟」!!

153●『超時空要塞マクロス/愛・おぼ…』⑪…マクロスは「オタクの方舟」!!




 初代『超時空要塞マクロス』とその劇場版。

 そこに描かれた、“マクロスの本質”とは、何でしょうか?

 今になれば、自信を持って断言できますね。


  「オタクの方舟はこぶね


 この一言に尽きるでしょう。

 物語の前半。

 聖なる巫女ミンメイの歌声は、マクロス艦内の津々浦々に響き渡りました。

 絶大なる人気。ファンすなわち信者の爆発的増大。

 映画『小白竜』で悪役を務めた女優さん一人を除いて、艦内全員もれなくミンメイファンです。

 のみならず、ミンメイの歌を聴いたゼントラーディの連中も、続々とマクロス艦の仲間入りをします。布教効果というやつです。

 みーんな、ミンメイファン。

 ミンメイ人形はファンのマストアイテム、写真集もポスターも、その他さまざまなミンメイグッズを、だれもが買い求めました。

 これで破産したってのは聞いたことがないので、良心的な信仰ですね。

 第29話『ロンリー・ソング』では、地球に墜落して死亡、白骨化したゼントラーディ兵士の手にもミンメイ人形が握られていましたね。

 それほどの人気。


 こうして、マクロス艦に乗っている、軍人と民間人併せておよそ七万人の人々と、ゼントラーディ亡命組の人々はみんな……

 ミンメイという巫女様を崇め奉るオタク集団の一員となったのです。


 すなわち、マクロス艦は、オタクたちの方舟はこぶね


 もちろん、今、マクロスのTV版や劇場版を観ているあなたも、その一員です。

 観客もミンメイの信徒となって、マクロス艦とともに宇宙を旅しているわけです。


 さて、物語のはじめ、マクロス艦は地球を離れ、宇宙へ脱出しました。

 宇宙規模の大戦争……その、きたるべき壊滅的なカタストロフから逃れて、生き延びるためですね。


 この状況にクリソツなお舟とは……

 旧約聖書の創世記に叙述された、ノアの方舟。

 人類を絶滅させる大洪水から逃れて、人間や動物たちが生き延びるための脱出船。


 かくてマクロス艦は、『小白竜』で悪役を務めた女優さん一人を除く、およそ七万人のオタク地球人と、オタクゼントラーディ人+オタクメルトランディ人を、世界の破滅から救う方舟はこぶねとなったのです。


 1982~84年当時の若きアニメオタクたちも、その心の妄想の中では、マクロス艦の一市民となっていたでしょう。

 当時のオトナ社会に認められず、ほぼほぼ変態扱いの社会的弱者であったアニメオタクたちの、数少ない心の寄り処として、『超時空要塞マクロス』は、救いの方舟はこぶねとなったのでした。


      *


 そして物語が第27話『愛は流れる』にまで進みますと……

 なんと、地球上の人類は全面的に滅亡。

 (アニメ作品としても、地球人類が簡単に消え去る展開は驚天動地でした)


 マクロス艦は巨大な敵ボドルザーへと突撃します。

 発信されるミンメイの歌に感化されたゼ軍とメ軍の巨人たちもマクロスのオタクと同化し、みんなしてオタクの大軍団となって、獅子奮迅の戦い。

 オタク人類とオタクゼントラーディとオタクメルトランディの人々は、非オタクのボドルザーたち……要するに始祖ミンメイに帰依しなかった非オタク巨人をことごとく駆逐……つまり、ブッ殺してしまったのでした。


 そして第28話『マイ・アルバム』の回に至った時、どうなったのか。

 地上で運よく助かったほんのわずかな人類を除いて、この世界に生き残ることができたのは……

 基本的に、オタクだけとなったのです!


 マクロの空を貫いて、地球を撃った神のいかづちは、愚かなる地上の人類を抹殺して、選ばれしオタクだけを見逃してくれたのでした。


 第27話『愛は流れる』で……

 未沙の父が亡くなり、未沙本人は天使ヒカルの手によって救助されます。

 その違いは、非オタクなのか、オタクなのか。

 それだけの相違でしょう。

 カタブツの未沙はオタクではないって?

 いえいえ、未沙は天使ヒカルから、ズバリ「御宅」と呼ばれていましたよ。


 非オタク人類は神罰を受けておおむね絶滅、オタクだけは新世紀に生き残る。

 この状況にクリソツな物語は……

 もちろん、あの黙示録、ですね


 神に選ばれし善良な民だけが、世界滅亡を生き延びることができる。

 すなわち、女神ミンメイに選ばれし、信心深い敬虔なオタクだけが、世界の滅びから優先的に救われたのでした。


 善良なオタクたちに向けて「愛、おぼえていますか」と呼びかけるミンメイの歌声は、最後の審判の訪れを告げる、天使の喇叭ラッパだったのです。


 そして世界に残ったのは……

 良きオタク文化だけとなりましたとさ。


       *


 ですから……

 マクロス艦はオタクの方舟はこぶね

 そして『超時空要塞マクロス』の一連の物語は、オタクの創世記であり黙示録でもあるのです。

 マクロスの物語は神話であり、選ばれしオタクの熱狂的な予言の書バイブルとなりました。


 地球の人類が、そして世界が滅亡しても、マクロスのオタクたちは、女神ミンメイに導かれて救われ、マクロス艦とともに光満ちた天上へ旅立つ。

 そしてはるかな銀河宇宙へと……。


       *


 マクロスは、寂しいオタクたちにとって、天の啓示だったのです。

 ミンメイの歌を信じよ、されば救われん……


 ニッポンのオタクたちが絶望から脱し、そのタマシイが集う方舟はこぶね

 そして未来への希望をもって歩み出すための、心の支えとなる幸せのバイブル。


 それが、マクロスの本質なのです。

 そう断言いたします


       *


 お疑いの向きは……

  「プロトカルチャー」を「オタクカルチャー」に、

  「カールチューン」を「オタクチューン」に、

  「マイクローン」を「オタクローン」に、

 そう読み替えて、TV版と劇場版をご覧になって下さい。

 一目瞭然だと思います。


 マクロス艦は“オタクの方舟はこぶね”であり、

 『超時空要塞マクロス』の物語は、オタクの創世記であり、同時に黙示録でもあったのです。


       *


 ニッポンの若きオタクたちを絶望から救い、1980年代オタク文化の興隆の基盤をもたらしてくれた『超時空要塞マクロス』。

 ありがとうマクロス!!


 だからマクロスよ、永遠なれ!!






    【この稿、終】



※本稿は『超時空要塞マクロス』のTV版(1982)と劇場版(1984)の二作について考察を試みたものです。その他のエピソードは多々ありますが、混乱を避けるため本稿では扱いを控えました。


※主人公、一条輝の名は、その音感を重視して、本稿では「ヒカル」と、カタカナで表現しました。単なる便宜上の表記です。(筆者)



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