207●『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-2021)⑤戦争への参加がロボットアニメの流れを変えた。

207●『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-2021)⑤戦争への参加がロボットアニメの流れを変えた。




 ➀『鉄腕アトム』(1963-)

 ②『ヱイトマン』(1963-)

 ③『鉄人28号』(1963-)

 この三作品は、日本のロボットアニメ三大潮流の源泉になったものと思います。

 ロボットアニメの三つの潮流、その二つ目と三つ目について考えてみましょう。



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第二の源流。

②『ヱイトマン』は、「中身は人間だけど、ロボット(orアンドロイド)に変身してボディを強靭化する」パターンでした。

 これは“変身する”ことに特色があり、アニメよりも実写特撮物に継承されていきましたね。

 『仮面ライダー』(1971)や『秘密戦隊ゴレンジャー』(1975)の系譜です。

 どちらもシリーズは世紀を超えて続き、今に至りますね。

 また、『攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX』(2002-)のシリーズも、電脳化と肉体強化の要素を加えた、広い意味での“変身ロボット的な作品”として理解することもできましょう。

 続いて、第三の源流です。


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第三の源流

③『鉄人28号』(1963-)は、「巨大で強力なロボットを人間が操る」パターンのお話です。

 ロボットそのものに知性や個性はなく、コントロールする人間の意思によって、善になり悪にもなるというのが特色ですね。


 この「巨大ロボットアニメ」は、➀『鉄腕アトム』、②『ヱイトマン』の系譜と異なり、作品の傾向が段階的に進化していった点が注目されます。


 20世紀において、三つの段階があったと思われます。

 すなわち、ファースト、セカンド、サード、といえる三つのインパクト。



一、リモコン(ラジコン)式巨大ロボが登場した60年代……ファーストインパクト


 リモコン装置を介して人間が制御する巨大ロボット。

 これは超合金のラジコンロボと言った風情、玩具のロボをそのまま巨大化した感覚ですね。

 この新しい概念が『鉄人28号』としてブラウン管に降臨、ビルの街にガオーッ! と産声うぶごえを上げたことは、まさに巨大ロボットアニメ史のファーストインパクトでありました。

 そのキモは、主人公はごく普通の人間なのに、リモコンを手にしたとたん、超人的なパワーを駆使することができるということです。

 この点が作品の決定的な魅力となりました。

 要するに、主人公の自分自身がロボットであるとかサイボーグであるといった特殊な要件を備える必要はなく、老若男女誰でもオッケー! ということですね。

 観客からみて、主人公に対して非常に感情移入しやすいわけです。



二、搭乗型巨大ロボが登場した70~80年代……セカンドインパクト


 離れたところからリモコンで操るのは、そのうち飽きが来ますよね。

 できたら、自分が巨大ロボットと一体化して動かしたい。

 そう考えるのが子供心であり、また制作者の願望となります。


 ということで、主人公が巨大ロボットに搭乗することになりました。


 代表的なのは、下記の三作でしょう。

『マジンガーZ』および続編の『グレートマジンガー』『UFOロボ グレンダイザー』(1972-78)

『機動戦士ガンダム』(1978)

『超時空要塞マクロス』(1982)


 まずは『マジンガーZ』。視聴率が30%を超える大化け番組です。

 主人公の操縦コクピットをそのまま小型のエアクラフトとして飛行させ、ロボの頭部にドッキングさせたのは目からウロコの慧眼! 素晴らしいアイデアでした。

 ヒコーキのコクピットに収まったままロボットにドッキングすれば、ヒコーキの操縦がそのままロボの操縦に転換チェンジする!

 ファンの少年たちのメカ愛を存分にくすぐる仕掛けだったのです。


 このアイデアが進歩して、それならば操縦コクピットがエアクラフト・タイプの脱出カプセルを兼ねればいいじゃないか、という発想が具現化しました。

 『機動戦士ガンダム』(1978-)のコアファイターですね。

 巨大ロボットの操縦コクピットが脱出カプセル即ち救命ボートの機能を兼ね、自力飛行能力を備えた小型戦闘機ともなる! となれば、敗ければそのまま戦場からトンズラできるぞ!

 初めて見たとき、おお、これは凄い! と思いました。その手があったか!


 これは、あのマイゴジの震電に取ってつけた射出座席を上回る天才的なギミックで、人道的な意味合いもあったのでしょう。

 ただし作品中では、ほぼガンダムだけの固有装備で、一般化しませんでしたが……


 このコアファイター・システム、ザクにもグフにもドムにもつけておいてあげれば、戦場の様相は随分変わったことでしょうね。貴重なパイロットの無駄な消耗を避けるためにも。

 むしろ、ジオンの敗因はそこにあったのでは……と思うのですが。

 ヤバくなったらコクピットを分離して、自力飛行で帰還できる……この仕組みさえあれば、全員とはいえなくとも、新米パイロットの何割かは救われたのではないでしょうか。


 コクピットごと脱出装置にするというアイデアを拡張すれば……

 それならロボ自体をヒコーキに変身させてもいいじゃん、ってことになります。

 マクロスのバルキリーですね。

 これまた、夢のようなアイデアを形にしてくれたものだ、と大感激ものです。

 ロボットと戦闘機、随時変形するので主人公がいちいち乗り換えなくていい!

 アニメファンを小躍りさせた、偉大なパラダイムシフトでした。

 作品中の空中バトルシーンのダイナミズム、抜群でしたね。

 “板野サーカス”さんの貢献、かくあらばこそ、です。

 まさに、バルキリー=ガウォーク=バトロイドと変幻自在であったからこその、超絶の空中戦シーンを満喫させていただきました。


       *


 このとき同時に、巨大ロボットの運用法に関する歴史的転換が発生しました。

 軍用兵器として使用する。

 ガンダムですね。

 主に星間戦争に活用され、敵も味方も搭乗型巨大戦闘ロボで対戦する。

 こうなりますと、これまでの作品の敵は「世界を征服しようとする悪の組織」でしたが、そうは単純化できません。

 敵も味方も同じ人間……

 となると、どちらも自分が正義であり、互いに敵は悪だと決めつけて闘います。

 どちらの正義が真実なのかは、神のみぞ知る……という、ある意味無責任な設定となってしまうわけです。


 こうして、「正義と悪の相対化」が、ロボットアニメに導入されました。


 これは画期的な進歩でした。

 連邦とジオン、どちらが正義でどちらが悪か、作者は断定してくれません。

 すべて観客が自ら考え、判断しなくてはなりません。

 こうなればもう、子供向けアニメとは言えません。

 大人の思考力と価値観が要求されます。

『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』(1989)

『機動戦士ガンダム MS IGLOO』(2004-06)

『機動戦士ガンダム サンダーボルト』(2015-17)

 この三作に描かれる戦争の悲惨と理不尽は、大人でも頭を抱えそうな悩ましさに満ちていましたね。


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 このように、ガンダムとマクロス、両シリーズがあまりにも革新的であったために、搭乗型ロボットの進化は1980年代で語り尽くされた感があります。


 その一方で「巨大じゃないロボット」に搭乗するタイプがあったことも、見落とせません。

 『未来少年コナン』(1978)のロボノイドは傑作中の傑作、2024年現在の今、どこかの町工場で簡単に製造できそうなメカですね。ぜひリアルサイズで、ジブリパークに特別出演してもらいたいものです。

 また『機動警察パトレイバー』(1988~)に登場する各種レイバーも、今や実現可能域に入ってきましたね。JR西日本が開発している、架線修理ロボットとか。無人操縦の重機類とか、無人田植え機、無人耕運機とか。

 そう考えると、➀アトム ②ヱイトマン ③鉄人28号、以上三つの潮流の中で、③の鉄人28号が私たちの現実社会に最も近い路線を走ったことになるのかもしれません。


 なによりも、その実用化が急速に進んでいるのが、軍事の世界。

 テレビカメラの眼をつけて、一人称視点でリモコン操縦する空中無人機および海洋ドローン。あるいは無人誘導の戦車なども、今後、実戦に現れると思われます。

 自動車の無人運転が可能ならば、当然、戦闘車両も……ですね。

 ことほど左様に、兵器のロボット化は日進月歩の毎日です。

 ちっとも嬉しくない進化なのですが。

 ただ、自動車の無人運転はかなり期待しています。

 ロボットカーが道交法を守って走行すれば、歩行者をはねるなどの事故や、違法駐停車も激減することでしょう。

 いまどき、ズルする人間よりも、多少お馬鹿でもマジメな機械さんの方が信用できるのではありませんか?


  現実の兵器の進歩に合わせて、アニメの搭乗型ロボットも、兵器として洗練されていきます。

『高機動幻想ガンパレード・マーチ』(ゲームは2000~)

『ガサラキ』(1998-99)

『FLAG』(2006)

 それらの作品を彩る搭乗型ロボット兵器は、大きすぎず小さすぎず、兵器として適正なサイズと性能のバランスを意識したかのようで、実に緻密でリアルな出来栄えですね。


 市街戦にせよジャングル戦にせよ、ガンダムサイズのロボット兵器はいささか大きすぎて、1G以上の地表では、整備や運搬にかなり難があるでしょう。破損パーツの交換や兵装の修繕なんか、とにかくデカいわ重いわで、それらを運ぶトレーラーはもっと重くてデカいわけで、兵站を担う部隊は死ぬ思いでしょうね。


 軍用巨大ロボは、敵を殺す前に、味方の“兵站殺しロジキラー”でもあるわけです。

 せめて、普通の戦車なみの整備性で勘弁してほしい……


 使いやすいサイズとしては、『メガゾーン23』(1985)のバハムート・ガーランドあたりでしょうか。装甲バイクに変形して高速移動できる機能は、ゲリラ的な奇襲戦法に最適ですし、大量生産が容易ではないかと。多数そろえて対装甲ミサイルを搭載し、一斉に飽和攻撃を仕掛ければ、ガンダムでもタジタジでは? あ、こうなると『ヴイナス戦記』ですね。


 原点に戻ればハインラインの『宇宙の戦士』ですが、あのパワードスーツが二輪なり四輪で不整地対応の装輪装甲車に変形できれば、とても便利……といったところ。

 固い地面では装輪で走行し、積雪下やぬかるみではロボット化してオプションの“かんじき”を履いて歩行するとか。

 それに空挺作戦にも応用できなくてはなりません。ならば重量は十トン程度に押さえたいところ、となると軽量で機能を満たす新型装甲材の開発が不可避でしょう。

 ロボットの外装も骨格も発泡セラミックや中空カーボンファイバーで、接着剤不要のスナップフィット方式で組み立て、接合部はぴったりと分子圧着。

 ボディの上に反発装甲のアーマーコートを羽織り、ドローン爆弾を防ぐ鋼線の編み笠を頭に被り、足元は地雷を踏んでもいいように装甲ゲタを履くといった、“股旅スタイル”に落ち着くことでしょう。

 任地に着いたら「おひけえなすって、手前、生国しょうごくと発しまするは月面グラナダはアナハイムの生まれ、サイド6で産湯を使い、姓はRX、名は78Gダム、人呼んで白モビと申します……」とか、そんな仁義を切るんでしょうね。


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ネットのニュース

●“火を噴く犬”ロボットが物議「いろいろ燃やしかねない」

2024 4/25(木) 17:47配信 テレビ朝日系(ANN)

All Nippon NewsNetwork(ANN)

“火を噴く犬”が物議をかもしています。

火炎放射器を背負った犬型ロボット。アメリカ・オハイオ州の会社が販売を始めたもので、その価格は9420ドル、日本円でおよそ146万円。

販売会社は意図的に火を付けて防火帯を作るなど、山火事の管理と防止にも役立つとアピールしていますが…。

SNS「これが新たな森林火災の原因です」「この会社はターミネーターを見て、何も学ばなかったのだろうか?」



 ↑これって火トカゲ(サラマンダー)ならぬサラマンドッグ? 文字通りホットドッグか? あんなものを市販していいのだろうか? 犯罪に使われたら悲劇、いや火劇というのか。

 でも逆に、消火器を背負った消火犬ファイアードッグも作れますしね。

 SFがSFでなくなってきたのを実感させられます。

 もちろんそのまま兵器に転用可能でしょう。

 

       *


 このように今後も多種多様なスタイルが出現していくと思われますが、兵器として運用される搭乗型ロボットには、それゆえの宿命というものがあります。


 人類が戦争から足を洗わない限り、物語が終わらない……


 ガンダムに始まる軍用ロボットの歴史は、まさに血塗られた道となったわけです。


 いっぱい死んだよなあ……



    【次章へ続きます】




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