206●『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-2021)⑤ロボットアニメの三源流。そして『アイの歌声を聴かせて』(2021)と、隠れた傑作『メトロポリス』(2001)。

206●『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-2021)⑤ロボットアニメの三源流。そして『アイの歌声を聴かせて』(2021)と、隠れた傑作『メトロポリス』(2001)。




 ロボットアニメの歴史の中で、『エヴァンゲリオン』はどのように位置づけられるのでしょうか。


 そもそも日本のTVアニメの歴史を最初に開いたのが『鉄腕アトム』でしたよね。

 2024年の現在からみておよそ60年の昔、1963年のことでした。


 しかしアトムだけではありません。

 同じ年に、アトムを含めて、下記の三作品が誕生していました。


 ➀『鉄腕アトム』(1963-)

 ②『ヱイトマン』(1963-)

 ③『鉄人28号』(1963-)


 この三作品は、日本のロボットアニメ史の三大潮流の源泉になったと思います。


 ロボットアニメの三つの潮流、少し考えてみましょう。


       *


第一の源流。

➀『鉄腕アトム』は、「ロボット(orアンドロイド)が人間の心を持つ」パターンでした。


 なにぶん手塚治虫先生の作品、アトムそのものがその後何度かリメイクなり映画化され、「日本のロボット=アトム」のイメージが国際的にも定着したようです。

 そのためか、国内では類似作品がほぼ見られません。

 何をやっても「アトムもどき、アトムの猿真似」になってしまいますからね。

 むしろ実写を含む海外作品にこそ、「ロボットは人間の心を持てるのか?」という“アトム的”なテーマがみられます。


『ショート・サーキット』(1986)、『アンドリューNDR114』(1999)、

『A.I.』 (2001)、『ウォーリー』(2008)、

『チャッピー』(2015)、『エクス・マキナ』(2015)……

 ただし国内作品は奮いません。

 特に20世紀のうちは、何をやってもアトムモドキになる苦しさゆえ、作品化が困難だっただろうと思います。


 しかし、さすがオタクな日本人。

 21世紀を迎えて、主人公のロボットを少年から美少女にげ替えることで、ブレイクスルーを果たします。


       *


 すなわち21世紀のアニメでは、美少女ロボットが全盛となったわけです。

 ただし、武器を持つなどして戦う美少女型戦闘ロボット(orアンドロイド)として。


『鋼鉄天使くるみ』(アニメは1999)、『そらのおとしもの』(アニメは2009)、

『ブラック★ロックシューター』(アニメは2009)、『戦闘員、派遣します!』(アニメは2021)、『ドールズフロントライン』(2022)……

『艦隊これくしょん -艦これ-』(2015)や『アサルトリリィBouquet』(2020)も感覚的に近い作品かもしません。


 こうした傾向、なるほどという気もします。

 「美少女AIは人間の愛を理解できるだろうか?」というテーマは、フランスの作家ヴィリエ・ド・リラダンによるSF小説『未来のイヴ』(1886)以来の古典的命題でもありましたから。ニッポンの美少女アニメにしっくりとフィットするわけです。


 その路線の正統派作品としては、OVAの『イヴの時間』(2008-)と、劇場アニメの『アイの歌声を聴かせて』(2021)あたりでしょうか。


 『アイの歌声を聴かせて』(2021)はじつに意欲的な佳作ですが、惜しむらくは主人公の少女サトミが終始、それほど不幸には見えないこと。

 母子家庭とはいえ、母親は超一流企業の課長様なので経済的に豊かですし、住んでいる地域全体が企業城下町で、クラスメイトの親たちも母親と同じ企業の社員ばかり、学校もその企業の息がかかっているという設定ですと、会社内の親のヒエラルキーがそのまま子供たちのヒエラルキーとなってしまうので、友達関係もその影響を受けてしまうでしょう。

 つまり、親も子も、友達となる以前に、企業共同体の仲間となってしまうわけで、主人公サトミの孤独の辛さというものが、いまひとつ実感できないわけです。

 ここは、サトミが『NieA_7』(2000)の主人公まゆ子ほどの極貧で、AI企業とは無関係、母は行方不明で独り暮らし……というくらいギリカツに追い詰められていた方がよかったのかと。


 ただし、AI少女シオンの設定は抜群。「ちょっとポンコツなAI」なんてのは、近未来に実際に出現しそうで、ワクワクさせられます。

 つまり、ちょっとポンコツな感覚、つまりドジでおっちょこちょいな部分まで人間そっくりのAIさんですね。

 この発想の原点は『Dr.スランプ』のアラレちゃんにあるのかもしれませんが、その行動において、人間に無害な範囲で一定の失敗率を容認するAIってことですね。


 テヘペロのドジっ子だけど、人間を幸せにしようとしてくれる、憎めない性格のAI嬢。


 人間と接するAIのインターフェイスに、この感覚は大事だと思います。自らの失敗を絶対に許さないガチガチの万能エリートなAIの末路は、『2001年宇宙の旅』(1968)のHAL9000さんで実証済みですしね。


 ただ、作品タイトルがタイトルだけに、「アイの歌声」はもっと聴きたかった。

 最初は棒読み調の音痴な感じがむしろベスト、それが作中でいろいろな人との感情的な触れ合いを経て学習し、クライマックスでこそ、音吐朗々の雄大なアリアなりバラードをお聴かせいただければ、もっともっと幸せな気分になれたものと思います。

 演出的にはもう、ミュージカル主体で良かったのでは、と。


 そして最終シーンで、無数のAIの集合意思のようなものが顕現する場面、これをもう一息、拡張していただければ、シオンは世界中のもっともっと不幸な人々に幸せをもたらせたかもしれませんね。


 つまり、戦争をやめさせる。


 私事になりますが、私も随分昔に『リバティ・ランドの鐘』という、同趣旨のお話を書いたことを想い出します。「戦闘ロボット」という概念を設定するならば、戦争をやめさせるためには、戦闘ロボットが戦争をやめることに帰結する……という考え方ですね。


 敵味方のモビルスーツがAIの自発決定で一斉に武器を捨てる場面、想像してはいかがでしょう。パイロットがいくらじたばたしても、戦ってくれなくなったら……

 そのような大団円が実現したら、Gの頭文字で始まる巨大ロボットのアニメシリーズは終焉を迎えてしまうでしょうから、まず作品化されることはないでしょうが。


       *


 「ロボット(orアンドロイド)が人間の心を持つ」ことはできるのか? ……というアトム以来の命題に取り組んだ象徴的傑作が、これです。

 劇場アニメの『メトロポリス』(2001)。


 これは実写映画における古典的名作、フリッツ・ラング監督の『メトロポリス』(1927)で衝撃のデビューを果たしたアンドロイド・タイプのロボット・マリアを、21世紀の視点で再解釈した作品であると受け止められますね。


 1927年の実写版を下敷きにした手塚治虫先生の漫画を原作としつつも、大半はオリジナルストーリー。

 こちらでは、21世紀版メトロポリスのロボット少女・ティマが主人公となります。

 1927年の『メトロポリス』では、聖少女マリアとロボットのマリアが、清純な乙女と残虐な魔女の二面性を堂々と演じ上げました。このころは「人間=善、ロボット=悪」のレッテルが普通だったのですね。


 それに対して2001年のティマは、“人間の娘の代用品として作られた”ことが原因で「私は人間、それともロボット?」と自問し苦しみます。

 彼女を創り出した人物は、彼女に、自分の可愛い娘としての役割と、そして世界を支配し、破滅させるパワーを持つ超越者としての役割、その両方を期待します。

 ごく普通の人間の少女として、彼(ケンイチ君)を好きになった自分。

 そして、世界を破壊できるロボットとしての自分。

 二つの役割は、激しい自己矛盾を彼女の中に巻き起こします。


 自分は天使なのか悪魔なのか、苦悩する少女ロボット。

 切なく哀れで、可愛くも妖艶、両世紀を通じて、オールタイムSFの最高峰に位置するロボットキャラではないでしょうか。

 だって、彼女のあのラストシーン、顔面の半分が機械で、どす黒いオイルの涙を流して苦悩する姿は、人間以上に人間的だったのではありませんか?

 苦悩するって、まさに人間のシルシですよね。

 身体が機械であろうがなかろうが、彼女の魂は疑いもなく人間だった。


 2001年の公開当時はヒットしたとは言えず、その後のアニメ作品で戦闘美少女が華やかにTV画面を占領してしまったので、すっかり日陰に隠された傑作と化した感があります。

 しかし「主人公はケンイチ君でなく、少女ティマである」ことを念頭に置いて繰り返し観ると、今もじんわりと感動が湧いてきて、胸が揺さぶられます。

 結末の切なさ、超ド級ですよ。


 未見の方にはぜひお勧めしたい、イチオシの傑作です。



    【次章へ続きます】


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