205●『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-2021)④ネルフを支配した教祖ゲンドウの身勝手、そして十字架を背負ったミサト。
205●『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-2021)④ネルフを支配した教祖ゲンドウの身勝手、そして十字架を背負ったミサト。
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エヴァンゲリオンは、宗教的(
そのように考えますと、1995年から2021年までのエヴァの物語は、物凄くシンプルに理解することができます。
まず、20世紀のエヴァ、TV版と旧劇場版です。
教祖ゼーレ様がもくろむのは、サードインパクトの実現による、人類補完計画。
そうすることで全人類があらゆる不幸とその原罪から解脱し、究極の幸福を得られる……らしいとか。
しかしゼーレの下に位置する実行組織であるネルフを、個人的な目的で事実上乗っ取ってしまい、「日本ネルフ教」ともいえる新興宗教団体に変えてしまったのが、碇ゲンドウ。
その二枚舌と三枚舌を駆使して、世界のエヴァンゲリオンを日本に集めて「独り占め」しようとする手練手管のあざやかなこと。
そしてとうとう「日本ネルフ教」は最後の使徒まで攻略してしまいました。
白いブヨブヨのリリン(だっけ?)とか、ベークライト固化した「最初の人間アダムだよ」なんかまで、妖しい宗教グッズを次々と手に入れて、「俺様用サードインパクト」の条件を揃えてゆくゲンドウの傍若無人ぶり。
ここで自分勝手なサードインパクトを起こされてはたまらんとばかりに、堪忍袋の緒が切れたゼーレはついに、日本ネルフを人類の敵……殲滅すべきテロ集団に指定。
戦略自衛隊は日本ネルフ教団本部を急襲、『On Your Mark』みたいな殺戮の限りを尽くします。
ゲンドウは綾波レイを連れてセントラルドグマ(?)に、そこでレイと一体化し、みずからサードインパクトを主宰する司祭にならんと欲するのですが……
レイは巨大化し、サードが始まったものの、なぜかシンジ君のつぶやきによって途中でストップ、綾波のハーフカット生首が転がる真っ赤な渚でアスカがつぶやいた「キモチワルイ」は、なんだかわけのわかんないインパクトにトチ狂って世界を滅茶苦茶にしてしまったアホなオトナたちへの嫌悪感ではなかったのか……
そんな印象です。
神と正義のためと称して戦争を引き起こして殺戮と虐待と飢餓を招くことしかしない悪魔並みに身勝手すぎるオトナたち(21世紀のガザやウクライナにみるように)への、的確な指摘が、「20世紀のエヴァ」ではないでしょうか。
大人たちの愚かさがもたらす社会崩壊。
苦しみ翻弄されながら、ただ事態に直面するしかないチルドレンたち。
チャイルドでなくチルドレンと複数形になっているのは、シンジ君、レイ、アスカ、カヲル君やマリに、それぞれ無数の子供達や若者の魂が重ねられているから、かもしれませんね。
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そして21世紀のエヴァ、新劇場版です。
日本ネルフを乗っ取って個人経営の新興宗教に模様替えし、「自分好みのサードインパクト」の完遂を目指すゲンドウ。
ゲンドウの部下で、新興宗教の幹部にされてしまったミサトは、ゲンドウの勝手気ままに愛想をつかして教団を出奔、「ネルフ殲滅」を旗印に掲げて、教団被害者の救済組織ヴィレを立ち上げます。
結局、被害者を救う唯一の方法は、旧劇場版と新劇場版第二作で中途半端に阻止されたサードインパクトを完遂させようとするアディショナルインパクトの阻止。
そのためには、インパクトの必須要素である「全てのエヴァ」を消滅させること。
そのためには首謀者であるゲンドウを殺害するしかない。
ミサトが用意した人類最後の希望であるガイウスの槍、ミサトはそれを命と引き換えにシンジ君に渡します。
DVDで、視覚に障害のある方々のための音声ガイドを聴きながら観ると、いまや日本ネルフの教祖様であるゲンドウは、ネブカドのカギとやらをつかって自ら神様に昇格しておられることがわかります。
繰り返し何度も申しますが、「音声ガイド」は絶対に必聴です。
あれをONにして二回三回と観れば、アーラ不思議、難しいエヴァがビックリするほど易しくわかる(もしくは、分かった気になれる)のです。まさに洗脳効果とでも言うのか。ぜひお試しあれ。
神様のゲンドウは「神殺し」を目論んでいることがわかります。
なんだか『もののけ姫』の21世紀版ですね。
神様を殺す行為は、悪魔の所業だぞ、それを神様がやっていいのか? ……という疑問も生じますが、神様を殺すためにわざわざ悪魔になりたがる人間はいないだろうと思いますので、ゲンドウ氏は落ちても拾って使える脳味噌ごと、ちょっとおかしくなられているのかもしれません。
最初のTV版『宇宙戦艦ヤマト』の終盤で、ガミラス本星がいよいよヤバくなっているのに「手ぬるい、本土決戦なのだ!」とますますアゲアゲ気分でガハハと自己陶酔のデスラー総統、それを見る副総統ヒスが「おかしくなられた……」とつぶやく、あんな感じですね。
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そのような次第で、「碇家の家庭崩壊」に集束した新劇場版。
『スター・ウォーズ』の主要九部作と同様に、最後は家族ドラマとして完結を見たのです。
20世紀のエヴァは、インパクトにからむ「社会崩壊」を描きました。
教祖ゲンドウの正義は社会の正義とはならず、日本ネルフはゼーレによって反社にされてしまったのです。
20世紀のエヴァは、インパクトにからむ「家庭崩壊」を描きました。
ミサトの反社的奮闘すなわちカチコミ作戦を発端として、全てのエヴァは消滅し、「エヴァの無い世界」が実現して、全てのチルドレンは救われたのです。
エヴァはチルドレンたちにとって、人生の呪縛であり、自由を奪う拘束具であったのでしょう。
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で、結局、ハッピーになったのは、誰だったのでしょう?
一つの作品を考察する上で、「最後に幸せをつかんだのは誰か」を確認するのは、アルティメットにマストな必須事項ですね。
まずゼーレのおっちゃんたち。「よい、これでよい」と能天気に成仏されました。
あのサウンドオンリーのモノリスを並べて会議される様子は、どことなく町内会のおっちゃんたちの趣でしたね。
にしても、罪深い人たちでした。
何十億人だかの人類をニアサードインパクトの道連れにしたのですから。
おおむね人類はそれでよかったのか? はなはだ疑問ですね。
だって、無理矢理昇天。
あれって結構、不幸じゃないかな?
そして、ゲンドウ。
ユイに導かれて成仏しました。
あれだけ他人を不幸に(とくにミサトとリツコ、無数の複製レイとリツコの母親はとりわけ悲惨)しておいてからに、責任は一切取らずに幸せ満々でに昇天なさるのは、ちょっとどうかとも思いますが、ともあれゲンドウの魂はお幸せになりました。
シンジ君、レイ、アスカ、カヲル君、マリ、それぞれのチルドレンも、「エヴァの呪縛」から解き放たれ、
束縛を外し、自由の世界へと。
で、結局、不幸を背負ったのは……
ミサトさんですね。
最後の最後で、エヴァのありとあらゆる原罪の十字架を一人で背負われてしまいました。
これ、まるで女性版イエス・〇リスト様です。
それとも火刑台のジャンヌ・ダルクか。
ひとりだけ、不幸な結末。
これはいけません。
いくら「サービス、サービスぅ!」でも、サービス残業させすぎでブラック化したようなものです。
庵野監督、ここはひとつ続編として「葛城ミサト救済編」をお願いいたします。
ミサトさんに関しては、エヴァは完結(めでたく昇天)しておりません。
ご本人、メチャクチャ心残り、現世に莫大な未練を残しておられますよ。
で、方法は簡単です。
救われたシンジ君、そう、ラストの宇部新川駅のシーンでシンジ君の声を当てられていたのは、どなたでしょうか。
あの俳優さんが救うのです。
そうです、ミサトさんの救出方法はアレです。
神木震電! あの、取って付けた脱出装置!
【次章へ続きます】
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