204●『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-2021)③あまりにもシンプルに理解できる、宗教的エヴァの構造。

204●『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-2021)③あまりにもシンプルに理解できる、宗教的エヴァの構造。




 『新世紀エヴァンゲリオン』は、1995年のTV放映の直後あたりから、その内容の宗教的な描写が注目されていました。


 エヴァは「宗教的(心霊的スピリチュアル)ロボットアニメ」として評価できるのではないか?

 1995年のTV版から2021年の新劇場版第四作の完結に至るまでをひとまとめにくくり、宗教的、あるいは心霊的スピリチュアルな意味合いの超大作アニメとして考察する試みは(私はまだ読んでいませんが)すでに各所でなされているでしょうから、皆様には旧聞もいいところの特大耳タコだと思います。

 ここは、私のあくまで私的な感想として、読み流して下さればと……


      *


 エヴァは「宗教的(心霊的スピリチュアル)なアニメ」だった。


 そう仮定してみますと、四半世紀にわたるエヴァンゲリオンのストーリーの流れが、日本というこの国で巻き起こった宗教的事件と、見事なまでに同調シンクロしていることに驚かされます。

 すべてが偶然の一致なのですが、まるで申し合わせたみたいに……


      *


 まずは、TV放映された1995年。

 となると、OMS理教の事件ですね。

 同じ年の3月、地下鉄サリン事件勃発。5月には上九一色村の教団施設が一斉捜索され、教祖が逮捕されました。

 そして10月、エヴァのTV放映始まる。

 良くも悪くも、OMS理教に端を発して、新興宗教への猜疑と不安が猛然と渦巻く世論の只中、エヴァではサードインパクトの危機が描かれます。

 TV放映版では、サードインパクトなるものが人類にとって恐るべきカタストロフ……というよりも、当時に流行った言葉では「ハルマゲドン」に近い破滅的な事象として暗示されましたが、あの25-26話の内容にみるとおり、先にシンジ君の心の補完が語られ、結論は先送りにされました。


 「新入社員の研修みたい」とも評された25-26話ですが、むしろ当時は「新興宗教の入信の儀式みたい」……と勘繰った視聴者が多かったのでは?


 しかも時代は世紀末、「ノストラダムスの大予言」が取沙汰され、1999年のハルマゲドンの到来が巷で噂になることに加えて、OMS理教の事件。

 エヴァ旧劇場版(1997-98)は、そのまま“ハルマゲドンの予言”として、心霊的スピリチュアルなアニメファンに受け止められたのではないでしょうか。


 宗教的、あるいは心霊的スピリチュアルな予言がもたらす「社会の崩壊」に対する、漠然とした猜疑と不安と恐怖……

 それが、エヴァ旧劇場版(1997-98)の内容に重ねられていきます。


 TV放映された1995年には、もうひとつ、傑作アニメが誕生していました。

 ジブリの『On Your Mark』(1995)ですね。

 怪しい新興宗教の本部を急襲、殺戮をためらわない官憲の対テロ精鋭部隊。

 OMS理教の事件を思い起こさずにおれないその場面は、エヴァ旧劇場版における、戦略自衛隊のネルフ本部急襲シーンにオーバーラップします。


 あれれれ……と、観客は混乱します。

 使徒を撃退して世界の平和を守って来たはずのネルフが、まるで「宗教じみたテロ集団」と看做されて殺戮の対象にされている……

 もうこの時点で「わ、わけがわからん……」と私は頭を抱えておりました。

   (この件の説明は次の章で)


 ともあれ。

 B級グルメで「春巻丼」が一世を風靡(?)したハルマゲドン前夜の世紀末、旧劇場版(1997-98)は当時の若者たち……とりわけシンジ君たちチルドレンと同じ十代の少年少女に、洗脳的なまでの福音(もしくは逆福音?)をもたらしたわけです。


 しかし現実には、2000年9月13日に南極で勃発するはずのセカンドインパクトは生起せず、何事も起こらずにスルスルと世紀末は過ぎてしまい、エヴァとともに大人になってゆく若者たちを待ち受けていたのは……

 カタストロフ並みの就職氷河期と、ハルマゲドン並みの貧困と重税と物価高に彩られた「失われた30年」でした。

 これ、十分にセカンドインパクトですよ、その悲惨なこと。


 にしても、最初は「失われた10年」だったものがいつのまにか「失われた20年」「失われた30年」に延長され、そろそろ「失われた40年」との声もチラホラ。

 老朽原発をズルズルと延命させるような言葉遊び……

 性懲りもなく言葉の言い換えを繰り返すだけで、なにひとつ有効な解決策を打ち出せなかった政権の責任は少なからぬものがあると思わざるを得ません。

 だってね、太平洋戦争に敗けてマイナスゴジラに荒らされた国土ペッチャンコのあの時期から40年後の1985年には、ニッポンはジャパン・アズ・ナンバーワンで繁栄の右肩上がり。ニューヨークやハワイを買い占める直前にまで大発展していたんですからね。

 「失われた30年」、ニッポンを動かす政治家様たちは何をしていたんでしょう?

 そっか、裏金作りか……


 と、ヘタレも極みの21世紀ニッポン。

 そんな中、2007年から2021年にかけて、エヴァ新劇場版が公開されました。


 この時期、ニッポンはもうひとつの宗教的事件に翻弄されていましたね。

 QT一教会に傾倒して全財産を寄進する信者たちの「家庭崩壊」です。

 新劇場版の最終、第四作が公開された翌年、2022年の夏には、あの元総理銃撃事件が発生します。

 その容疑者とされる山上氏は、エヴァTV放映の1995年当時は14歳。

 まさにシンジ君の世代でした。


 彼を銃撃事件に走らせた要因はやはり、家庭崩壊にあるでしょう。

 加えて、派遣労働など非正規雇用にみる薄給。

 そして物価高になるほど増額される消費税にみる、重税。

 薄給と重税がもたらす貧困が無ければ、彼はそこまで追い詰められなかったかもしれません。

 凶悪な事件であればあるほど、そうした事件を生み出す社会背景は無視できないものと思います。

 だって、「宗教がもたらす家庭崩壊」に苦しむ人々は、まだまだ大勢おられるのですから。


 エヴァ新劇場版が色濃く描いたのは、“碇家の家庭崩壊”でした。


 となると、1995年のTV版から四半世紀にわたる『エヴァンゲリオン』の物語は、この国のロスジェネ世代のチルドレンたちが「宗教と貧困の十字架」を背負って歩まされた、いばらの道行きということになりましょうか。



   【次章へ続きます】


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