117●おすすめ映像音楽(15)…『スター・ウォーズ』、あの日の熱狂を再び味わう。
117●おすすめ映像音楽(15)…『スター・ウォーズ』、あの日の熱狂を再び味わう。
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“メータのロス・フィル”が『スター・ウォーズ』の音楽で、どうしてこうも凄いのでしょうか。
思いますに……
余裕、の一言に尽きるのでは。
指揮者の楽譜解釈のセンス、楽団員の個々の能力がケタ違いに充実していて、たっぷりと底力をたたえた、余裕に満ち満ちた演奏、ってことではないでしょうか。
1978年の録音時点のロス・フィルは、指揮者ズービン・メータ氏が1962年より1978年まで音楽監督を務めた、その最終年に当たります。
その時期、メータ氏は40歳前後。パワー漲る若々しい指揮っぷりに加えて、ロス・フィルの力量も頂点に達していたことでしょう。
良い意味で、オーケストラがビッグ・モンスターに育った、まさにそのときに、『王座の間とエンドタイトル』が録音されたのではないかと。
もう一つは、『スター・ウォーズ』が1977年に公開された、その翌年の演奏であったことです。
この世にはまだ、エピソード4しかありません。
それも、続編が確約されておらず、“4”とつけられていなかったエピソードです。
この先、どうなるのかわかりません。
ルーク、レイア、ソロ、愉快なロボットたち、宇宙の“旅の仲間”が集い、義侠心を武器に強大な帝国と戦う、胸のすくような雄渾のクエストは幕を開けたばかりです。
続きを観たい!
これから何が起こるのか、だれもが期待し心躍り、ワクワクしていた時。
その時代の爆発的な熱気が、演奏に乗り移っているかのようです。
20世紀の、その時代の空気を今に伝える証人ともいえるのかもしれません。
食にたとえるなら、極上品の
いくらおかわりしても、この上なく、おいしい。
あるいは極上のスルメかな。
噛めば噛むほどに美味くなる。
そんな感じです。
しかしこのCD、お値段はとても庶民的。
ネットにて数百円で買える品ですね。
聴き逃したまま人生を終えるのは不幸というもの。絶対におススメです。
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『王座の間とエンドタイトル』の組曲版、7分台バージョンは、私の知る範囲では、さらに下記の3枚のCDに収録されています。
(確かめて選ばないと、サントラに準拠した5分台バージョンだったりしますので)
●『ベスト・オブ・スターウォーズ』1990年、2000年発売
(ソニーレコードSRCR-1874、2609)
ジョン・ウィリアムズ指揮 スカイウォーカー・シンフォニー・オーケストラ
作曲者自身の指揮。シャープで綺麗な演奏ですが、おとなしくちんまりとまとめた感もあります。意外やハープの存在感がキラリ、ファンタジックでスマート、ややポップな演出です。なんというか、砂糖菓子のような『スター・ウォーズ』ですね。
“
●『スター・ウォーズ・フィルム・スペクタキュラー』
〈『王座の間…』の録音は2001年〉
(キングレコードKICC-1416)
沼尻竜典指揮 日本フィルハーモニー管弦楽団
弦のキレがよい、のびやかなプレイ。楽器同士が出しゃばらずに譲り合って、全体のバランスが素晴らしい。優美で典雅といったところか。どうしても金管はおとなしく聴こえてしまいますが、豊かで落ち着いた調べに安心できます。やはり和食といいますか、精進料理的。奥ゆかしいニッポンの音だなあ。
●『ミュージック フロム ザ スターウォーズ サーガ』2015年発売
(ランブリングレコードRBCP-2958)
シティ・オブ・プラハ・フィルハーモニック・オーケストラ
繊細さよりも、管も弦も粗削りにズンズンズンと突き進むイメージ。決してヘタではないのですが、オケの編成がやや小規模らしきところに、個々の楽器が遠慮なく自己主張して、まあ賑やかなこと。なんだか民族的で、古代北欧のバイキング軍団が宇宙戦争しているみたいな荒っぽさ。骨付き焼肉的な味わい。これはこれで良いのです、個性的なことでは意外とおススメ。
けれど、あのトランペットの
そのかわり同盤に収録の『帝国のマーチ』は、近寄ると棍棒でブン殴られそうな暴力的迫力で、おどろおどろしく野蛮感満載。そう、これは同じ帝国でもクリンゴンの方! 最も面白くて恐い演奏かも!
さらに同盤のトラック11『フラッグ・パレード』はどうみても愉快なガラクタパレードって感じに聴こえます。トラック6の『ハン・ソロとレイア姫』はなんだかホニャララと気が抜けた雰囲気、二人並んで屋台のラーメンをすすっておられるような情景が浮かびます。トラック13の『運命の闘い』は、ドス持ってオラオラとなだれ込む感じが昭和30年代ヤ●ザ映画のカチコミシーンだぜ!
などと、これまた楽しいですけど、もう別の映画みたいで……
良い意味で、デラックスなB級珍盤って感じですよ。
このほか、山本直純氏の指揮によるNHK交響楽団の演奏で7分バージョンの同曲がネットで聴けます。これも緻密で調和のとれた華麗な演奏。
ただ、演奏のレベルの高さは強く感じ取れますが、ニッポンの楽団の演奏は概して、優美だけれど個性的ではない、という傾向にありそうです。熱狂的感動に巻き込まれるような高揚感を求める演奏ではなく、美味しい音をじっくりといただく、という感じですね。お節料理のお重みたいな。
なお1986年発売のコージアン指揮、ユタ交響楽団の『スター・ウォーズ三部作』(ビクターVDC-1030)も名盤の誉れ高く、何度も再販されています。フランス料理のコースみたいな豊潤な味わい。しかしこれには『王座の間とエンドタイトル』がもともと収録されていません。うーん残念至極。
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いずれの演奏も、『スター・ウォーズ』エピソード4、5、6が公開されたのちの録音ですので、『王座の間とエンドタイトル』は、数あるサウンドのひとつに埋没した感もあります。
『スター・ウォーズ』の音楽を楽しむ基本はやはりロンドン交響楽団のサントラ盤。代表例は『スター・ウォーズ特別篇 20世紀フォックス映画提供オリジナル・サウンドトラック・レコーディング』。
この、1997年発売の二枚組(BMGジャパンBVCF-2101~2)に始まるオリジナルトリロジー3品は基本のキですよね。
音楽的に劇的な展開を堪能させてくれるのは、2品めの『帝国の逆襲』です。
そのエンドタイトルは、サントラ屈指の名曲でしょう。
演奏もこれが最高、管も弦も実に伸びやかです、宇宙ってこれだよ。
とはいえオリジナルトリロジーだけでCD六枚の一大交響巨編となりますから、聴き通すのは一苦労かな。
その意味でも、メータのロス・フィルは貴重な歴史の遺産と言えましょう。
あの一曲、『王座の間とエンドタイトル』に注ぎ込まれた情熱のマグマは、やはり超高温であると思うのです。
1977年の映画公開で、ルークとレイア姫、ハン・ソロたちは、若きSFファンの“心の友”となりました。レイア姫は庶民的なオーラゆえか、“芋姉ちゃん”と呼ばれもしましたが、どうしてどうして、愛らしくてキュートですよ!
ファンの若者たちは、ルークたちと共に冒険の旅を経験したのです。
ルークたちの喜怒哀楽は、観客たちの喜怒哀楽でありました。
その事実を最も印象的に記録した音源が、メータのロス・フィルなのでしょう。
“新たなる希望”に皆が湧いた、1978年という、その時代の証人でもあるわけです。
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