116●おすすめ映像音楽(14)…メータ&ロス・フィルの神演奏『王座の間…』は二分長い!

116●おすすめ映像音楽(14)…メータ&ロス・フィルの神演奏『王座の間…』は二分長い!




 『スター・ウォーズ』の音楽は米国映画協会MPAから「アメリカ映画史上最も記憶に残る映画音楽」に挙げられたとか。それほどに評価の高い『スター・ウォーズ』の音曲群の中で、最高のCDを一枚選ぶとすれば……


 デッカのベスト100に含まれる、これ。

 『ホルスト:惑星/J・ウィリアムズ:スター・ウォーズ メータ』(UCCD-7016など)ですね!


 ズービン・メータ指揮、ロサンゼルス・フィルハーモニー管弦楽団の演奏。

 録音は1978年。

 ホルストの『惑星』(録音は1971年)とのカップリング版です。


 『スター・ウォーズ』はサントラのスコアでなく、『スター・ウォーズ組曲』として改めて編曲された五曲が収録されています。

 中ても最高の一曲、『スター・ウォーズ』関連の演奏の中でも名演中の名演と思われるのは、トラック13の最終曲、『王座の間とエンドタイトル』ですね。


 凄い、他のCDの群を抜く、まさに神演奏。

 どこが凄いのかというと……


 まず、この曲、『王座の間とエンドタイトル』は、サントラとは別に、『スター・ウォーズ組曲』の最終曲として特別に編曲されたものであること。

 つまり、タイトルは同じでも、中身は少し異なる、別の曲なのです。

 サントラ盤の『王座の間とエンドタイトル』は演奏時間が五分台。

 しかし組曲版の『王座の間とエンドタイトル』は演奏時間が七分台。

 ということは……

 二分程度の内容が、追加されているのですね。

 それを聴き比べてみますと……

 同じタイトルの曲でも、サントラ盤と組曲版では、まるで印象が異なることに気づかされます。


 サントラ盤の曲の構成は、こんな感じです。

 王座の間Aパート → 王座の間Bパート → エンドタイトル


 しかし組曲版では、王座の間Bパートの末尾で、ダン・ダカ・ダン! と区切りをつけて、そこから約二分のCパートが挟まれています。内容的にはBパートに近いので、“B´パート”と言っていいかもしれません。


 すなわちメータ指揮、ロス・フィルの演奏はこうなります。

 カッコ内は曲の開始からの経過時間。


 (0:00)王座の間Aパート → (1:02)王座の間Bパート → (1:58)王座の間Cパート→ (4:07)エンドタイトル (7:18で演奏終了)


 じつはこのCパート、あるとないとでは大違いです。

 曲全体の印象に大きく影響してくるのです。


 王座の間Aパートは、ファンファーレです。

 大団円の幸せな始まりを告げるラッパですね。

 Bパートは、表彰式、勲章授与の場面です。英雄の勇気と功績を讃える時間。

 以上、堂々とした素晴らしいグランドマーチです。


 そしてCパートは、一転してしんみりと、レイア姫のテーマ、そしてルークが惑星タトゥーインの夕日を眺める場面を思い起こさせる、望郷と郷愁のひと時。

 つまり、エピソード4の物語の最初の方に、ふっと引き戻されるのですね。

 ここで感じさせられるのは、英雄を讃えるともに、その陰で命を懸けて働いた人々のこと、そして今は亡きルークの育ての両親やオビ・ワン、デス・スターに殺された無辜の群衆の魂です。

 英雄を支えた有名無名の人々への感謝と、犠牲者への追悼と惜別の念が、ここに捧げられている。

 そう受け止められるのです。

 Cパートの有る無しで、全体の曲想が変わり、まるで別の曲になるのです。

 戦闘機イーグルと、戦闘爆撃機ストライクイーグルみたいな関係でしょうか。


 そしてシンバルの連打に導かれて、トランペット中心による、長い鎮魂の喇叭ラッパ

 Bパートではバイオリンなど弦楽器で奏でられていた旋律が、Cパートでは管楽器で高らかに、かつ荘重に吹奏されます。

 ここ、泣ける。ジワッと涙です。

 長い。

 トランペットの音が、ずーーーっと遮ることなく、続いていく。

 その力強さに、圧倒されます。

 つまりですね、同じ組曲版の『王座の間……』を収録した他のCDでは、やや駆け足で、パーパパラパパ、パラパー、パラパーパ、パラパーラパー、パラパーラ、パラパパ、パーパラパパ、パパパラ、パパパラ、パラパパーパラパー、と、幾つかに区切って聞こえるものが、パーパパラパパパパパー、パラパーパパラパーパパー、パラパーラパラパパパーパラパパパパパラパパパラパラパパーパラパー、……と、ほとんど一本につながって、しかも、ゆったりと長く聴こえてくるのです。

 ど、どこで息継ぎしてるんだろう? そんなことを心配したくなるほどに。

 もう、超絶の肺活量、異次元の風力です。

 しかも、滑らかで美しい。

 空中に貼られたシルクの帯を、妖精のスケーターがツツーっと滑ってくかのような優雅さも感じさせます。

 しかも、そのあとに続く、エンドタイトルの演奏も神業。

 速い所は早く、重々しい所はどっしりと、緩急相交えて聴き手の心をがっちりと掴みます。

 ドドドッと攻める部分、フッと息を抜く部分、のびのびと曲想を拡げる部分、それぞれの切れ味の鋭さ、そのバランスの絶妙なこと。

 引き込まれ引き込まれて我を忘れ、あっという間に演奏が終わります。

 聴く、というより、魂を持って行かれる演奏なのです。


       *


 この組曲版『王座の間とエンドタイトル』は、メータ&ロス・フィルの側から演奏したいと依頼があって、組曲として編集されたそうです。

 そりゃそうですね、必要性がなければ、わざわざサントラの楽譜スコアを組曲化することはないでしょう。

 つまり、ひとつの幸運な偶然があって、組曲版『王座の間とエンドタイトル』がこの世に誕生したことになります。

 このとき作曲者のジョン・ウィリアムズ氏は、二分間の楽譜を追加した。

 その理由は明らかですね。適当に中身を“盛った”はずがありません。

 完成度を高めるためです。

 

 つまり、七分台バージョンに延長された、組曲版『王座の間とエンドタイトル』こそ、サントラ盤の五分台バージョンでは不足していた要素を補完して、本来あるべき姿を備えた、本物の『王座の間とエンドタイトル』ということになるでしょう。


 メータ&ロス・フィルに感謝! ですね。

 わずか二分間の追加ですが、そのことによって、この名曲が、本当の意味でこの世に誕生したと考えられるからです。






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