100●その他:セレブリティ讃歌② 音響の極楽浄土。

100●生活雑感②…セレブリティ讃歌 音響の極楽浄土。





 ソニーの『セレブリティD-3000』。

 発売は1994年。

 バブル景気(1986-91)の残り香もゆかしい、リッチでゴージャスな機械です。

 アニメなら『トップをねらえ!』が1988-89、『新世紀エヴァンゲリオン』が1995-96、『サクラ大戦』の発売が1996ですね。

 その時代に、ソニー・ファミリー・クラブでの職域訪問販売と通信販売のみで市場供給された“高級CD電蓄”だったとか。

 お値段なんと22~23万円。

 天下のソニー、自信の強気勝負。

 それだけあれば、タンスや“長持ち”サイズの、立派な本格オーディオが揃います。

 ネットを見ると、会社の昼休みのデモ展示で、ローレライの歌声に溺れた船乗りの如く、その妙なる音色にイチコロとなり即決、奥さんに内緒で二年間の分割払いを契約したとか、なんとも感動的な武勇談がチラホラ……

 欲しいなあ、けど高嶺の花……


 といっても、既に販売は終わっており、手つかずの“新品”があったら奇蹟に近いですね。

 欲しいと思ったのが2014年頃のことですから、どのみち20年前の中古品のみ。

 ネットで、五千円で買いました。

 長年ガレージで埃を被っていたクラシックカーの風格。

 ホントに埃だらけ。

 外装をアルコールティッシュで拭き、前面の黒ネットはネジで外せますので、中性洗剤で丸洗い。できるだけ埃と汚れを落とします。

 なにぶん二十年昔のご老体。常時通電して回路に負荷をかけるのは不安なので、電源コードのプラグとコンセントの間に“節電コンセントスイッチ”を挟んで、使うときだけ通電するようにしました。

 さすがにCD機能は寿命が尽きているので、同じくネット買いした、同時代の国産CDプレーヤーとつなぎます。

 現在はオンキョーさんの『C-705X』を使っています。1999年発売の中古品ですね。外部入力の線を延ばしてプレーヤーだけ手元に置けるので、CD交換が楽ちんというメリットも。

 しかも、持っているCDはほとんど、ネットで買った中古品の当時物。

 ソフトもハードも、まるまる20世紀の音を楽しめるわけです。


 聴いてみました、『交響詩 GUNBUSTER』。

 おおっ、これは違う、本質的に違うぞ! 震える、鳥肌だ!

 二十年の老いを感じさせないセレブ嬢、ロートルパワー全開!

 腹にこたえる重低音はヤマトの波動砲だぜ。

 定年を迎えても、バリバリ元気に再就職するキャリアマダムみたいです。


 目を閉じれば、コンサートホール。

 ここで楽器を鳴らしてまっせ! と言わんばかり。

 これがアコースティックというものか、と今頃になって悟る、私。

 とにかく、楽器ひとつひとつの音色が美しい。

 これまではチラチラとか細く主旋律の演奏に隠れていたパーカッションなどの脇役が、はっきりと聴きとれる。

 あ、こんなところにささやかなシンバルが、かそけきトライアングルが、ひそやかなハープの一節が……と、従来なら聴き漏らしてスルーしていた内気な楽音が、楚々とした姿を現してきます。

 音響の分解能が優れているというのか。

 しっかりと薬味の効いた演奏を堪能できる。

 いい、これはいい!

 特にピアノ、そしてチェロ、バイオリンなど弦楽器の存在感、抜群。

 そう、まさに存在感ですね。電子的コピーでなく、引き込まれるほどオリジナルに近い「音はここにいる!」感覚です。


 これまでは“曲”を楽しんでいましたが……

 これからは“音”の美しさも楽しめます、ってことですね。


 それぞれの楽器が、ここまで心地よい楽音を奏でていたのかと、驚かせてくれる機械だったのです。


 これまでは楽器やら演奏者が横一列に聞こえましたが、

 これからは縦にも並んで聞こえてきます。かなりの奥行き感。


 ということで……

 完全に、ハマりました。


 正価の坊主様も良いのですが、セレブリティさんと比べると、どことなく、電気的に作った音というか、ピリピリ感が漂っているような……

 最近の若い子が作った、キレキレでキンキンの歌は、そちらの方が合いそうです。


 セレブさんは、やはりクラシック曲に強い。

 多数の楽器が首を揃えて、粒立ちのよい銀シャリご飯のように、ひとつひとつが存在感を示しながらも、全体で見事なハーモニーを奏でるとき、セレブさんは最高に輝きます。

 なんと言いますか、音楽を“聴く”よりも“味わう”感覚を体験させてくれるのです。



 このようにして、音響の極楽浄土を手に入れました、ただの自己満足ですが。

 ともあれ「安物買いの銭失い」は、めでたく終点となったわけです。


 五千円ほどで手放す方がおられるということは、新しく購入された21世紀のオーディオシステムの方がずっとすぐれているということでしょう。

 しかしなぜか、私は老嬢のセレブさんで満足しています。必要十分かと。

 デスクで聴くときは、スピーカーからの距離わずか一メートル。

 ボリュームのツマミは、MiniからMaxまでを十とすると、ほぼ一以下で聴いている状態でして、彼女の実力を全然使いこなせていません。

 さらに追加購入したセレブさん2号機を八畳ほどの居間にも置きましたが、こちらはボリュームが十のうち三くらいでバンバンに音響充満です。

 二重窓にしていますが、音漏れが心配になるほど。

 セレブさんの潜在能力、底知れぬものがありそうな。


 さらにもう一台、セレブさん3号機を、DVD専用モニターにしているTVにつないでいます。

 TVラックの下段にぴったりのスペースがあって、そこへ押し込む形。

 ワーグナーの『リエンツィ』とか、オペラのDVDを観ると、ああ甘美なる陶酔。

 居ながらオペラハウスです。コロナ禍の巣ごもりに最適。

 いやもう、これで十分です。

 また、好きなアニメに『クロノクルセイド』があり、DVDをかけますと、TVの付属スピーカーではBGMの音響レベルが高くてセリフが聴きとりにくい、しかも字幕が無いというのが悩みでした。

 セレブさんに換えたら、セリフがクッキリ。聴き分けられる!

 やはり音の“分解能”が優れているようです。賢いセレブさん。


 しかし、なにぶんセレブさんは、2021年の現在ですと30年近く昔のロートルお嬢さんです。

 新しいCDとは、嫁と姑みたいに、ときどき高音の相性がそぐわず、チリチリノイズが出てしまう場合もありますが、そんなときは親亀のセレブさんに子亀のように載せて設置している、これも中古品で買ったオンキョーさんの“CDチューナー オーディオシステム”「CBX-Z20」の出番です。

 「CBX-Z20」は2006年頃の発売なので、まだ15歳あたり。人間なら定年退職の域とはいえ、比較的新しいCDにも対応できるようです。

 その躯体はさりげに坊主様にクリソツで、上から見ると扇形、フロントフェイスの真ん中にCDを出し入れするスロットがあるところもそっくり。

 取説によると、高級単品スピーカーで開発された画期的な低音増強技術「エアロ・アコースティックドライブ」を搭載し、これをAERO Sound Systemと名付けているとか。といっても15年前の最新技術ですが。

 見た目からして、坊主様よりも低価格帯で勝負するヤル気満々の偽坊主……といえば可哀そうですが、音質はとてもいい線行っています。BGMとして気軽に聴くなら、まずOK。

 とはいえやはり、全体の音量は出力不足の感が否めず、余裕しゃくしゃくの、ゆったり感ではセレブさんにかないません。

 パワーが弱々しいのです。

 まあこれは宿命でしょう。セレブ嬢のちっこい従妹さんみたいなものですから。

 スピーカーから距離1メートルで聴いていますので、不便はありませんが。


 と、我ながらチープなオーディオ環境でした。


 試聴のサンプルCDとして、エリザベス・ブライトさんがピアノを弾く『PIANO GHIBULI』をしばしば聴きます。なんと、まろやかな響き。セレブさん得意の分野です。で、聴き慣れたこのCDが変な音に化けてきたら、いよいよセレブさんの天寿は全うされるということでしょう。




【次章に続きます】

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