映画『グランド・ツアー』1991+『ジェニーの肖像』1948 ≒『君の名は。』2016

54●『グランド・ツアー』(1)……時間SF映画のベストワン!/SF美少女群像。

54●『グランド・ツアー』(1)……時間SF映画のベストワン!/SF美少女群像。





 映画『グランド・ツアー』:THE GRAND TOUR。

 1991年米日合作、1992年公開。上映時間99分。

 1992ブリュッセル国際ファンスティック映画祭グランプリ受賞。


 私の個人的な感想ですが……

 タイム・トラベル実写映画のジャンルでは、オールタイムのベストワンです。


 「グランド・ツアー Timescape」で動画を検索すると、ユーチューブなんかで英語などの予告編、そして、もしかすると、もっと観られるかもしれませんね!

 ( “Timescape”は欧州における公開名らしいです。たぶん、GRAND TOURにすると、同名のTV番組とかがあるからでしょう)


 未見の方はぜひ一度全編をご覧になって下さい。

 オススメです、それも、できるだけ早く。

 といいますのは、2021年1月現在、まだ国内向けDVDが市販されていないからです。輸入DVD(2002発売)はありますが、高額ですし、リージョンフリーのデッキで試してみるしかありません。それに日本語字幕があるかどうか……

 今どき数少ない、未DVD作品。もちろんブルーレイもありません。

 目下、ネット市場とかで中古のVHSとLDを探すしかないのです。

 ビデオテープもレーザーディスクも、いまや再生機器までも中古品しかないので、ソフト、ハードともに日々刻々と劣化して滅びゆく運命です。

 つまり、いつ消え去ってしまうかもしれない、幻の名作。

 かろうじて間に合わせるなら、ホント、今のうちですよ。


 『グランド・ツアー』には原作があります。

 C・L・ムーア作の中編SF『ヴィンテージ・シーズン』。

 こちらも、2018年に早川書房から刊行された『リヴィジョンズ 時間SFアンソロジー』に所収されるまでは、SFマガジン1983年7月号でしか読むことができない幻の名作でした。マガジンの表紙には「あの名作遂に登場!!」との煽りコピー。当時から傑作の誉れ高い話題作だったんですね。


 私はSFマガジンで原作に触れていましたが、レンタルビデオ店で偶然に『グランド・ツアー』を手に取ったのは、たぶん21世紀に入ったばかりのころですね。

 原作が『ヴィンテージ・シーズン』であることを知らず、ごく単純に、アリアナ・リチャーズ嬢のヒロイン少女ぶりが気になったからです。

 『ドリームチャイルド』(1985)…これも今やレアな名作ですね…のアメリア・シャンクリー嬢とか『ロスト・チルドレン』(1995)のジュディット・ヴィッテ嬢にみるような美少女SFファンタジーの系列だと思った次第。


 もちろんアリアナ嬢が出演した『ジュラシック・パーク』(1993)を先に観ていましたが、どちらかと言えば恐竜相手にワーッとかキャーッとか悲鳴を上げる絶叫女優で片付けられてしまった感じで、物足りなさが残っていました。ただキャピキャピしていればいいってものではなく、女の子なりのピュアな喜怒哀楽があって欲しいものです。その点確かに、ジュラパーの公開前の作品とはいえ、アリアナ嬢の魅力は『グランド・ツアー』にこそ存分に発揮されていました。


 もともとわが国では、1972年のNHK・TVドラマ『タイム・トラベラー』以来、美少女は時をかけることに決まっていて、『リターナー』(2002)の鈴木杏さんで頂点を極めた感がありますね。


       *


 蛇足ですが、国産SFと美少女の相性はバッチリで、歴史的に見ても、世界に先駆けて登場しているようです。


 書籍で最も早いのはおそらく架空戦記の分野で、『新戦艦高千穂』(1935)の勝山一枝かつやまかずえ嬢でしょう。年齢は明記されていませんが、十六歳あたりでしょうか。自分で軍用飛行機を操縦し、華麗な空中戦をこなします。戦前にこれをやったとは、もう感涙もの。

 今どきのアニメを煌びやかに彩る戦闘美少女の超元祖キャラといえます。『ストライクウィッチーズ』のシリーズに客演してもよさそうな国粋的美貌ですしね。

 『新戦艦高千穂』の全文とイラストは、ネットの“国立国会図書館デジタルコレクション”でタダ見することができます。

 作者の平田晋策氏はこの作品を最後として急逝されてしまいました。戦後に長生きされていたら、ニッポンの美少女架空戦記を総ナメにされたに違いない……と、深く惜しまれます。


 さて戦後SFの美少女キャラの嚆矢は、小松崎茂先生の絵物語『地球SОS』(1948-1951)に登場する、“お菓子屋の看板娘、ロッタちゃん”ですね。年齢不詳ですが、12~14歳くらいの印象です。

 この作品の何が凄いかというと、突如地球に侵略してきた凶悪なエイリアン、“バグア彗星人”と地球連合軍の科学の闘いを描く本筋は横へ置いといて、バグア彗星人がはるばる地球にやってきて、最初に何をしたかということです。

 なんと、怪円盤宇宙機で街へ乗りつけると、やにわにマジックハンドで美少女ロッタちゃんを捉まえて拉致するのです。

 地球侵略の初仕事は、美少女の誘拐でした。

 このセンス、凄いなア。

 この岩盤の定石を押さえておられるところ、小松崎先生よ偉大なれ、ですね。

 終戦からわずか三年後の1948年ですよ。

 SFにおける“萌え”の最初の萌芽が、ここにあったのです。

 懲りないバグア彗星人、さらにロッタちゃんのお姉さんであるエメリー嬢までも、かっさらってしまいます。もう、美少女フェチ満開ですね。

 で、悪役バグア彗星人、拉致監禁した美少女姉妹をどうしたでしょうか?

    A、プロポーズして結婚をせまる。

    B、“約ネバ”の鬼みたいに、二人をバラして喰う。

    C、メイドにして、こき使う。

 もうお分かりですね。

 なんと、怪円盤の船内お茶くみ係として、コキ使っていた!

 まあ、強制労働には違いありませんが……

 怪円盤は、いつしか宇宙そら飛ぶメイド喫茶と化していたのです。

 すでに“萌え”に徹しているではないか!

 もちろん主人公の少年たちの勇敢な行動によって、美少女たちは救出されますが……。

 『地球SОS』、歴史的傑作です!


 テレビドラマでは、『鉄腕アトム(実写版)』(1959-60)の第一部にて、世界的科学者の娘であるミッシェル嬢を演じたサディア・アルデンバイさん。やはり悪漢に誘拐されて、アトム君に助けてもらう役でしたが、そのペルシャ的な雰囲気が漂うエキゾチックな美貌が光ります。健気で可憐な美少女を好演されていました。

 たぶん、主役のアトム君を喰ってしまう人気だったのでしょう。続く二部からは、出演されていません。


 これら日本SF作品の先見の明もさることながら……

 洋物のSFテレビドラマも、美少女の神通力で大フィーバーしました。

 『宇宙家族ロビンソン』(1965-)のペニー・ロベルタ・ロビンソン嬢を演じる黒髪の美少女アンジェラ・カートライトさんは1965年当時、ペニーの設定年齢と同じ12歳。同年のミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』のブリギッタ嬢も演じていたためか、お茶の間の人気をさらったといわれます。

 同時期の『スター・トレック』(1966-)は、視聴率的にはどうやらロビンソンにボロ負けだったようです。そりゃもう、家族で観るならロビンソンですよね。ドクター・スミスのドジな天邪鬼ぶり、ロボットのフライデーとのボケとツッコミの掛け合いも、大人気だったとか。特に、フライデーに電撃ビリビリのお仕置き能力が付加されてから、両者のドラマは否応なく盛り上がったことでしょう。


 当時の国産SF映画も頑張っていて、『黄金バット』(1966)のエミリー嬢を演じた高見エミリーさんの美少女ぶりも特筆級。画面がモノクロだったのはただただ残念としか言えず、エミリー嬢もチョイ役的な扱いで物足りないのですが……


 そうはいっても60年代は、十代の吉永小百合さんや松原智恵子さんが、SFではありませんが、青春学園ものやサスペンス・アクションものに活躍されて、美少女がごく普通にヒロインを張るのが、日常的なブームになっていったと考えられます。


 テレビドラマの分野では『ウルトラマン』(1966-67)のフジコ隊員を演じた桜井浩子さんや、『謎の円盤UFO』(1970-71)のゲイ・エリス中尉を演じたガブリエル・ドレイクさんが、厳密には“少女”の扱いではないものの、その役柄のSFガールぶりが後年の作品に多大な影響を与えましたね。


 そうです、時代の真の主人公は、美少女だったのです。




  【次章に続きます】



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