129●『ゴジラ-1.0』の物語を妄想推理する。:⑤ヤツはどうして陰謀に利用された?
129●『ゴジラ-1.0』の物語を妄想推理する。:⑤ヤツはどうして陰謀に利用された?
怪獣の前に進撃する捕鯨戦艦ナガト。
機関の調子が悪く、タグボートに押してもらっているが、艦内の発電機は無事で、それゆえ主砲の
捕鯨戦艦ナガト、一斉射撃。
なんといっても近距離だった。
はずれることなく全弾が怪獣の頭部に弾けて飛び散る。
爆薬はなさそうであり、そのかわり大量に詰められていた粉末塗料がボンッと飛び散り、怪獣の首から上をピンクに染め上げる。
41センチ着色弾の改良型であった。
着色弾とは、通常の主砲弾の先端を覆う被帽の中に粉末塗料を仕込んでおいて、水柱に色を付けることで、自艦の着弾であることを見分けやすく工夫したものである。 ちなみに戦艦長門は、水柱の色をピンクに指定していたという。
1944年10月に勃発したレイテ沖海戦で、米軍をして「ジャップの水柱はテクニカラーだ」と驚嘆せしめた、その弾体の炸薬を抜いて粉末塗料を大量に追加したスペシャルな
捕鯨戦艦ナガトの強みは、見張り台の高さにある。
洋上でクジラを探すにあたって、魚群探知機のソナー機能が助けになるものの、国産電子機器の性能は劣悪で、基本は肉眼で潮吹きを探すことになる。
ここから備え付けの高性能な対空監視双眼鏡を使って四周の海面を捜索。クジラを発見したら十メートル
クジラに命中弾を与える必要はなく、そのボディを
そのために準備したピンクの粉末塗料がギッチリと詰まった着色弾が八発、集中して怪獣の頭部に炸裂したのだった。ギョロリと眼を開いているところに、
素晴らしい効果が表れた。
「全弾命中、効果甚大! 目標の両眼を閉塞せり!」
艦橋で指揮を執るクジラ捕りの捕鯨青年が、伝声管で艦内各所に報じる。
すぐさま歓声が戻ってきた。
「全砲塔員、欣喜雀躍なり!」
もともと戦艦長門や、悲しくも爆沈した陸奥の砲塔に勤務した経験のある兵員たちが、平和産業の捕鯨会社員として、同じ現場に採用されていたのだ。終戦で食いっぱぐれていたところに就職先が見つかり、しかも可愛がっていた大砲を撃って捕鯨して、敗戦国民の飢餓を救う立派な社会貢献である。さらに70年後の日本と異なり、全員が“正社員採用”であった。そもそも“非正規”労働という差別的レッテルのない時代である。みんな、やる気満々であった。
「よーし、俺たちの旗を揚げろ!」
といっても被占領国の船である。
マグロ漁船あたりが帰港時に誇り高く掲げる、大漁旗であった。
「あいつ、目をこすろうとしてるわ、でも、手が短いので難しいみたい」と、女性記者が怪獣に望遠レンズのカメラを向ける。くだんの捕鯨青年と数寄屋橋で仲良くなって、怪獣退治に同行していたのだ。
「さよう、しかも、あいつは
博士の指示が無線で飛び、星条旗を掲げた一隻の潜水艦が捕鯨戦艦ナガトを追い越して、怪獣へと進撃する。
バラオ級潜水艦のタイルフィッシュ。終戦時に沖縄付近にあって、任務終了ののち、修理と補給のため横須賀に立ち寄っていたのだ。
タイルフィッシュは浮上したまま進む。水上走行なら20ノット出せるが、潜航したら8ノットにとどまる。危険は増すが、迅速な攻撃を優先している。それに不用意に潜航したら、遠浅の東京湾である。どこで擱座するかわからない。
タイルフィッシュは水面下の艦首発射管六門から魚雷発射、続いて旋回して、艦尾の四門も発射した。
怪獣は視力を失い、おろおろと首を振るばかり。海中に下半身を入れたまま、動きが取れない。そのずんぐりした太ももに十本の魚雷が命中した。すさまじい水柱、飛び散る肉片。
怪獣は断末魔の如く悲鳴を上げ、尻尾を振り回して悶える。その血で東京湾がどす黒く染まってゆく。
そのとき。
捕鯨戦艦ナガトの艦橋に、武装した日本兵がばらばらと突入してきた。もともと米軍の爆弾を受けていた関係で艦橋の屋根部分が吹き飛んだままになっており、風通しのよいスカスカ状態だったので、敵の侵入は簡単であった。
小銃と短機関銃で露天艦橋を制圧したのは、怪獣を復活させたマッド軍人とその一派だった。しかも、変な外人も一人加わっている。
「よくも、われらがG
この時代、「ピンク」よりも「桃色」の呼称が一般である。
捕鯨青年が見下ろすと、ナガトの船腹に駆逐艦が横づけしていた。改松型駆逐艦の“
「まるで海賊じゃないか。我々ナガトの作戦は、重光大臣の提唱でマッカーサー閣下も承認している。妨害はやめたまえ。今、あの怪獣を止めなければ、日本が滅んでしまうぞ」
古生物学者の博士がたしなめる。しかしマッド軍人は銃床で博士を殴りつけた。額に傷を負って昏倒する博士。しかし意志の力で、よろよろと起き上がり、変な外人に懇願する。
「イワノフ博士、リモコンを返してくれたまえ。怪獣は戦争の道具じゃない」
「リモコン操縦だったの!?」と驚く女性記者。そういえば、マッド軍人の隣に立っている、イワノフ博士とかいう変な外人が、食パンを二枚差し込んで焼く縦形トースターに、二本の金属レバーを付けたような装置を抱いている。
「リモコンといっても細かな指令はできない。歩いていく方向をおおむね東西南北でコントロールできるだけだ」と博士。
「直角に曲がってばかりだったのは、そうだったのか」と捕鯨青年。
博士の説明によると、G
「じゃ、何もしないでほおっておけば、いずれ家に帰ってくれるのね。戦争を放棄して。恐竜なのに渡り鳥みたいに」
「さよう、恐竜は鳥類の祖先ですからな。G
「
「守ってどーするのよ!」と女性記者。
「戦争を始めるのだ、本土決戦だ。G
「戦争? この戦争で三百万人も死んだのよ! 国民を守る軍人として、そのことに責任を感じないの? あなたのようなクレイジーこそ、国を亡ぼす大悪人よ!」
「本土決戦もせずにへらへらと白旗を揚げる愚民どもは国民ではない、もっと死ねばいいのだ。三千万人、いや一億の半分ほど死ぬことで、ようやく愛国心に目覚めるだろう。本土決戦こそこの堕落した国を真の帝国に生まれ変わらせる手段なのだ。大●本帝国万歳!」
「大人はみんな嘘つきだ!」と、捕鯨青年とともに働いていた少年が怒りの声を上げた。ナガトを見たときに「あんなもので……」と懸念した部下である。歳はまだ十七、八だろうか。「俺たちに特攻で死ねと言った。すぐに後を追って死にに行くからと見送った。けれど口先だけでごまかして、戦争が終わったらコソコソどこかへ逃げて知らんぷりじゃないか。お前たちなんか信用しないぞ!」
「戦争するのは君たちの勝手でも、G
イワノフはマッド軍人にささやく。「ワガ国ハ貴官タチト同盟ヲ結ビ、軍事援助スルコトヲ約束シマース。トモニ戦オウ、いんたーなしょなるナ仲間トシテ」
「あなたたち……」と女性記者は外人の正体を見抜く。「協力するふりをして、この国を乗っ取るつもりなのね! 怪獣を操って……いえ、その怪獣も奪い取るつもりなのよ!」
フフフ……と、イワノフは含み笑い。しかし正体を白状することはしない。全編を通じて、イワノフたちは国籍を明らかにしない、ただの“変な外人”である。しかしリモコンを見せつけて、こううそぶいた。
「テキニワタスーナ、ダイジナリモコーン」
【次章へ続きます】
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