128●『ゴジラ-1.0』の物語を妄想推理する。:④ヤツとどう戦うのか?

128●『ゴジラ-1.0』の物語を妄想推理する。:④ヤツとどう戦うのか?



 『ゴジラ-1.0』の物語について、妄想推理を進めていきます。

 最初の章で書きましたように、ゴジラが東京を襲う時期は、19451012の範囲と仮定しています。

 この場合、人類との間にどのような闘いが生じるのか?

 おおまかなストーリーを妄想してみることにしましょう。


       *


 まず、ゴジラに対峙する登場人物たちです。

 必然的に、三つのグループ(勢力)が考えられます。

 

①占領下の日本人……正義の日本人と、悪の日本人。

②占領者(ほぼ米国)のGHQ……正義の米軍人と、悪の米軍人。

③ソビエト連邦の外相たち

 当時の日本における勢力図の代表として、以上三つは落とせませんね。


 ①②③それぞれの、いわば政治的な黒幕的ボスとしては……

①は外務大臣の重光葵しげみつまもる氏。

②はもちろんダグラス・マッカーサー氏。

③はもちろん、ヨジフ・スターリン氏。



 ゴジラの襲来に直面して……

 ①の重光葵しげみつまもる氏は、国家主権も武力も失って、無力なまま、ただ危険にさらされるばかりとなった日本人の生命を外敵ゴジラから守るべく、政治の裏面で奔走します。基本的に、正義と人道の傑物です。9月2日の降伏調印は、本来、総理や陸海軍大臣が行くべきところ、みんな嫌がった結果、無責任にも“全権”として外務大臣に押し付けられました。それでも重光氏は粛々として引き受け、大日本帝国に引導を渡す使命を果たしたのでした。また、占領行政に誤りがあったとき、マッカーサーに命がけの直談判を挑んだ逸材でもあります。

 しかし彼の足元で、降伏調印を覆して“やり残した本土決戦”を、ゴジラを使って実行しようとする、戦争クレージーなマッド旧軍人たちが暗躍します。


 ②のマッカーサー氏は、強大な軍事力を背景に、独裁権をもって占領行政を遂行する立場から、いわばGHQに歯向かう敵であり、ある意味、超巨大テロリストとも考えられるゴジラを撲滅すべく行動します。


 ③のスターリン、直接的には外相のモロトフ氏ですが、日本がゴジラ騒動で大混乱に陥るこの時に、日本列島の北半分、北海道と東北をソ連の支配下に奪取すべく暗躍します。もともと米国のトルーマン大統領やマッカーサーにその旨要求していたのですが、けんもほろろに断られ、黙って引き下がった経緯があります。1945年現在、米国は原爆を保有しているが、ソ連は保有していない、そのため無理押しできないという事情です。


 以上の人物関係を踏まえて、『ゴジラ-1.0』の物語を妄想してみることにします。


       *


 1945年9月、とある日本人青年(30代)がGHQを訪れ、「捕鯨事業を始めるので、そちらさまが接取された軍艦で、貸してもらえる船はないか」と頼み込みます。

「オー、クジラ捕リ、平和ナオ仕事ネ。ソレナラ、ジャンジャン貸シテヤロージャン、モッテケドロボー」

 だいたいそんな趣旨の英語を浴びせられ、くだんの日本青年の前に貸出可能な船のリストが。

 リストの一番上の船名を見て、オオッ、と青年は驚く。

「バトルシップ・ナガト……」


 史実では水産会社の社員が“第二復員省”(1945年12月設立)に依頼してびっくり仰天したという話なのですが、物語の都合上、9月のこととします。


 ということで、横須賀港に係留されたまま終戦を迎えた戦艦長門が、捕鯨船としてリユースされることになりました。

 人呼んで、捕鯨戦艦ナガト。

 かつて連合艦隊旗艦を務め、世界最大の41センチ主砲八門を誇り、三万トンを超える大戦艦。

 ただし今は、副砲、高射砲、機銃などは戦争末期に陸上へ転用され、煙突とメインマストの上半分がカットされ、爆弾もいくつか落とされて、結構ボロボロの幽霊戦艦に甘んじております。

「あんなもんで、クジラを捕れるんですか」と不審げに尋ねる部下に、青年はこっそりと答える。

「なんとかするさ。今、俺たちが借りてやらなきゃ、いつバラされて、屑鉄にされるかわからないんだ。おれたちの長門だぜ、かわいそうじゃないか。日本人の力で、あの戦艦を有効活用して、生き延びさせてやるんだ」


       *


 そして10月、日比谷公園に狂暴な巨大怪獣出現。

 暴れまわる巨大怪獣に、人々はなすすべもなく踏みつぶされるばかり。

 焼け野原の東京に、スーパーXどころか、メーサー砲車もありはしない。

 といっても、あってもどれだけ役に立つのやら……、結果はそれぞれの作品で語られていますね。


 うかうかしていると、GHQがブチ壊される。

 マッカーサー、目の前にゴジラを見て驚愕、すぐさま総攻撃を命じます。

「あれは日本軍の反撃なのか?」


 陸上はシャーマン戦車の大群が並んで砲撃。

 しかし伝統的に、ゴジラ専門やられ役のレギュラーであるシャーマン戦車です。

 あっという間に蹴散らされます。

 空中からは、厚木基地を飛び立ったコルセア、アベンジャー、ヘルダイバーなどの戦爆連合が爆弾とロケット弾を雨あられと浴びせます。

 しかし悪い米軍人もいたもので、日本人の巻き添え被害には、一切配慮してくれません。

 『シンゴジ』では着弾区域に民間人を認めた自衛隊は、発砲を控えます。しかし1945年は別世界、戦争に敗けた日本人イエローモンキーの命など、怪獣撃退の大義の前にはチリ紙みたいな軽さです。

 お構いなく爆撃に砲撃。戦争ではないのに殺戮される市民たち。

 人々は地下に避難します。そこで正義の女性新聞記者と、クジラ捕りの青年が出逢うことになります。

 ようやく怪獣が歩み去って地上に出た二人。そこは数寄屋橋の上。

「君の名は?」と青年は尋ねます。

 瓦礫の合間を走って取材に励む女性新聞記者。「この惨劇の正体、必ず暴いてみせるわ!」

 人々の混乱の渦中で、二人は老科学者を救い出します。

 科学者は、怪獣の復活に協力されられた、古生物学者でした。


       *


 宵闇のとばりが下りて、真っ赤に炎上する東京。

「また戦争に逆戻りなの?」と憤る女性記者、「玉音放送、あれっていったい何だったのよ!」

 沖縄を飛び立ち、闇を縫って上空に達するB29の編隊。怪獣めがけて徹甲爆弾を投下。

 しかし怪獣、背びれに青いチェレンコフ光をきらめかせると、首を上向けてパックリと口を開け、放射熱線を一文字に吐き出す。

 夜空を一閃、B29の大群がパラパラと線香花火のように瞬いて、たちまち全滅。


「ハラショー! これまた最高スーピェル!」と地上で偵察し、小躍りするソ連大使。「あれだ、あれが我が国に必要だ。核を持って核を制す。あの怪獣こそ理想的な抑止力、赤い星の守り神となろう!」


 GHQ軍、首都圏の地上戦力は壊滅。

 航空戦力もほぼ壊滅。

 残るは海軍。

 夜明けとなって、東京湾を浅瀬沿いに進む怪獣に対して、横須賀方面から巨大な米戦艦が一隻、一騎打ちを挑む。

 戦艦ニュージャージー、41センチ砲九門、日本のかつての大和級に対抗すべく造られた最新の主力戦艦。

 レーダー射撃でなく、有視界の接近戦、主砲の威力はすさまじく、怪獣の胸に腹に、ボコボコと破孔が開く。飛び散る肉、滝のように噴き出すドロドロの血流。

 しかし怒った怪獣、お口の放射熱線がニュージャージーを襲う。

 主砲塔の一つが吹き飛び、真っ黒に焼けて満身創痍となる米戦艦。

 照準装置が壊滅し、反撃を封じられる。

 熱線の次の一撃で、あわや爆沈か……と、その時。

 ニュージャージーの前にゆらりと進み出て、盾となるオンボロ戦艦。

 捕鯨戦艦ナガトであった。




   【次章へ続きます】



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