127●『ゴジラ-1.0』の物語を妄想推理する。:③ヤツはどこから来たのか?
127●『ゴジラ-1.0』の物語を妄想推理する。:③ヤツはどこから来たのか?
『ゴジラ-1.0』の物語について、妄想推理を進めてみます。
最初の章で書きましたように、ゴジラが東京を襲う時期は、1945年の10月から年内の12月の範囲と仮定してみます。
それではこのゴジラ、いったいどこからやって来たのでしょうか?
それというのも……
1954年3月に米国がビキニ環礁で実施した水爆実験の放射性降下物を日本のマグロ漁船が被曝して、乗組員に犠牲者が出た“第五福竜丸事件”。それが、ゴジラ映画の大きな社会的背景となっています。
1954年11月3日公開のゴジラ第一作では……南方の海中でひっそりと生き残っていた太古の恐竜が、ビキニ環礁での度重なる原水爆実験の放射能を受けて巨大化、かつ狂暴化してゴジラとなり、その巨体と口から吐く放射熱戦を武器として人類に襲い掛かった……とされています。
その後、世紀をまたいで制作され続けた歴代ゴジラ映画は、主人公ゴジラ君のそもそもの出自として、この伝説を踏襲し続けてきました。いちいち説明しない作品もあるのですが、「核大国による無定見な核実験が怪獣ゴジラを生んだ」とする見解をあえて否定する作品はひとつもなかったと記憶しています。
ということなら、『ゴジラ-1.0』のゴジラ君も、原水爆実験で生まれた……と考えたいのですが、ビキニ環礁での原水爆実験は1946年7月の“クロスロード作戦”が初回です。それゆえ、『ゴジラ-1.0』でゴジラが東京を襲う時期を1945年の10月から年内の12月の範囲とすれば、歴史的に原水爆実験の前にゴジラが現れたことになります。
これは大きな謎です。
それ以前の核爆発は、米本土での最初の実験を除くと、ヒロシマとナガサキでの実戦使用となります。しかしいくら何でも、「ヒロシマとナガサキのおかげでゴジラが爆誕しました」なんて設定を出そうものなら、いくらフィクションとはいえ、不謹慎のそしりは免れないのではないか? と危惧されます。無辜の市民が数十万人もむごたらしく殺された現実は、厳粛に受け止めなくてはならないと思いますから。
とすると、『ゴジラ-1.0』のゴジラ君は、どこからやってきたのか?
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そこで気になるゴジラ映画があります。
『ゴジラvsキングギドラ』(1991年12月14日公開)。
1954年の第一作以前の“ゴジラ前史”を映像化した、貴重な一作ですね。
舞台は、太平洋戦争中の1944年2月、太平洋のマーシャル諸島、クェゼリンとルオット両島に挟まれた、とるにたらない小島、ラゴス島。
米軍の上陸作戦が始まり、(このときの米軍戦艦が、日本の戦艦大和級の模型から副砲と煙突を取り外し、アイオワ級戦艦的な低層ブリッジと直立二本煙突を追加した、ニコイチのトンデモモデル。いつかプラモ改造で作ってみたい)、苦戦して追いつめられる日本軍守備隊、いよいよ玉砕というその時に、島内に潜んでいた古代恐竜ゴジラザウルスが劣勢日本軍に味方して、島を荒らす侵入者である米兵を撃滅する……という展開。
古代恐竜、強し。
米兵のふるまいとその死屍累々シーンが、映画公開されていた1992年当時の米国サイドの気分を害したようで、作品の米国輸出が阻まれたとか、ウィキペディアに書かれておりますが……
ともあれこの作品が、「ラゴス島に生息していた恐竜が、1954年にビキニ環礁で行われた核実験によりゴジラへと変異した」という仮説を立証した形になったわけですね。
非常に大胆な仮説ですが、この“ラゴス島恐竜起源説”は、ともあれ1954年のゴジラ第一作の基本設定をブチ壊すことなく、整合性はとれていると思われます。
この仮説を肯定するか、否定するか。
『ゴジラ-1.0』に、大いに注目するところです。
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とはいえ、上記の仮説を否定して、全く別種のゴジラ生誕ストーリーを設定してしまったら、1954年のゴジラ第一作に、どのようにつながっていくのか、大いなる混乱を生むことは必至ですね。
歴代のゴジラ映画は相互の脈絡を意識せずに、多重並行のパラレルワールドと化している感はありますが、それでも、1954年の第一作を原点として、そこから枝分かれしたスタイルは守っているように思われます。
しかし『ゴジラ-1.0』の舞台は、1954年以前。
一歩間違うと、第一作の物語の前提を破壊しかねません。
ですから、多分、「ラゴス島のゴジラザウルス」のエピソードを否定せずに、それに類似する物語設定を採用するのではないかと思います。
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例えば……
1944年当時、「日本軍が、ラゴス島の恐竜ゴジラザウルスに助けられた」という情報は軍内部に伝わり、別の島で、同様の恐竜が発見される。
日本軍の一部(おそらくマッドな軍人の特務機関)が注目、古生物学者をその良心に反して動員し、古代恐竜の捕獲に成功する。
ただし何らかの要因で、古代恐竜は冬眠に似た仮死状態。定期的に代謝を極小化することで、驚異的な長命を実現しているらしい。
1954年のファーストゴジラは身長50メートルとされますが、その原型となる古代恐竜は体長20メートル以内でしょう。尻尾をたためばトレーラーで運搬可能な。
恐竜はマニラかシンガポールあたりの施設で、研究されます。
特務機関のマッドな軍人は、この恐竜を巨大化して米軍との決戦兵器に使うことをもくろんでいます。戦局悪化のおり、まあ当然ですね。藤子不二雄先生の漫画『超兵器ガ壱號』(1980)と同じ発想。
しかし、迫る米軍。
仮死状態の古代恐竜は、日本本土へ搬送されることになりますが、貨物船はことごとく敵潜水艦に沈められ、最も安全な輸送手段は、軍艦に便乗するしかありません。
1944年11月、ブルネイから日本本土へ向かう戦艦長門に恐竜は載せられ、無事に横須賀へ到着します。
古生物学者による恐竜の研究は進み、恐竜の細胞サンプルを精査した結果……
①ある種の放射線を当てると、その細胞が異常発達して巨大化する。
②巨大化によって、恐竜の体内に生体原子炉が生成されるが、特殊な減速剤を注入すれば、原子炉の制御棒と同じ機能を果たして、恐竜の体躯は縮小、仮死状態に戻る。
……そういったことが明らかになります。
とはいえ実際には、細胞サンプルにもちいた国産アイソトープのレベルでは少量過ぎて、恐竜の巨大化は不可能であり、純度の高いウランかプルトニウムが一定量、必要であった。しかしそれは国内では入手不可能である。
年明けて1945年、科学者は安堵した。もうすぐ日本は戦争に敗ける。そうなれば、忌まわしい怪獣の誕生に加担しなくて済む。彼はいわば、フランケンシュタイン博士の心境だったのだ。
しかし不運なことに、放射性物質は天から降って来た。
8月6日にヒロシマ、9日にナガサキへ投下された核爆弾の三発目、“東京原爆”がB29“ローレライ号”に搭載され、13日に東京を目指したのだ。
3月の東京大空襲で十万を超える一般市民を焼き殺した、米航空軍の司令官カーチス・ルメイの独断専行であった。ポツダム宣言の受諾が決められずに日本軍の首脳がぐずぐずしている間に落としてしまえ、という算段である。この一発で間違いなく戦争は終わる。ルメイの野心は実り、彼は勝利の英雄となれるであろう。
しかし伏兵があった。東京は久我山に配備された、二門の最新15センチ高射砲である。
あまりに運がよかったのか、“東京原爆”のB29は撃墜され、原爆は安全装置がかかったまま、パラシュート降下してしまった。
翌14日、日本はポツダム宣言を受諾、15日に玉音放送、終戦。
しかし密かに鹵獲された“東京原爆”の内部から、超高純度のプルトニウムが採取されていた。特務機関のマッドな軍人は、古生物学者たち科学者を拳銃で脅し、恐竜の巨大化を強制する。
9月に入り、マッカーサー元帥麾下の進駐軍が日本軍施設を占領、その中には“東京原爆”の回収チームがいた。軍の倉庫など不審施設の調査が急速に進む。
10月、仮死状態の恐竜は隠し場所を転々として、民間のトラックで日比谷公会堂に搬入される。コンサートなど文化催事を行う施設であり、米軍の疑いをそらせると考えられたのだ。
ここでついに、マッド軍人は“東京原爆”のプルトニウムを用いて、恐竜本体の巨大化遺伝子を発現させる。
良心的な科学者が放射能の異変に気付き、新聞記者とカメラマンを連れて屋上に忍び込んだ。その時、恐竜は眠りから覚めて突如巨大化し、1954年にゴジラと命名される予定の怪獣として爆誕した。
その名称、“本土決戦用G號兵器”。
マッドな軍人は、日比谷公園で逃げ惑い、踏みつぶされる人々を見下して呵々大笑する。
「まだまだ手ぬるい、これは本土決戦なのだ。われらは日本を取り戻す!」
*
以上は筆者の完全な妄想であります。
【次章へ続きます】
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