120●おすすめ映像音楽(18)…『雨あがりの天使』『頭上の脅威』そしてジブリの原風景が『冒険者たち』に見える!?

120●おすすめ映像音楽(18)…『雨あがりの天使』『頭上の脅威』そしてジブリの原風景が『冒険者たち』に見える!?




※『大列車作戦』(1964)については、話が長くなるので別項目で触れさせていただきます。


       *


 前世紀には、“フランス映画”というジャンルがありました。

 フランス映画はもちろん21世紀の今でもありますが、1960~70年代くらいのフランス映画は、何かにつけ特別なニュアンスで別格化されているように思います。

 何といっても、おしゃれ。

 アメリカやイギリスの映画とは一味も二味も違って、センスが良くて小粋な感じ、洗練された演出表現が光っています。

 なんとなく、米英仏の食べ物の違いと似ているような。

 ステーキとフィッシュ&チップスとフランス料理。

 スパムミートとオイルサーディンとエスカルゴ。

 チョコバーとパンケーキとシュー・ア・ラ・クレーム。

 そんな感じで、昔のフランス映画はオッシャレーな、おフランス映画、という印象が強く、映画音楽も、もちろんそうだったわけです。

 名曲『パリの空の下』を象徴的に聴かせて一世を風靡した『巴里の空の下セーヌは流れる』(1952)とか、シルヴィ・バルタンがちょこっと出演した『アイドルを探せ』(1963)からしてそうですね。

 著名なのは『シェルブールの雨傘』(1964)、サントラ以外に、作曲者のミシェル・ルグラン指揮でロンドン交響楽団が演奏した『交響組曲 「シェルブールの雨傘」/「恋」』(ソニーミュージックジャパンSICP1562)があります。ロマンチックでドラマチック、こってりと聴かせてくれます。

 あの『シベールの日曜日』(1963)も至高の名作ですが、当時のフランス映画には、掘ればキラリと輝く金鉱脈みたいな作品が目白押しだったのかも。


 何といっても、日本人があえて“お”を冠して呼ぶ国は、おフランスと、おそロ〇アの二か国だけですから。



 音楽がとても印象的な作品、下記に三つ挙げてみました。


       *


●『雨あがりの天使』(1968 仏)

 テーマ曲が最高! 

 一度聴いたら一発で洗脳される魅力度の高さ。

 きっとこれが、フランス映画音楽の代表作です。

 お話は……一流カメラマンを目指してリヨンからパリに出たまま帰らない夫を追って、妻クララとその幼い娘ジュリーはパリに移住する。デパートの店員からファッションモデルへと華麗な変身を遂げるクララ、しかし運悪く、夫とはなかなか再会できない。友達のように仲のいいクララとジュリーはこの広いパリで彼の捜索を始めるが……という、心あたたまるファミリーストーリー。

 ……なのですが、どうも映画はDVD化されていないようで、私は未見です。というか、昔、TVの名画劇場で、もしかすると観たかもしれませんが。

 しかしこの音楽! 聴くだけで、これぞフランス映画って感じです。

 オシャレでコケティッシュ、スマートでポップだけど切なく、それでいて心を包み込むあたたかさ。

 映画の本編を観なくても、サントラCDだけで、もう感動は大盛りです!

 この曲を聴いていると、世界のなにもかもがオシャレに輝いてきますよ。

 CDは『YOU ONLY LOVE ONCE』(HRKCD8013)。

 CDにはありませんが、ネット検索でシングル版レコードのサウンドを聴いたことがあり、そこにジュリーのセリフが入っていて、「アロウイン ネキテパ ジュワセリラ」と聞こえるその声が可愛くてたまりませんね。


       *


●『頭上の脅威』(1965 仏)

 異色のミリタリーSF映画。

 ジャック・ルーシェ作のテーマ曲が、痺れるほどカッコいい!

 勇壮とか威厳あるマーチというよりは、やはり颯爽としてオッシャレーなのです。

 この曲をバックにすると、登場する空母クレマンソーが、俄然、美しく輝いて見えてきます。

 残念ながらCDはなく、DVDで映像と共に聴くしかありません。

 あるいはネット検索で予告編などを視聴することができるでしょう。


 お話の方は……

 大西洋の哨戒を終えて帰路についたフランスの新鋭空母クレマンソーに、本国より緊急指令がもたらされる。謎の物体が宇宙空間に突如出現し、衛星軌道上を回っているというのだ。冷戦下の緊張渦巻く中、米国もソ連も自国の関与を否定する。空母クレマンソーは北大西洋上空の警戒任務に就き、艦載機エタンダールを発進させる。 

 が、しびれを切らしたソ連が核ミサイルを発射して、謎の物体から分離した飛翔体を撃墜、放射能汚染の危機がクレマンソーを襲う……

 と、宇宙からの謎の円盤UFOを、海上の空母が迎え撃つような状況シチュエーションですが、映画の主人公は人物よりも空母クレマンソーそのもの。ロケ時には1961年に就役して三年目のぴかぴかで、満載排水量3万2千トン、全長265メートルと、海自さんの“あくまで護衛艦なんですよー、なんちゃって実は空母”の“いずも型”より一回り大きいサイズですね。

 この空母クレマンソーがまた、真っ白な船体で何と美しいこと。

 おフランスの三色旗がばっちり映えます。古今東西の空母でいちばんオッシャレーな船体美であると言っても過言ではありますまい。

 すなわちこの作品は、おフランスが世界に誇る美形空母クレマンソー嬢を、とことん自慢しまくる“ドヤ顔映画”でもあるわけです。


 なので、航空機の発艦と着艦のシークエンスなどを割としっかり見せてくれます。

 朝鮮戦争の空母を描いた『トコリの橋』(1954 米)でもそうでしたが、発着艦時には、飛行機が飛行甲板からポテンと海に落ちたとき、直ちに搭乗員を助け上げられるように、救難ヘリコプターを艦側かんそくの近くにホバリングさせておく様子が良くわかります。

 また発艦時に、カタパルトのレールをシュッと走るシャトルという部品と、航空機の前脚をブライドルというワイヤーでつなぐのですが、1965年当時はこのワイヤーが使い捨てでして、カタパルトからバシュッと射出されると、発艦した機から短いワイヤーが外れて、クレマンソーの艦首直前の海面にポチャンと落ちる様子がよくわかり、観ていてじつに味わいのある映画であります。


 あるいは、空母が基地に帰って入港してしまうと、カタパルトで艦載機を飛ばすことができなくなるので、垂直離着陸するヘリを除いて、戦闘機も攻撃機もいったん陸上基地へ預けるため発艦させる場面。

 エタンダール戦闘機のパイロットは、先日立ち寄ったアフリカで買った土産物を持って帰りたいのですが、さすがに戦闘機では狭くて運べません。そこで機体容積に余裕のあるアリゼ攻撃機のパイロットに頼むのですが、やむなく引き受けたパイロットが得体のしれない動物の剥製はくせいなどの珍品をしこたま渡されてゲンナリする様子が、微笑ましいですね。

 そして圧巻は、放射能汚染の危機に際して、船体を密閉し、吸い上げた海水を船体各所のシャワーノズルから散水して、船体にこびりつこうとする放射性降下物、すなわち死の灰を洗い流すシークエンス。

 クレマンソーの船体が霧のようなシャワーに包まれて、さながら美女の入浴シーンとあいなります。ここまで見せてくれるのは、なかなかのもの。


 この映画の素晴らしいところは、登場兵器がミニチュアやCGでなく、基本、すべて本物ということです。さすがに核爆弾とかソ連潜水艦なんかは純正品の本物というわけにはいかず、代役メカを立てていますが、代役とはいえハリボテではなく、代役なりの本物。たとえばソ連潜水艦はフランスの通常動力潜水艦ダフネ級が代役出演しています。これも観客冥利に尽きるところ、ダフネ級なんてレアものは、そうそう実物を拝めませんので。


 ということで、艦船オタクの琴線をくすぐってくれる、フランス空母礼讃映画なのです。

 日本公開は1965年、小沢さとる先生の『サブマリン707』が少年サンデーで連載中だった時期です。707号(二世)がクレマンソーの横に浮上しても絵になるわけでして、両者の世界観を重ねて『頭上の脅威』のDVDを観賞するのも一興でしょう。


 しかしこの、空母界の美魔女ともいえそうなクレマンソー嬢、1997年に退役したのですが、その美貌に似合わず、体内は不健全だったようで、アスベストが七百トン以上、船体内に使われていることが判明しました。迂闊にそのあたりで解体するわけにはいかず、アスベスト除去から解体に至るまでさらに十年以上を要したとか。


 残念です。同型の姉妹空母〈フォッシュ〉は西暦2000年に南米ブラジルに移籍して〈サン・パウロ〉を名乗り、2017年の退役まで生き延びましたが、それに比べて、クレマンソーは寂しい余生でした。

 にしても〈サン・パウロ〉は大量のアスベストをどう始末するんだろう?


       *


●『冒険者たち』(1967 仏・伊)

 フランス映画の最高傑作は『シベールの日曜日』と思いますが、それに次ぐ最高級の傑作と言えそうですね。

 フランソワ・ド・ルーベ作曲のその音楽、色々なバリエーションのすべてが魅力的で、何度聴いても飽きることがありません。

 先に触れた『雨上がりの天使』『頭上の脅威』のサントラもそうですが、得も言われぬ魔力を秘めたメロディで、一度聴いたら心が惹かれ続けます。

 サントラCDは『François de Roubaix Le Samouraï / Les Aventuriers 』(983 260 5 LC00699)。

 『冒険者たち』と同じくアラン・ドロン主演の映画『サムライ』(1967)のサントラとのカップリングです。



 にしても、この『冒険者たち』、凄い。

 半世紀以上昔の映画なのに、今、見返しても全く古びていません。

 錆びの一点すら見当たりません。

 というより、感動は、並みの新作映画よりもはるかに新しい。

 『ベン・ハー』でも『スター・ウォーズ エピソード4』でも、それなりの時代を感じてしまうのですが、『冒険者たち』はまっさらの新作感覚にあふれています。

 ただ見た目が古くない、と言うのでなく、登場人物のファッションやクルマなどはたしかに50年昔なのですが、人物の行動、表情、セリフ、そして感情スピリットが驚くほど生き生きとして普遍的なのです。


 そう、不思議なことに……まるで、21世紀の今日、作品世界の年代を1966年頃に設定して、新たに撮影した新作映画に見えるのです。


 これ、きっと永遠に古くならない……

 そう思わせる傑作です。


 なぜならば……

 2022年の今、改めて繰り返し観て、驚いたこと。


 俺って今、ジブリアニメの最新作を観てたんじゃないか?


 違いは、実写映画であることだけ。

 それ以外、何もかもが、パーフェクトにジブリなのです。

 それも、宮崎駿監督の“宮崎アニメ”の方。

 しかも、部分的に似ているというのでなく、なにもかも、宮崎アニメ。

 特に、カメラワークとその構図レイアウト、シナリオ、登場キャラの性格設定、そのセリフとアクション。

 

 『冒険者たち』の画像を白黒コピーしてコマ分けし、それをトレースしてアニメキャラに置き換えて絵コンテとし、そのまま作画、彩色してアニメにしたら……

 まんま、宮崎アニメの新作が完成するんじゃないか?


 単なる、そっくりさん、じゃなくて、本質的にこれは、宮崎アニメではないか?

 それも、大人向けのジブリ作品、オトナ宮崎アニメ。

 宮崎駿先生に失礼でしたらお詫びいたしますが……

 私は、正直、そう感じてしまうのです。


 『冒険者たち』は、根本的に、宮崎アニメの本質そのものかもしれない。

 いわば、宮崎アニメの、“原風景”ともいうべき作品。

 この疑問、後日に、続く別項で触れてみます。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る