13●『未来少年コナン』(12)人物万華鏡:善玉編2、ラナパパはレプカ?深き愛憎劇。

13●『未来少年コナン』(12)人物万華鏡:善玉編2、ラナパパはレプカ?深き愛憎劇。



〈ラナ〉

 本編の正統派ヒロイン、設定は十二歳。

 特技は、悪漢にさらわれること。

 同い年の主人公コナンに救われるお姫様役に徹しているようで、映画『キングコング』の絶叫美女にとどまることなく、自ら勇敢に行動してコナンとの愛と友情をはぐくみます。

 ヒロインとしては、もう完璧。


 第15話でただ一度、コナンをひっぱたく場面があります。

 名場面揃いの彼女ですが、ここはとびきり最高の名場面でしたね。

 大切な大切な“お母さんの形見”のペンダントを差し出してまで、彼女がしたかったこと。

 それは……

 コナンの怒りの暴発を防ぐこと。


 ナイフをもてあそぶオーロから、ラナを「泥棒」呼ばわりされて激昂するコナン。

 明らかに冷静を失っています。

 コナンは、自分自身をバカにされても笑い飛ばせますが、ラナを侮辱されたことには、本気で怒ります。

 男の子として、ありがちなことですね。

 しかしここでオーロと闘うと、ろくなことになりません。

 かりにオーロに勝ったとしても、「豚泥棒のコナンが逆ギレして俺を殺そうとした。見ろよ、この傷を!」と騒いで、村長たちに訴えに行くからです。

 例えコナンに負けても、被害者面すれば逆転勝訴さ。

 そう計算して、オーロはコナンを挑発しています。

 コナンの性格上、俺に勝っても殺しはしないよな……と承知しているわけです。

 この罠に落ちたら、コナンは自滅。

 暴行傷害の罪を着せられ、村で暮らせなくなります。

 村人たちから、コナンはオーロと同類と見做されるのですから。

 そうなるとコナンは、オーロと同じ悪の道へ落ちるかもしれません。

 いわば、暗黒面ダークサイドへの転落です。


 だから、ラナは多大な犠牲を覚悟して、コナンとオーロとの紛争の仲裁に入ったのでしょう。

 母の形見を引き換えにしても、コナンとジムシイを救う。

 ラナの賢明な洞察力です。

 泣けますね。



 ところで……


 このように第15話で、ラナにとってお母さんが極めて大切な存在であること、そして、既に世を去っておられることが明らかになりました。

 一説に、“大変動”の時に亡くなったといわれますが、それは二十年前のことであり、ラナの年齢が十二歳であることから、誤りとなります。

 ラナが生まれた十二年前以降に、なんらかの原因で死亡し、その後ラナは、ハイハーバーの叔父叔母夫婦、シャンとメイザルに引き取られて生活することになったと察せられます。

 “お母さんの形見”を心から大切にしていることから、ラナは母親の面影を覚えているようにも思えます。だとしたら、母親が亡くなったのは数年前あたりでしょうか。


 そうなると気になるのが……

 ラナの父親、ラナパパの存在です。

 ラナが生まれているのですから、父親が(内縁も含めて)いたことは確か。

 しかし、作品中ではどこの誰からも、そしてラナ自身の口からも、ただの一言も触れられていません。

 例えばおじいさんにあたるラオ博士から、「ラナのお父さんはね……」と言った会話があってよさそうなものですが、皆無です。

 ここに、そこはかとした不自然さがあります。

 まるでタブーのように、全編スルーされているのです。


 ラナパパ、どこへ行ってしまったのでしょうか?


 『未来少年コナン』最大のミステリーです。

 同名の名探偵に謎を解いてもらいたいものですが。

 そこで登場するのが……


 “ラナパパはレプカだった!”説です。


 トンデモなマユツバ説と言えばそれまでですが、可能性は十分にあると思います。


 考えてみましょう。

 第5話で、インダストリアへ拉致されたラナを、三角塔の最高委員会が尋問します。

 このとき委員会の学者先生はラオ博士と「もう一度話をしたい」と述べます。

 またその後、小部屋に監禁されたラナに対して、レプカが「ラオ博士は太陽エネルギーを独り占めする悪党だ。我々を見捨てて姿をくらました」といった趣旨の罵声を浴びせます。

 このことから、“ラオ博士はしばらく前までインダストリアにいて、委員会の先生方と面識があり、当然、レプカもラオ博士のナマの姿を見たことがある”ということがわかります。

 そうでないと、後日、頭部の負傷で顔相が大幅に変わった(ラナでも、見た目だけではすぐにはわからなかった)ラオ博士を捕えたとき、その人物がラオ博士であることを判別できないからです。

 おそらく背格好や声(画像や声紋とかも併せて)の記憶から、捕えた人物は間違いなくラオ博士だ、と断定したのでしょう。


 ここで重要なのは……

 ラオ博士はしばらく前、おそらく数か月か一年ほど前までは、インダストリアに(不定期でしょうが)滞在していた、ということです。


 さて三角塔での最高委員会の尋問シーンに戻ります。

 ここでレプカがダイスをわざとらしく叱責し、“ラナの誘拐は、ダイスが功をあせってレプカの許可なく先走った行動”であることがわかります。

 ただし、委員会の学者先生やレプカ自身はこれを奇貨とし、この機会を利用してラナを説得、ラオ博士の居場所を聞き出そうとします。


 ということは……

 このとき、委員会の先生たちは、“ラナならばラオ博士の居場所がわかる”と確信していることになります。

 ということは、“ラナはラオ博士とテレパシーでつながっている”と知っていたことになりますね。

 また第6話では、コナンとともに監禁したラナに対して、レプカが「ラオ博士とお前がテレパシー能力者であることはわかっている」といった趣旨の罵声を発します。

 レプカも、“ラナはラオ博士とテレパシーでつながっている”と認識し、そのことを確信しているのです。


 なぜ、どうやって、委員会の先生やレプカは、ラナとラオ博士にテレパシー能力があることを知ったのでしょうか?


 テレパシーは精神の状態ですので、外見からはわかりません。

 ラオ博士が一人でそこにいるだけでは、テレパシーでラナと通信しているのかどうか、第三者の他人が見てもわかりません。

 わかるとすれば、二人が同じ場所にいて、言葉を使わずにコミュニケーションを成立させている…つまり、無言で喋っている…ことを、間近に見ることができなくてはなりません。


 ということは……


 かつて、ラオ博士だけでなく、ラナもインダストリアに滞在して、ラオ博士と一緒に暮らした時期があった……と思われます。


 と言いますのは……


 ダイスが誘拐してきたラナ嬢を三角塔に連れてきて、委員会の前に座らせたとき、レプカたちが、“その少女がラナである”ことをどうやって識別したのか? という疑問があるからです。

 委員会の先生方やレプカとラナがこのとき初対面ならば、目の前の少女が“ラナである”ことが普通、わかりませんね。

 同じ年頃のハイハーバーの娘を、間違えてさらってきたりしてはいないか、しっかりと吟味し確認せねばなりません。

 つまり、ラナをすぐさま特定できる情報が、委員会とレプカにはあったのです。


 ならばやはり、ラナもインダストリアに滞在したことがあり、委員会の先生方やレプカは、もう少し幼いころのラナを生で目撃し、その姿や声を覚えていたと考えるのが適切ではないでしょうか。


 あるいは、委員会やレプカの手に、ラナの写真があったのかもしれません。

 しかしラオ博士がインダストリア滞在時に、可愛がっている孫娘の写真をわざわざインダストリア側の人物に進呈するようなことはしないでしょう。

 かりに写真があったとしても、かつてラナがインダストリアにいたときに、インダストリア側の人物がこっそり撮影したと考えるのが妥当でしょう。


 また、ダイスがラナ本人を間違えずに誘拐できたことから、ダイス自身、ラナをハイハーバーの他の女の子たちから区別して、人物を特定できるだけの情報を持っていたことになります。

 しかもその誘拐は、行き当たりばったりの偶発的な犯行でした。事前に写真などを調べて用意周到に準備し、“この子をさらうのだ”と目標を識別していたのではありません。つまり、一目でダイスは“この子がラナだ”とわかったのです。

 それにファルコで、のこされ島に上陸したモンスリー。

 草原の彼方で逃げるラナをチラリと見て追跡、捕えるや即刻ファルコへ連行してしまいます。

 モンスリーも、一目でその“娘っ子”がラナであると見分けることができたのです。


 とすると……


 ダイスもモンスリーも、しばらく前(たぶん何年か前)のラナを生で目撃し、その顔や背格好や声を覚えていたことになります。

 あるいは写真があったかもしれませんが、ハイハーバーでチェキやプリクラやスマホの自撮りが可能であるはずもなく、ほぼ、インダストリアで、インダストリア側の人物によって密かに撮影されたものと思われます。


 くどくどと申しましたが、要するに……


 おそらく数年前までの範囲で、ラナもインダストリアにいたと思われるのです。


 とはいえ、ラオ博士が、仕事でわざわざラナだけをインダストリアに連れてくることは考えられません。家族旅行ではないのですから。

 とすれば、残された可能性は……


 ……のではないかと思われます。


 たとえば、このようなシナリオです。


 二十年前の“大変動”のとき、ラオ博士には少なくとも二人の娘がいました。

 ハイハーバーで暮らすメイザル(ラナの叔母)は現在29歳とされますので、“大変動”のときは9歳です。

 たぶんこの上に、当時十代半ばの長女Aがいた……と仮定します。

 レプカは現在37歳とされますから、当時は17歳です。

 “大変動”のしばらくのち、ラオ博士はインダストリアを訪れて、滞在。

 ラオ博士の妻は、“大変動”で亡くなっていたのかもしれません。

 ラオ博士の長女Aは、おそらく“大変動”の五年ほどあとに二十代となり、当時22歳頃のレプカと結婚しました。つまりレプカはラオ博士の娘婿むすめむこにあたります。

 それから三年ほどあとに、二人の間にラナが生まれた、としましょう。

 とすれば、ラナが現在12歳であることに矛盾はありません。


 当時、レプカはまだ世界征服の野望は表に見せず、インダストリアの物資リサイクルの仕組みを築き、社会を統治するのに必死だったでしょう。

 エネルギッシュで頭の切れる指導者として人望を集め、委員会の先生方からも信頼を得ていたと思われます。

 そんなレプカと長女Aが結婚し、十二年前(“大変動”の八年後)にラナが生まれた。

 その後、レプカと長女Aの夫婦はラナとともにインダストリアで暮らしました。

 そしてたびたび、ラオ博士もインダストリアを訪れていました。

 そのおり、幼いラナと、おじいさんのラオ博士がテレパシーで交感できることが判明し、委員会の先生方や、もちろんレプカも知ることになったのではないでしょうか。

 またこの時期に、ラナはダイスやモンスリーとも面識ができ、のちにダイスによってハイハーバーから誘拐されるときに、ラナが誰であるか、やすやすと判別されたと思われます。


 そして数年……

 レプカが事実上インダストリアを支配し、独裁的な振る舞いをあらわにしていったこと。

 そしてもしかすると、インダストリアで成長してレプカの有能な片腕となったモンスリー(六年前なら二十歳になっている)とレプカの不倫も重なったのかもしれません。

 そしてなによりも、あくまで平和目的に限定して太陽エネルギーの活用を唱えるラオ博士に隠れて、レプカがギガントの復活を模索し始めたこと。

 それにはラオ博士の意思に反して太陽エネルギーの復活を強制しなくてはならず、そのために長女Aとラナが人質として利用される可能性が出てきたこと。


 そういった事情で、五、六年前に長女Aはレプカと離婚。

 ラナを連れてハイハーバーへ移住、そこで何か不幸があって亡くなった……。


 長女Aは、ラナに心からの愛情を注いだのでしょう。

 そしてラナは、父レプカを鬼のような悪魔デビルパパとして、記憶の奥底に封印するしかなかったのです。


 そんなストーリーが仮定できます。

 あくまで仮定であって確証はありませんが、年齢的・年代的に十分に可能性はあります。


 上記のような経緯いきさつだったとしますと……


 ラナやラオ博士が、ラナの父親のことを、固く封印したかのように語らないこと。

 レプカが、離婚した過去妻かこづまの娘であるラナに対して、冷たく他人行儀であること。また、ラナも同様にレプカに対して他人行儀であること。

 おじいちゃん子でラオ博士ばかりになついたラナに対して、レプカが嫉妬でムカついて、ほぼDV状態にあること。

 しかしラナを殺すことなく、逆に人質として異常な執着を見せること。


 ……などが、納得できると思います。


 あくまで筆者個人の感想ですが、“ラナパパ=レプカ”説に賛同するものです。


 これが真実なら、なんとも凄まじい裏設定が潜んでいたことになりますが……


※ただし作品中で、ダイスやモンスリーが、“ラナパパ=レプカ”であることに触れないのは不自然に見えます。たとえば第6話で、ダイスがラナを三角塔から拉致してインダストリアに反逆した折に、「ラナはレプカの実の娘なんだから、追い掛けてきても絶対に撃てないさ」と、部下に対して語ってもよさそうなものです。

しかし数年前に長女Aがレプカと離婚し、ラナを連れてハイハーバーへ出奔したときに、インダストリアに一人残されたレプカが怒りのあまり「ラナなんか俺の娘ではない。あいつ(長女A)が他の男と不倫して作った罪深い私生児だ!」とか、ラナとの血縁を公的に否定していれば、説明がつきます。

レプカの部下たちにとっては、ラナは“局長の娘”でなく、“局長を裏切った妻が行きずりの他人との間に作った、すなわち他人の娘だ”という認識になるからです。

もしかすると、この“行きずりの他人”とは、ラオ博士ということにしてしまったのかもしれません。もちろんレプカのウソですが、“父親(ラオ)と実の娘(長女A)が交わってできた背徳の子がラナである”とすることで、長女Aをふしだらな悪女に仕立て上げ、自分(レプカ)の正当性をよりスキャンダラスに主張したのかもしれません。レプカなら、その程度の欺瞞は朝飯前でしょう。



 “ラナパパ=レプカ”だった……

 そうだとすると、ラナは心の奥底で、実は自分があの邪悪な独裁者レプカの娘である……という黒歴史を秘めたまま、コナンに対してつとめて明るく振舞っていたことになります。

 むしろ、自分をつけねらい、利用しようとする大人たちに囲まれて、本当に信頼できる友人を必死で求めていたのでしょう。


 あたしの身体の半分には、恐ろしい悪魔の父の、呪われた血が流れている……。

 ラナの心の中に、父親のダークサイドにいつ引き込まれるかわからない不安が巣食っており、その感情が、激しくコナンを求める叫びを生み出していたのかもしれません。


 清く正しく、絶対にブレない、強い意志の、凄い女の子。

 画面を観る限り、そう映る彼女ですが……

 

 じつはラナも、善と悪の間に引き裂かれ、煩悶し続けていたのです。


 だから第15話で、コナンの頬をひっぱたいたのかもしれませんね。

 コナンに、レプカのようには絶対になってほしくないと……


 そう考えると、『未来少年コナン』、なんとも奥深い、正邪渦巻く愛憎劇の傑作であると感嘆せざるをえないのです。






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