大河なのにラノベな展開が熱すぎるぞ! 『黄金の日日』(1978)&『大盗賊』(1963)

94●ラノベな大河『黄金の日日』(1)…フィクション満載の爽快冒険譚。


94●ラノベな大河『黄金の日日』(1)…フィクション満載の爽快冒険譚。



 NHKの大河ドラマ『黄金の日日』。全51話。

 2021年4月から翌年まで、日曜の朝にBSで再放送されました。

 たまたま第三話を観て、クギ付けになりました。

 毎回観ているうちに我慢できなくなり、完全版のDVDを購入。

 いやー、よかった。

 こんなに面白い大河があったとは。

 毎回観たけど、もう一度観たいという気になれなかった『いだてん』がトラウマになっていたもので、『黄金の日日』の面白さは目からウロコでした。

 最初の放映は1978年1月から12月。『未来少年コナン』と同時期です。

 43年も昔の古い番組ですが、この年の大河、凄かったんだ。

 実際、視聴率も20~30%コンスタントに獲得していたようですね。

 で、どのように凄かったか、以下に私見を述べさせていただきます……


       *


 『黄金の日日』で描かれた時代は、ほぼぴったり安土桃山時代(1568-1600)。

 信長、秀吉、家康へと天下が移ろった、おなじみの時代ですね。

 主人公は、当時、国内唯一の国際港である堺の貿易商人、人呼んで呂栄るそん助左衛門。愛称、スケザ。

 堺の豪商である今井家に下働きで奉公していた十代後半?から、自前の大船団を擁する一大貿易商へと成功してゆく三十数年間が描かれます。


 その魅力の数々……


       *


●フィクションの自由度が広い


 このお話の魅力は、まず、戦国時代でありながら、民間人を主人公に据えたこと。

 描く視点の立ち位置が、がらりと変わります。

 大河と言えば、おおむね武将が主人公。

 仕事は戦争です。戦って殺して奪って、それを功績として成り上がります。

 しかし『黄金の日日』の主人公は商人、すなわち民間人です。

 主人公が民間人、となれば……

 残されている史料は武家や公家に比べてあまりに僅少。

 呂栄るそん助左衛門という名前は残されていても、いつ、何を、どうした人なのか、詳しい行状はほとんど不明のようです。

 となると、そこに大量のフィクションを盛り込むことができます。

 悪者がタイムトリップして史実を捻じ曲げるような、明らかな歴史改変をしない範囲でなら、主人公たちにかなり自由に冒険をさせることができるわけです。盗賊の頭として名高い石川五右衛門や、鉄砲の名手とされる杉谷善住坊が、スケザの相棒として大活躍するのですが、それも、史料不足ゆえのフィクションだから可能になった、というものでしょう。


 この点、高名な武家を主人公とする場合は、だいたいその武士が何をどうしてどこで命を終えたといった記録が残されているので、結末がどうなるのか、視聴者の私たちにも予想がついてしまいます。信長が本能寺で死なずに脱出したとか、関ヶ原の合戦で石田三成が勝ってしまうことはありませんので。

 とはいえ諸説ふんぷんで、同じ事件を大河で描いても、ズレが生じることはありそうです。

 たとえば、信長の“比叡山焼討ち”事件(1571)。

 大河ドラマ『麒麟がくる』(2020-21)では、このとき焼討ちに参加した明智光秀は人道的で非戦闘員に逃げ道を開けてやり、木下藤吉郎は虐殺に専心したとなっていますが、『黄金の日日』ではその逆で、逃げ道を開けてやったのは木下藤吉郎で、冷酷に虐殺したのは明智光秀の方だったと描写されています。

 どちらが正しいのか、どちらも間違っているのか、定かとは言えないようですね。

 タイムスクープハンターさんに見てきてもらうしかなさそうです。


 さておき、『黄金の日日』の主人公スケザは、ほとんど謎の人物。

 一介の商人であるスケザがいつ、どうなって命を終えたのか、そんな記録は残っていないようなので、結末がどうなるのか、最後まで私たちにはわかりません。

 そこで、これからどうなるのかわからないワクワク感を維持したまま、次回に乞うご期待……が、毎回続くことになります。

 最終回まで、ハラハラドキドキ。

 これは楽しいですね。



●ラノベ感覚のストーリー展開


 主人公たちのドラマの自由度が高いため、天下のNHKとしては“ありそうでない、なさそうであるよ”的な、ギリギリの演出が面白さを引き立てています。

 根津甚八さんの五右衛門が、夏目雅子さんのモニカを伴天連の礼拝堂で押し倒すや情事に及ぶ……といった欲望ギラギラの場面など、NHKコードではギリのキワモノシーンでしょうね。根津甚八さんにとっては、これが大出世作となったようです。それにしても西遊記の三蔵法師を押し倒すとは、神仏を恐れぬ蛮行ですよ。

 また、川谷拓三さんの杉谷善住坊がのこぎり挽きの刑に処せらるとか、五右衛門の釜ゆでの刑、これもファミリー層が視聴する大河としては、かなりギリギリ的に残酷な怖い場面でしたね。

 ホラーといえば幽霊さんも大活躍、夏目雅子さんのモニカや、丹波哲郎さんの豪商・今井宗久が、幽霊か、それとも幻か、といった妖気に満ちた演技を披露。


 一方、ウソみたいなトントン拍子のストーリー展開。

 物語の前半は、“貿易船長に、俺はなる!”と決意した若者スケザが地道な商売から“わらしべ長者”的に商才を発揮していく成長譚となっています。

 そこで、木綿の反物を仕入れる→商品がダメになる→木綿の火縄に加工して大当たり→火縄の火薬の扱いを誤ってドカン!と屋根を吹き飛ばす→たまたま屋根を青瓦で直してくれる人がいた→青瓦ビジネスでマネーガッチリ!→そして念願の船を手に入れることに…… 

 と、なんとも調子のいい幸運と不運の連鎖。

 あとから思い出すと笑える展開ですが、本人たちの史料が少ないゆえに可能となったフリーハンドなお話作りが、大成功しています。

 また、マジメなNHK大河にしては、気の利いた遊びも含まれています。

 市川染五郎(のち、『ラ・マンチャの男』の舞台で名をはせる九代目松本幸四郎)さんのスケザが遭難したおりに登場する海賊船の頭目、高砂甚兵衛たかさごじんべえを演じるのが実の父親である当時の八代目松本幸四郎さん、この回は浪花節的に泣かせる展開となっていました。実の親子の名演技を堪能できる、ちょっと特別なめぐりあわせです。


 また、“忍びの者”の登場場面も全編の伏線として巧みに配置され、服部半蔵の部下である“くノ一”さんが重要な役割を果たします。この点、同じ大河の『真田丸』で活躍した“佐助”さんに並ぶ好演でありましょう。


 それらの演出、なんともラノベ的。

 もう、やりたい放題かも。

 残された史料が少ないことを利として、現実離れしたフィクションを当たりかまわず、おおらかにバカスカと付加した結果……

 “人生は冒険だ!”と言わんばかりの自由闊達で意気軒高、明朗快活な場面展開を魅せてくれる、爽快な一作に仕上がっていると思うのです。



【次章に続きます】




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