161●『ゴジラ-1.0』の疑問点と続編を妄想推理する。⑧なんだかおかしい、一撃必敗の海神作戦。
161●『ゴジラ-1.0』の疑問点と続編を妄想推理する。⑧なんだかおかしい、一撃必敗の海神作戦。
ゴジラを「一気に深海二五〇〇メートルまで」(P126)引きずり込み、続いて炭酸ガスのバルーン膨張装置で「一気に海面まで引き揚げる」(P127)。この急激な圧力差でゴジラに致命的なダメージを与える……という、海神作戦。
予告編でDr.コトー先生が
ちょっと待てよ?
これ、水槽で実験するのは簡単でも、実際にはどうなのか?
*
ゴジラの腹に巻き付ける作戦用装備を想像してみましょう。
まず、一番下に、戦艦大和の46センチ主砲弾を一発、ぶらさげます。
どうやって?
一個、1.5トンもありますので、ロープで巻けばいいってものではありませんね。
おそらく砲弾にピッチリと鉄バンドでも巻いて、それに吊り下げ用のワイヤーロープを連結するフックをつけるのでしょう。
次に、どうやって、望みの時間に起爆させるのか、です。
一般に、戦艦の主砲弾は、発射時に
そうですよね。先に安全装置を外してから発射したら、発射のショックだけで起爆して、戦艦陸奥の最期みたいにボカ沈とか、になっちゃいますから。
砲弾には着発信管と時限信管がついていますから、着発信管を殺し、時限信管のみを生かして、遠隔で安全装置を外して数秒以内の短時間で起爆させる装置を付加したのでしょう。
で、起爆装置を働かせるには、ひとつひとつの砲弾からリモコン信号用の
次いで46センチ砲弾の上に、吊り下げ用のワイヤーを延ばして、フロンガスのボンベをつなぎます。
ボンベのバルブを瞬時に開放する装置を取り付け、これもリモコン信号用の
その上に、パラシュートみたいに畳んだ強制浮上用バルーンと、その膨張装置をつなぎます。
ゴジラの体重は二万トン。アバウトですが、全身の排水量が八千トンとしたら、ゴジラを強制浮上させるには一万二千トン以上の浮力が必要となります。
これもアバウトですが、合計で10m×10m×120mの容積のバルーンを、深海2500メートルの深さで膨らまさなくてはなりませんね。
とてもゴムボート程度のバルーンでは足りません。それなりに大きなバルーンを特注して、専用の炭酸ガスボンベが必要となります。
そのうえで、畳んだバルーンと炭酸ガスボンベを結合して、そのバルブを開ける操作をするリモコン装置を設置し、そこから信号用の
砲弾の起爆、フロンガスボンベの開放、炭酸ガスのバルーンの膨張、いずれも有線でコントロールしなくてはなりません。水中では電波が通りにくいので、ラジコン操作は困難です。
以上を一セットとして、
しかし砲弾の重さは1.5トン。ボンベはフロンガス、炭酸ガスともに、高圧で液化したものが入っていますので、中身は液体。液化フロンガスの比重は3.5、液化炭酸ガスの比重は1.03ということなので、水よりも重いかほぼ同じ、海水は塩水なので浮力がつくとはいっても、砲弾の重さを考慮すれば、自力で海上に顔を出し続ける浮力はありません。海に落したら、石でも投げ込んだように、すとーんと沈んでしまうでしょう(駄洒落)。これでボンベがプカプカ浮いたらギャグマンガ。
ちなみにプロパン(LP)の液化ガスは比重が0.51ですので水の半分程度と軽く、そのボンベは水に浮くことになります。浮き沈みはボンベの中身の比重次第ですね。
ということは、ゴジラの腹に巻きつける砲弾とボンベのセットを水面下の定位置に保てるほどの浮力を持つブイ(浮標)を追加して、一番上に付けてやらなくてはなりません。長さ数メートル、直径数メートルくらいのブイが必要でしょう。
そして、ブイが着いたままでしたらボンベ類がゴジラと一緒に沈んでくれませんので、ここにも、ブイをその下のボンベ類から切り離すリモコン装置が必要となります。これも信号用の
私は小説版のみで想像して書いていますので、映画作品ではどのように表現されているのか知りませんが、装置一セットごとに浮力ブイが必要なことは確かでしょう。
上から「ブイ→畳んだバルーン→炭酸ガスボンベ→フロンガスボンベ→大和の砲弾」を縦につなぎ、それを4~5m間隔で牽引用ワイヤーロープに吊るし、そのワイヤーロープは水深2500mに達するまで伸ばせる長さが必要になります。それも、駆逐艦二隻の艦尾からV字形に延ばすので、全体の長さは最終的に二倍の五千メートル以上必要となりますね。
これらを駆逐艦の狭い後甲板に積むのは、正直、大変でしょう。
映画の予告編で、駆逐艦雪風の後甲板に立ててある大型ボンベを数えると14~15本くらいかな? ゴジラの腹囲を60mくらいとみて、4~5m間隔でしょう。
砲弾の重量で20トンほど、さらに仮設したクレーンと巻き上げ機の重量は、後部砲塔を降ろしたことで相殺できるでしょうが、積載物があまりに
そこでお勧めするのは「一号型(一等)輸送艦」。
艦尾が傾斜スロープになっていて、甲標的や回天を搭載し、海面に降ろせる艦種ですね。四隻か五隻あり、民間貸出で1947年4月まで近海捕鯨に従事して、帰港したところでしょう。
これを二隻使った方が効率的かもしれません。
そうやって、砲弾とボンベ二本をブイにぶら下げた複雑な装置をゴジラの腹に巻きつけることに成功したとしましょう。
そこで、腹巻状態となった全てのブイを一度に切り離すと同時に、一番下の46センチ主砲弾を爆発させることになると思います。しかし……
46センチ主砲弾の炸薬量はたぶん60㎏ほどで、当時の米軍が使用した機雷の炸薬量450㎏には全然及ばないものの、数発から十数発の同時爆発なら、大型の機雷1~2発分には相当するでしょう。
これがゴジラの
ただし……
これ、水中爆発です。地上や空中の爆発と違って、衝撃波の伝わり方は物凄い。
日露戦争当時、両軍の1.5万トンほどの主力戦艦が機雷一発で轟沈していることを鑑みますと、やはり水中爆発の威力、恐るべしです。
さらに主砲弾の弾体が無数の破片となって水中を飛散します。
二本のボンベのバルブを開放する装置から駆逐艦の艦橋へと這わせている信号用の
当然、砲弾の真上、せいぜい二十メートルの至近距離に、鈴なりでぶら下げているフロンガスと炭酸ガスのボンベ自体も、ただでは済まないと思われます。
ボンベ同士が激突して破砕、少なくとも構造上の弱点であるバルブが壊されて、フロンも炭酸もボンベ内の液が急速に気化して、ガスが一気に噴出したでしょう。
見た目は、炭酸飲料のボトルを蹴っ飛ばした直後に栓を抜くような感じですね。
畳んであったバルーンも、吹き飛ぶか破れるか、全部使用不能になって不思議ありません。
早くもこの時点で、「深海からの急速浮上」作戦はご破算となったはずです。
ゴジラはガスの泡に包まれて、いったんは沈下するでしょう。
ただし、下記の引用。
●意外と知らないカーエアコンの仕組み 効率的に使いこなすコツとは
2014/5/18(日) 17:00 ヤフーニュース
カーエアコンの場合だいたい大気圧の15倍、約1.5MPaまでガスを圧縮する。(中略)コンデンサでガスの温度を60℃まで下げるとフロンは液化する。つまりめでたく元の液体に戻るわけだ。
●沖縄トラフ深海底下において液体二酸化炭素プールを発見
平成18年(2006年)8月28日 独立行政法人海洋研究開発機構
海洋研究開発機構は2003年と2004年に南部沖縄トラフ第四与那国海丘熱水活動域(水深1370-1385m)(図1)において「しんかい6500」による調査を行い、噴出熱水、海底から湧出した液体二酸化炭素、堆積物などを採取し、(以下略)
↑水深1400m近くで、液体の二酸化炭素がたまったプールを発見したわけですね。また、常温で圧縮した場合「二酸化炭素は約60気圧」で液化する……といった記事も全く別途にありました。
気圧は地表で1気圧、水圧は、水中に10m潜るごとに一気圧ずつ増えるとされますから、アバウトですが、フロンは水深150m以下で液化する場合があり、二酸化炭素は600mより深い場所……とくに1400mあたりになりますと、最初から液体になっている場合があると思われます。
海水の温度や比重(塩分濃度など)によって相当にブレはあると思いますが、深さが数百から千数百メートルまで沈んでいく過程で、フロンガスも炭酸ガスも、凄まじい水圧によって液化して、気泡の状態を維持できなくなるのではないでしょうか。
……ということは、海神作戦は、ゴジラを水深2500mへ落とし込む道半ばでゴジラが浮力を回復し、自力で上昇するという結末になることと思われます。
同時にゴジラがエイヤッと体をひねるなどしたら、駆逐艦との間で張り詰めたワイヤーロープはプッツンと破断します。
そして海上へ頭を出したとき、ゴジラは放射熱線スタンバイOK。
首を振りながら発射して、海神艦隊は全滅の憂き目に遇うことでしょう。
*
海神作戦は残念ながら「一撃必敗」。
必ず失敗する運命だったのです。
つまり、海神作戦は野田博士のご説明とは裏腹に、失敗必至の、事実上の特攻作戦だったと言えるでしょう。
『ゴジラ-1.0』が怪獣映画ではなく、特攻戦争映画である
*
……と、散々けなしまくって申し訳ありません。
もちろん小説版でも映画でも、海神作戦は(なぜか)成功していますので、何卒お許しを……
しかし、海神作戦はやはり、本質的に特攻作戦だったのです。
詳しくは次章で。
【次章へ続きます】
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