158●『ゴジラ-1.0』の疑問点と続編を妄想推理する。⑤ゴジラ浮上のムリムリ感。

158●『ゴジラ-1.0』の疑問点と続編を妄想推理する。⑤ゴジラ浮上のムリムリ感。




 海神作戦の第二段階で、深海のゴジラを急速浮上させる場面につきまして……


 不思議なのは、「炭酸ガスを気嚢に吹き込むことで浮力を得る」(P127)という仕組みで深海のゴジラを急速浮上させるというアイデアです。

 この場合の深海とは、水深2500メートルですね。

 「一平方メートル当たり二五〇万気圧」(P125)が掛かる世界です。

 問題は、低温(摂氏2~3度)、かつ超高圧の環境下で、ゴム風船みたいなものに炭酸ガスを入れて、それを膨らますことができるのか?……ということ。


 水深3810メートルにあるタイタニック号の沈没現場を観光する潜水艇タイタン号が水圧で圧壊するという事件がありましたね。2023年6月のことです。

 ゴムとかビニルシートみたいなバルーンではなく、2つのチタンの半球が炭素繊維強化プラスチックの筒で接続されたタイタン号が、沈下途中でクシャッと潰れてしまったのですから、水圧の恐ろしさ、推して知るべきでしょう。


 チタンと炭素繊維の外殻がぺちゃんこになるのですから、そんな環境でゴムのバルーンが気体で膨らんで、形を保つことができるでしょうか?

 現場で体験したわけではないので確証はありませんが、深海でバルーンに気体を入れて膨らませるのは、ちょっと無理があるのでは?

 普通の潜水艦は、浮上するときに「メインタンク・ブロー!」と金属タンクの中にエアを噴出して浮力を付けますが、それは深度千メートルあたりまでの話ですね。

 それよりもはるかに深く潜る深海潜水艇バチスカーフでは、以前は浮力材にガソリンを使っていました。海水よりも比重が軽い油、すなわちガソリンで満タンにした金属製の気球の下に耐圧球のキャビンをぶら下げたような構造です。浮上する時には大空を飛ぶ気球と同じで、別に用意したバラストを捨てて船体を軽くして、上昇します。

 最近の深海潜水艇バチスカーフは、ガソリンのかわりに、ミクロン単位の気泡を含んだ樹脂のビーズを大量にタンクに詰めたりしているようですが。

 いずれにせよ気体のガスを使わずに、、巨大な水圧に拮抗して、圧縮されずに済む素材を選んで、浮力材にしているわけです。


 ということで、超高圧の深海では、気体を浮力材とするのは難しいようですね。

 ゴジラが食い破るまでもなく、そもそも気嚢はタイタン号みたいにぺちゃんこのままなのでは?


       *


 それはそれとして、もっと気になるのは……


 駆逐艦二隻の艦尾からゴジラの体につながっているワイヤーを引っ張って、ゴジラを強制的に浮上させようと苦闘する人々。(P176-177)

 しかし体重二万トンのゴジラは重すぎて、びくともしない。

 そこへ、港から応援のタグボートが十隻、二十隻と駆けつけてくる。

 状況を見かねたタグボート船長たちが、勇を鼓して助っ人を志願してくれたのだ。

 映画『ダンケルク』(2017)を思わせる、感動のシーンですね。

 確かに『ダンケルク』には、感涙しました。

 そうする以外に、人を助ける方法がなかったからです。しかも実話。

 しかし、残念ながら……

 『ゴジラ-1.0』のタグボート船長たちの努力と使命感は報われるのでしょうか?


 ゴジラからワイヤーを曳いている駆逐艦二隻に、それぞれタグボートが十隻もつながって、駆逐艦を引っ張ってあげたとしましょう(P179)。

 ほら、あの『おおきなかぶ』をみんなで引っ張る童話ですね。

 童話では、スッポーンとカブが抜けました。

 しかし、『ゴジラ-1.0』でそれをやったらどうなるか。


 普通、駆逐艦とゴジラを結んでいたワイヤーが張り詰めると……

 プッツンと切れます。

 少なくとも2500メートル以上の長さのワイヤーです。

 ちぎれたワイヤーはその反動でブンッと跳ね返り、死のムチとなって、駆逐艦とタグボートに襲い掛かるでしょう。

 タグボートの船室や煙突なんか、一刀両断にされるかもしれません。



●参考ブログ

In the pontoon bridge karano.exblog.jp

『4,000トン吊起重機船「洋翔」見学する Part2』より引用

「4,000トンもある巨大な構造物を吊り上げる「洋翔」(中略)ジブを起伏させるワイヤロープの見本だが直径64mm(破断荷重3,390KN→340t)と表示がある。」



 ↑つまり、「この直径64mmのワイヤー一本に340トンの重さをかけたら、ちぎれるよ」ということですね。それより少ない荷重でお仕事して下さいと。


 映画では駆逐艦の艦尾からゴジラまで何本のワイヤーを延ばしていたのか、私は映画を観ていないので知りませんが、まさか一本ずつということはないでしょうね。

 ゴジラの体重は二万トン。すごく大雑把ですが、かりに全身の排水量が八千トンとしたら、それが浮力となり、残りの重さは一万二千トン。

 前述の「参考ブログ」のワイヤーを使用したとしたら、ワイヤー十本ならば限界が3400トンとなり、四十本で13600トンに達します。

 とすると駆逐艦一隻の艦尾から概ね二十本のワイヤーを伸ばすことになりますが、一本の長さは2500メートル以上ありますので、二十本全部で五万メートル以上、となると、今度はワイヤー自体の重さが駆逐艦の艦尾にのしかかりますね。

 悪くすると、海中に降ろしたワイヤーロープの重さだけで、駆逐艦の艦尾が水中に沈んでしまうかもしれません。


 まあ、二十本も延ばしたら、海中でこんぐらかって絡み合い、とんでもないことになったでしょうが。


 ということで、素人の私には具体的な計算ができませんが、ワイヤーの強度の関係から、ゴジラを深海から強制的に引っ張り上げる作戦は、ちょっとムリムリじゃないかな? と思うわけです。


       *


 海神作戦のファンの皆様、申し訳ありません……

 決して、所謂いわゆるイチャモンつける気は毛頭ありません。

(でも、ワイヤーは切れると思いますよ。アーサー・C・クラークの軌道エレベータで使う特製の炭素繊維ロープならともかく)

 何卒お許し下さい……


 ただ、この海神作戦の「ゴジラ強制浮上」のシークエンスは、次なる場面につなげるための、意図的な演出がミエミエでしたから……


 そう、つまり……

 ゴジラが浮上してくれないと、震電の出番が回ってこないからですね。

 Gさんが深海に沈んだまま土左衛門になってしまうと、お話はこれでおしまいになってしまいますし……


       *


 で、震電ですが……


 不思議に思うのは、なぜ単機で戦うのかということです。

 この場面には、二つのミッションが語られています。

  一、ゴジラの誘導

  二、ゴジラの爆破

 ならばフツーに考えて、二つの用途を一機に盛り込まずに、それぞれを二機で分担するのが合理的ではないかと……

 つまり、もう一人パイロットを見つけることですね。


 不可能ではないと思いますよ。

 主人公のような元特攻組も含めて、大戦を生き延びたエースパイロットが何人か、存命だったはずです。

 三四三空の源田実氏、あるいは坂井三郎氏。

 最適任は岩本徹三氏でしょう。


 また気持ち的には、山本五十六長官戦死飛行の護衛六機の生き残りである柳谷謙治氏も候補に上げられるかと。


 「特攻で死に損なった」というトラウマを抱えた主人公だけに、「特攻せずに生き延びた」先輩パイロットが登場し、両者のせめぎあいも、相互理解も描かれていたら、とてもよかったと思うのですが……


 なぜならば、『ゴジラ-1.0』は『永遠の0』の続きなんですから。

 これは、『永遠の0』で特攻から死なずに帰った若いパイロットの、心の苦しみを解決するストーリーなのですよ、きっと。


 ゴジラに立ち向かう機種は零戦でもよいですが、震電が飛べる設定なら、烈風だって橘花だって飛べるでしょうし、爆装するのなら最初から流星とか彗星とか、双発の銀河とか。そうすれば面倒な改造をする必要はありませんね。岩本徹三氏の腕をもってしたら、迫真のアクロバットが拝見できたかもしれません。

 烈風がおとり役でゴジラを誘導、震電がタイミングをみて突入とか。


 しかし、より適切なのは米英軍さんからパイロットごと機材を借りてくることですね。おとり役はグラマン・ベアキャット、爆装カチコミ役は双発で英軍のモスキートとか。

 もっとも、日本機マニアの夢はぶち壊しですが……。



 どうせ1947年という時代設定ならば、しっかり戦争を引きずっていただいてもよろしかったかと……



       *



    【次章へ続きます】




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