108●おすすめ映像音楽(6)…饗宴のミュージカル、『タイタニック』や『アニー』

108●おすすめ映像音楽(6)…饗宴のミュージカル、『タイタニック』『アニー』




 そして記念すべきは、1939年でしょう。


 ひとつは、超有名歌曲の『虹の彼方に』Over the Rainbowの誕生です。

 ミュージカル映画『オズの魔法使い』(1939米)でジュディ・ガーランドが歌いました。映画を観てなくても曲は聴いたことがある……というパターンの筆頭ですね。


 太平洋戦争直前の時代に、アメリカではミュージカル映画が花盛り、フレッド・アステアが脚光を浴びた『空中レヴュー時代』(1933)以来、お洒落で小粋で、ちょっとお色気も漂う大人のミュージカル映画が量産されます。

 しかし『オズの魔法使い』が格別の大ヒット作となったのは、カラー作品であることに加え、子供からお年寄りまで楽しめる、全世代対応の作品内容にあるでしょう。

 ジュディ・ガーランドというアイドルの誕生、豪華なセットに著名俳優陣の共演。

 戦後アメリカのミュージカル映画の大作化を方向づけた作品でもありました。




 ミュージカル映画は、観客の対象別に、おおむね三つの流れがみられます。


一、大人向けの実写ミュージカル映画

 

 『オクラホマ!』(1955)

 『巴里のアメリカ人』(1951)

 『雨に唄えば』(1952)

 『ウエスト・サイド物語』(1961)

 『マイ・フェア・レディ』(1964)

 『屋根の上のバイオリン弾き』(1971)

 『ラ・マンチャの男』(1972)  ……などなど


 そして『ジーザス・クライスト・スーパースター』(1973) 以来、アンドリュー・ロイド・ウェバー作曲の傑作が世界を塗り替えます。

 『キャッツ』『エビータ』『オペラ座の怪人』……ですね。


 さらに『スターライト・エクスプレス』(1984)。

 ギャラクシーエクスプレスやレヴュウスタアライトじゃありませんよ、21世紀に入って忘れられている感もありますが、列車が擬人化したキャラクターがローラースケートで走り回る舞台がなんとも斬新でしたね。新幹線ハシモトなんていたりして。

 ミュージカルではありませんが、『きかんしゃトーマス』の放映も同じ1984年ですから、どっちが先とは言えないでしょう。21世紀には『チャギントン』も加わって、列車キャラの皆さんはすっかりお子様向けにシフトしてしまいました。


 そしてブロードウェイ・ミュージカルの『タイタニック』(1997)は、同じ1997年のメガヒット同名映画とは全く別物です。DVDはなく、RCAビクターからCDが出ています(09026-68834-2)。

 レオ様とケイト・ウィンスレットの映画は若い二人の悲劇のロマンスが中心でしたが、同年のミュージカルの方は、巨船タイタニックとその人々を描く群像劇です。

 こちらも音楽が魅力的、「♪幸あれゴッドスピードタイタニック!」と歌われる船出の場面など、1997年の映画以上に、当時のフネに乗っている感じがします。

 「♪ノームーン ノーウィンド……」と繰り返されるフレーズがズン、ズン……と高まって、闇夜のタイタニック号が突如出現した氷山に激突する場面は、映画の『タイタニック』よりもずっと音楽的な迫力に満ちています。臨場感ではミュージカルの方がはるかにパワフルだと思います。

 フローティング・シティと讃えられた巨船の、一夜の終焉、その壮大な死。

 ロマンスよりも、お船が中心、これぞ正統派のタイタニックです。


 21世紀に入ってからは、『レ・ミゼラブル』(2012)。これも間違いなく大人向けです。人死にが多く死屍累々のシーンが続出ですから。

 しかし作品のスケールの大きさといい、ドラマチックな人物描写といい、音楽的完成度といい、言うことなしの超大作ですね。CDは映画のサントラだけでなく、米・英・日それぞれの公演版と、周年記念のコンサート版など、いろいろ聴き比べる楽しさがあります。

 劇的な盛り上げ方では、やはり米国ブロードウェイ版でしょう。

 ただ、この作品は音楽だけを切り離して観賞するよりは、映像で観た方がよさそうです。視覚あっての音楽といった作品かも。大仕掛けなスペクタクル映像が、音楽を引き立てているという感じですね。



二、ご家族向けの実写ミュージカル映画


 『メリー・ポピンズ』(1964)

 『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)

 『チキ・チキ・バン・バン』(1968)

 『オリバー!』(1968) ……などなど

 ちょっとマイナーですが、映画『心を繋ぐ6ペンス』(1967英)も忘れられない佳作。SF作家H・G・ウェルズの自伝小説『キップス』が原作。サントラは出ていませんが、DVDあり。素朴で純真な、可愛い二人の物語です。


 ピーター・マシュー・バリーの戯曲『ピーター・パン』(1904英)は、発表後一世紀を超えても実写映画、アニメ、ミュージカルに次々と翻案され、マルチに展開されているスーパーコンテンツです。

 米国のペアネズミさんと同様に、こちらも著作権が英国内では特別に保護されているらしく(日本国内では保護期間が満了していますが)、取扱い注意ですね。

 それらピーター・パン系列作品の中で個人的に好きなのは、スピルバーグ監督の映画『フック』(1991米)です。

 音楽はジョン・ウィリアムズで、サントラはどの曲も爽快! 『スター・ウォーズ』や『インディ・ジョーンズ』『ジュラシック・パーク』が一段落して、新境地を開きつつ、のちの『ハリー・ポッター』シリーズの音楽につながってゆく原型を感じさせます。ジョン・ウィリアムズの円熟の技が存分に披露されているといったところ。ハリポタは三巻目あたりからダークな雰囲気に傾倒してゆきますが、フックは徹頭徹尾、明るい! 元気の出るファンタジーです。


 ご家族向け実写ミュージカル映画の秀逸作は、『アニー』(1982米)。

 原作となるブロードウェイ・ミュージカルは1977年が初演ですので、初めての映画化作品となり、ここで一発メガヒットを! と狙う製作者の力こぶが頼もしい力作となりました。

 何といっても1930年代の初頭と思われるレトロな舞台設定が成功しています。公開された1982年からみて半世紀昔とした点で、ファンタジックな異世界の出来事として見ることができ、浮世を忘れて没入できるのですね。

 21世紀にリメイクされた2015年版は時代を現代に移しており、こうなると、あからさまな資産格差や孤児の法的な扱いとか、警察は何してるのか、公的な救済策は無いのかなど、気にかかることが多くなり、素直な鑑賞の妨げになります。


 ともあれ1982年版で視覚的に仰天したのは、大富豪ウォーバックス氏と部下の印度人さんが古風なオートジャイロ風の乗物を駆ってアニー救出作戦を展開すること。

 ウォーバックス氏は“オートコプター”と称しており、推進用のプロペラがないので、要するにオープンキャノピーのヘリコプターそのものなのですが、作品設定の1930年代初頭は、まだメインローターが単軸のヘリコプターは実用化されていないので、“オートジャイロもどき”と言うべきでしょうか。金持ちの乗り物として採用したアイデアセンスは抜群! 

 『007は二度死ぬ』(1967)の“リトル・ネリー”号、『ルパン三世 カリオストロの城』(1979)の伯爵の愛機と併せて、“20世紀ムービー・オートジャイロ御三家”と称したいものです。


 『アニー』のCDは映画サントラ以外に、ブロードウェイとロンドン・キャスト版がありますが、どれをとってもそれぞれに魅力的です。個人的にはロンドン・キャスト版が、やや上品で、耳触りの良い響きかな。



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