222●『おたくのビデオ』(1991)⑨新たなるルサンチマンを求めて。
222●『おたくのビデオ』(1991)⑨新たなるルサンチマンを求めて。
高級と低級に二極分化して、それぞれがマンネリ化(テンプレ化)しつつあるニッポンのオタク文化。
アニメもラノベも、「どこかで観た、どこかで読んだことがあるような」作品ばかりになってしまいました。(あくまで個人の感想です)
作家と編集者の皆さんは冒険を避けて売れ筋の傾向を狙い、それゆえに無難で「似たり寄ったり路線」に安住する傾向が出てきたのではないかと。
たしかに、斬新で挑戦的な内容の作品は、そう簡単には売れません。
みんな初見でビックリして、いったんは後ずさりするものです。
観客なり読者がその作品に慣れて、好意的に評価してくれるようになるまで、時間が必要なのですね。
ヤマトもガンダムも、最初の放映では視聴率が低く、どちらも当初の計画に比べて放映話数を減らされています。事実上の中途打ち切りってことでしょう。
しかし一年二年が過ぎるうちに再放送でブーム爆誕となり、直ちに劇場版が作られ市場に投入されたことで、人気が上昇していったわけです。
常識の殻を破るユニークな作品ほど、観客や読者への浸透に(最初は)時間がかかるということですね。
だから、アニメの場合、再放送が重要なのでしょう。
ガンダム系列の作品など、BSで何度も再放送しています。
そうやって新たなファンを獲得し、たぶん、ガンダム系列の作品群全体でブームを量的に拡大していく戦略なのでしょう。
まあ、私みたいなロートルファンは、三次元の美少女アイドルさんのお顔の個体識別ができなくて、どれがどなたやら混乱してしまうのですが、あまたあるガンダムなロボットさんたちも同様で、どれがどれなんだか……非ガンダムなロボットアニメも含めて、区別がつかず名前もわからず……なのですが。
ともあれ新たなOVAや劇場作品で、ガンダムなマーケットは順調に拡大していますよね。
しかしいずれも、「ガンダムな感じ」のロボットが中心で、そのデザイン路線から逸脱しないものが多いように見えます。
一方『OVERMAN キングゲイナー』(2002-03)あたりになると、作品内容はとてもユニークな視点で面白いのですが、ロボットのデザインはガンダムっぽくなくて、人気はちょっとハズれますよね。マニアックな
ロボット物とは別種の作品では、たとえば『NieA_7(ニア アンダーセブン)』(2000)とか『灰羽連盟』(2002)、『最終兵器彼女』(2002)とか、『巌窟王』(2004-05)、『シムーン』(2007)とか……
そのような、いわゆる“本流”からはみ出した作品がチョコチョコ現れると、それが刺激となって、新しいストーリーや表現形式が成立していくと思うのですが。
世のアニメ作品は数量的には膨張しましたが、こうした“はぐれもの”的な作品は、てんでお目にかかれなくなりました。とりわけここ十数年で。
これは製作者が、「国策オタク文化」であろうとして忖度しているのか。
そして「売れる本流作品」に拘泥しているということでしょうか。
一発目から売れなくては、そもそも制作も出版もできない……と。
*
本稿の冒頭で、ガイナックスの倒産に関する記事を引用しました。
ネットのニュース
●名門アニメ制作会社「ガイナックス」破産の真相 「庵野秀明」と「エヴァンゲリオン」がもたらした“光と闇”とは
2024 6/14(金) 11:11配信 デイリー新潮
大ヒットアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」などの作品で知られるアニメ制作会社「ガイナックス」。(中略)5月末、東京地裁に破産を申請。
「かつてのガイナックスのような『やりたいことをトコトン追及する』会社の存在こそ、日本アニメの強みであり、豊かさの土壌にもなってきた。しかし、そのやり方ではもはや生き残ることは難しく、ガイナックスの退場は“古き良き時代の終焉”を告げているように感じます」(業界関係者)
*
ということは……
この記事にある、『やりたいことをトコトン追及する』会社が存在し続けることは、現状では難しい。しかしそういった会社が存続できなくては、ニッポンのアニメ文化は恐るべき「大量生産→大量消費→薄利多売」のマンネリ地獄に落ちていくということですね。
*
さて、どうすればいいのか……
ニッポンのオタク文化を支えるアニメ作品の多くは、漫画とラノベからコンテンツを供給されています。
私たちの場合、大切なのは「ラノベの分野で何ができるか」ということですね。
とはいっても、何もないところから斬新な新作というものは、なかなか生み出されないものです。
で、思い返してみますと……
『おたくのビデオ』の前半に描かれている通り、1980年代に前人未到のオタク文化が花開いたのは、オタクな主人公たち若者の「ルサンチマン」が原動力になっていました。
社会的弱者であるオタクに対する世の中の偏見や蔑視に対する反発ですね。
ヤマトもガンダムも、強者に対する弱者のルサンチマンが作品の大きなモチーフとなっていましたね。主人公たちのエネルギーは、弱肉強食を平然と讃えてはばかることのない(デスラーやギレンみたいな)、理不尽な社会に対するルサンチマンに起因していました。
とすれば、今のマンネリ化したオタク文化に必要なのは、「新たなるルサンチマン」でしょう。
「ルサンチマン」といえば、“強者への嫉妬や恨み”も含まれるので、上級国民の皆様から、フフンと鼻でせせら笑われてしまいそうですが、ここで言うルサンチマンは決して嫉妬や恨みのことではなく、「強者からの偏見や貧乏ゆえの悲哀と闘って、我が道を行く」という意味です。
いわば“男おいどん”の精神。
馬鹿にされても冷笑されても、「ひとはひと、われはわれなり」と創作に励む姿勢を指します。
ルサンチマンというよりも、昭和風に言い直せば「ハングリー精神」ってことでしょう。
ルサンチマン即ちハングリー精神に培われた作品。
それが停滞する文化に風穴を開け、新天地を切り開くのではないかと思います。
*
で、それは具体的に、どういうことなのか。
【次章へ続きます】
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