180●『2024能登半島地震』と二つの映画『日本沈没』(1973)(2006)。⑦それでも逃げない人々、問われる知事の郷土愛。

180●『2024能登半島地震』と二つの映画『日本沈没』(1973)(2006)。⑦それでも逃げない人々、問われる知事の郷土愛。




 地震発生から18日。

 被災地集落の「まるごと避難」が進み、ライフライン無き苦境に孤立する人々は残りわずかとなりました。



ネットのニュース

●孤立集落ほぼ解消も17人が避難固辞 馳知事会見

2024 1/19(金) 12:54配信 北國新聞社

石川県の馳浩知事は19日、県庁で記者会見し、能登半島地震で孤立した集落にとどまっていた住民の避難がほぼ完了したとし「実質的に孤立集落は解消した」との見解を示した。一時、3345人いた孤立住民は18日時点で輪島市23人、珠洲市3人の計26人にまで減り、このうち輪島市の9人が近日中に避難する予定だと明らかにした。

一方、残り17人が避難を固辞している(以下略)、

孤立していた住民のうち、約930人が自衛隊などの協力を得て、集落の「まるごと避難」を実施したとした。金沢、白山、小松、加賀、野々市、能美各市のホテルや旅館などの2次避難所に集団で移った。


       *


 故郷を離れた人たちは、いつか戻れるでしょうか?

「必ず帰すから、元に戻すから」(2024/1/11(木) 20:49配信スポニチアネックス)

と明言された石川県知事の約束が果たされるか否か、にかかっています。


 すなわち、ユートピアをいったん捨てて避難する住民の皆さんにとって、県知事を信頼することができるだろうか? ということですね。


 じつは、不安要素があります。



ネットのニュース

●消滅する地域に多額の税金を投入すべきか

人口減少の日本で問われる、何がどこまで公費で救済されるべきかの線引き

2024.1.11(木)JBpress 山本 一郎

石川県知事の馳浩さんが副知事の西垣さんと調整したうえで、を元旦の新聞でぶち上げた夕方に、地震が起きたのはすごいタイミングでした。

気がいたします。

もっとも、金沢大学など地元の医局もカツカツで回っている面もある中、この4病院は基幹病院としてはびっくりするほど不採算なので、能登半島地震の復興予算でこの辺の医療提供体制をどう扱うかという線引きを最初に決めておかないと本当に地雷だと思っています。そのぐらい、僻地での医療は大変なことなのだという思いを新たにしています。


       *


 こういうことですね。

 石川県知事がこの元旦の新聞(北國新聞)で「現在、奥能登にある4つの病院を廃止(もしくは大幅に機能縮小)して、能登空港の近くに建設する新病院に統合する」……つまり、奥能登の「四つの病院を一つに減らす」という計画を大々的に県民に発表した、その日の夕方にこの能登半島地震が発生したのです。


 四つの病院は地獄のような環境で、続々と到着する負傷者の対応に追われました。



ネットのニュース

●あふれる患者、懸命の初期対応 「職員も大半が被災」、珠洲市唯一の公立病院 能登地震

2024 1/19(金) 7:04配信 時事通信

能登半島地震で甚大な被害が生じた石川県珠洲市では、唯一の公立病院「珠洲市総合病院」で、自らも被災した職員らが連日懸命の治療に当たっている。

地震が発生した1日午後4時10分、浜田院長は「(中略)車を乗り捨てて、2時間近く歩いてたどり着いた」と振り返る。

病院は大きく損壊していなかったが、ほっとする間もなく、外傷を負った患者が次々に運び込まれた。1階の待合室はすぐに避難者であふれ、「治療する患者の優先順位を決める『トリアージ』をする場所をつくるのもままならなかった」。当直や自力で到着した医師・看護師30人ほどで、必死に初期対応に当たった。

家屋の下敷きになったり、生き埋めになって救助されたりした患者が多く、既に亡くなっている人もいた。受け入れ切れない患者も相次ぎ、「地震と関係のない心疾患で搬送され、病院に着いたが(治療を受ける前に)車の中で亡くなられていた方もいた」と悔やむ。

浜田院長によると、270人いる病院の職員のうち、地震直後に活動できた人は100人ほどにとどまった。


       *


 「四つの病院を一つに減らす」計画が実行前であり、それぞれの地域で四病院の医療従事者に献身的に診療していただけたおかげで、多数の命が救われたことは確かでしょう。


 これが「四つの病院を一つに減らした」後だったら、半島の先端の珠洲市あたりでは、3キロ圏内で行けた病院が、30~40キロほど移動しなければ到達できなくなっていたはず。地震で道路がズタズタに寸断された現状では、倒壊した家屋の下からかろうじて救われた人たちが医療を受けられないまま逝去する結果になったであろうと思われます。


       *


 四つの病院が統合前だったことは、震災対策上、大きな幸運でした。


 しかし、これからどうなるのか?


 現・石川県知事は2022年に当選してまだ第一期目であり、自宅は東京にあって、県内在住ではありません。

 地元との深い信頼関係が築かれていくかどうか、今は未知数でしょう。

 そんな知事が奥能登の人々に示した最初の未来図は、「四つの病院を一つに減らす」ことでした。

 奥能登の人々にとって、これはショックだったはず。

 持病を抱えて通院している高齢者は少なくないでしょう。

 高齢者にとって、迅速に病院にアクセスできるか否かは、生死を分ける重大事です。病院を減らそうとする知事に、裏切られた思いを抱いたかもしれません。


 そんな知事を信頼できるのか?


 病院の統合に賛成できるお年寄りは、ほぼ皆無なのでは?


 そこに、地震が発生したわけです。

 地域の「まるごと二次避難」をよびかける知事。

 そして「必ず帰すから、元に戻すから」(2024/1/11(木) スポニチアネックス)と繰り返す知事に、地元の人々は相当な不安を抱いていたのかもしれません。


 「まるごと二次避難」は、そのまま「根こそぎの故郷ふるさと放棄」になってしまうのでは?


 孤立した地域に、それでも残ろうとする人達に対して、ネットでは「ワガママ」と非難する声も多くみられましたが……

 「四つの病院を一つに減らす」という知事の計画が、「故郷を捨てて出ていきなさい!」と聞こえる高齢者の方々もおられたでしょう。病院が遠くに移転すれば、入院したら最後、家族の見舞いもままならなくなり、そのまま寂しく亡くなるケースも十分にあり得ます。

 だからこそ、故郷に残りたい。自宅で幸せに命を終えたい……と願う人がおられたとしても不思議はないと思いますし、そのことを非難する気にはなれないのです。


 これから、知事は試されるでしょう。

 奥能登への郷土愛を、あなたはどのように受け止めているのか、と。


       *


 「四つの病院を一つに減らす」統合計画は、これで修正を迫られるでしょうか?

 四つの病院を維持すれば、災害対策の救命手段に大きく貢献します。

 四つの病院は、残るのか。

 それとも、震災によって多くの人々が故郷を出て二次避難し、その結果さらに人口が減ったことを理由に、統合計画はそのまま実行されるのでしょうか?


 いずれにせよ、「人口が減ったから病院を減らす」政策が……


 実質的に「」政策に様変わりしないことを祈るばかりです。


       *


 そこがどうしようもなく不便な僻地で、普通の人には住めない環境であったとしても、そこをユートピアと考えて生きてきた人が老境を迎えたとき、「ここで人生を終えたい」と願うのは無理もないことです。決して他者からあれこれと指図される筋合いはないでしょう。

 その一方、被災することで、より住みにくくなった環境を放棄して、別天地へ移る決意をする人もおられる、そちらもそれで、無理もないこと。


 この状況、今から50年ほど昔の1973年に上梓された『日本沈没』に描かれた情景そのものではないでしょうか?


 近々に暮らせなくなる土地、そこに残る人々と、脱出する人々の葛藤のドラマ。


 映画『日本沈没』(1973)は、2024年1月の能登半島に甦っているのです。



   【次章へ続きます】



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る