22●『ホルス』から『かぐや姫』へ(4)…『もののけ姫』は『ホルス』『ナウシカ』とそっくり!(付:カヤちゃんの逆襲)
22●『ホルス』から『かぐや姫』へ(4)…『もののけ姫』は『ホルス』『ナウシカ』とそっくり! (付:カヤちゃんの逆襲)
『太陽の王子ホルスの大冒険』(1968)
『風の谷のナウシカ』(1984)
『もののけ姫』(1997)
この三作は、お話の構造が驚くほど似ています。
いずれも人類と大自然が対峙する、そっくりの世界観。
そっくりのキャラクターで、そっくりに近いストーリーが展開しています。
三作品を比較してみましょう。
『ホルス……』(1968)では、狩猟採集民の段階である人類が、大自然の資源を野放図に簒奪しています。魚や獣を取りまくり、悪魔(実質は冬将軍)のグルンワルドの配下の獣たちはエサ不足に陥っています。生態系が壊されつつあるのです。
そこでグルンワルドは“妹”として育成した人類の美少女ヒルダを使って人類に反撃します。村々を滅亡させ、大自然にとって有害な人類の殲滅を図るのです。
手段として、狼群や鼠の大群の襲撃、などが挙げられますが、やはり注目は、秘密工作員として村に入り込んだヒルダの“内戦工作”でしょう。
『風の谷のナウシカ』もかなりそっくりですね。
巨神兵を押し出して、腐海という大自然を破壊しようとする人類。
大自然の側は直接的な反撃はしないものの、ペジテの特殊部隊が仕組んだ王蟲の子の
ナウシカ姫は王蟲に育てられたのではありませんが、腐海の
『もののけ姫』(1997)では、鉄鋼生産にいそしむタタラ集団が森林を広範囲に伐採、山を丸裸にして、生態系を破壊していきます。
そこで大自然の側は、犬神モロに育てられた人間の娘であり“もののけ姫”であるサンを尖兵として人類に反撃します。犬神や猪神の大群が人類を襲う場面となります。
三作いずれも、“人類vs自然”の対立構図であり、人類による自然破壊→大自然の猛威による反撃→人類側と大自然側の最終決戦……へと進んでいきます。
驚くほど、よく似ています。
で、大自然に対抗する人類側の最強兵器も、それぞれこうなります。
『ホルス……』(1968)では、太陽の剣。
『風の谷のナウシカ』(1984)では、巨神兵。
『もののけ姫』(1997)では、強化型の石火矢。
いずれにせよ、強烈な熱量を敵に対して行使する武器であるといえましょう。
“人類vs自然”の戦いの結果は、こうなります。
『ホルス……』では、人類側の完勝。ヒルダが人類側に寝返ったのが最大勝因。
『風の谷のナウシカ』では、人類側の自滅寸前で、ナウシカが仲裁に成功する。
『もののけ姫』では、人類側の自滅寸前で、サンとアシタカが仲裁に成功する。
表に裏に、ヒロインがしっかり活躍していますね。
『ホルス……』では、ヒルダが人類(ホルスと村人)と大自然(グルンワルド)の狭間に引き裂かれ、最終的に自分の命を捨てて(“命の珠”を人類に渡し)、人類を救う側に寝返りました。
『風の谷のナウシカ』では、大自然(王蟲と腐海)に共感するナウシカが、自分の命を捨てて大自然の怒りを鎮め、人類を救います。自己犠牲による救済。まさに救世主の行動です。
この二つの作品に共通するのは、“自己犠牲による救済”です。
ヒロインが全てを捧げて、自分の命と引き換えに、平和を実現します。
ただ大きな違いは、ヒルダが身心を引き裂かれる思いで苦悶したのに対して、ナウシカは迷いがありません。引き裂かれていないのです。
ヒルダが苦しんだ心の相克は、善をあらわすナウシカと、悪をあらわすクシャナに、最初からキャラを分離させることで解決しているのです。
だからナウシカはブレることなく、人類と大自然の平和な仲裁の使者となり、その願いと引き換えに自分の命を捧げます。
(伏線の巧みさがここに生きてきます。風の谷がトルメキア軍に侵略された際、父を殺されて荒ぶるナウシカと敵兵の間に入り、ナウシカの剣を血でもって受け止めたユパの仲裁がそれです。ナウシカはユパのように、対立する人類と大自然の間に身を置いて、自らを
なお、ナウシカの性格と行動がブレない理由はもうひとつ。
『ホルス……』では、ヒルダがホルスの影響によって、人類側によろめきます。
『未来少年コナン』では、モンスリーがコナン少年の影響によって、ハイハーバー側へよろめきます。
この“ブレ”が物語の大切な要素であり、作品の魅力でもあります。
『風の谷のナウシカ』の場合は……
ホルスやコナンの役割を果たすキャラが存在しません。
アスベルはいるものの、完全にナウシカに従属する、弟のような位置づけとなっています。
では、ホルスやコナンに相当するキャラは、どこへ行ってしまったのか。
思いますに、おそらくナウシカの中に合体してしまったのでしょう。
ホルスやコナンの超人的身体能力は、ナウシカの中に宿っています。
父親の死を契機に、運命背負って故郷を旅立つシチュエーションも共通します。つまり……
ホルス+ヒルダ=ナウシカ
なのですね。
だから彼女はブレず、よろめかない。
完璧なスーパーヒロインなのです。
しかしこの完璧さは、『風の谷のナウシカ』の作品上唯一といっていい欠点でもあります。
某NHKの五歳の女の子が言うところの「つまんねー奴だなあ」なのです。
人間が出来過ぎ、と言うことですね。
役柄上、救世主なのですから、無理もありませんが……
そこで『もののけ姫』です。
こちらは人類側のエボシと大自然側のサン、この二人に、綺麗にヒロインが分割されています。
そこへ、ヒーロー(のはず)であるアシタカが登場。
しかし、アシタカは主張しません。サンを、人類側に寝返るよう説得するわけでもありません。かといってエボシに歯向かうこともしません。
アシタカは二人の強力なヒロインに挟まれて、どちらにつくことも無く、むしろ迷います。
“ブレる、よろめく”役割を、この作品ではヒーローの男の子が担っているのです。
そのため、人類側と大自然の“仲裁者”となるのはアシタカであり、サンはその仲裁行為に同意して協力する立場となります。
物語のラストにおいても、エボシとサンは、互いの立場に寛容さを見せ、憎しみを和らげて受容するものの、相手に屈服することはしていません。
「アシタカは好きでも、人間は嫌いだ」と言うのですね。
アシタカはサンと親愛な関係を築きますが、同居するまでには至りません。
彼は今もずっと、よろめき続けているのです。
(以下次章)
*
〈カヤちゃんの逆襲〉
『もののけ姫』には語られなかった大きな欠落部分があります。
“カヤちゃんのその後”です。あれほどアシタカを愛し、その証として渡したお守りの短刀をあっさりとサンに取られたままで、話が収まるはずがありません。
Gで始まるロボットアニメのフラウやミリアリアと並ぶ、“いつのまにかおざなりキャラ”の代表になってしまいました。カヤちゃんの物語はなにひとつ終わっておらず、続編『カヤちゃんの逆襲』をぜひとも期待するものです。
もっとも、あれだけ凛とした、しっかり者のキャラですから、カヤちゃんが登場したら最後、他の全員がタジタジ……となることでしょうが。
え? どうやってエミシの郷からタタラ場までカヤちゃん一人で旅をするのかって? ひとつだけ方法があります。アシタカに恋焦がれて狂乱のあまり、みずからタタリ神となって、故郷を襲ったあの猪型タタリ神の逆コースをすっ飛ぶのです。超特急でアシタカと再会できるでしょう。あとは野となれ山となれ、ですが。
アシタカ、きっと食われちゃうよ、カヤちゃんに。しかし自業自得ですね。
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