147●『超時空要塞マクロス/愛・おぼ…』⑤…「しばらくサヨナラ」の謎。

147●『超時空要塞マクロス/愛・おぼ…』⑤…優柔不断の平和外交。「しばらくサヨナラ」の謎。



 三角関係が延々と最終話まで続いたのは、最後まで“どっちつかず”だったヒカルの自業自得だったというしかないでしょう。

 第27話『愛は流れる』でミンメイに「好きでした」と告ってフラれてしまったというのに、そこでフンギリをつけず、ズルズルと未練を残してしまったところに、不幸の原因があったわけで。


 で、結局、最後に三角関係を制したのは……

 ヒカルは横に置いといて、未沙とミンメイが直接対決(表面的には平和ですが、内面では恋の闘志がメラメラだったはず)することで、二人の恋の取引ディールが成立し、そこで結論が出たのですね。


 最終話の、かなりラスト近く。

 未沙はミンメイに「あなたは誰のために歌うの?」と問いただします。

 そこで、「歌手をやめてヒカルと一緒になる!」と自暴自棄に陥っていたミンメイが、「自分の歌」の大切さを悟ることになります。つまり、自分を取り戻す。

 歌を忘れたカナリアが、ここで歌を思い出すのです。

 この瞬間、恋の勝敗は決着しました。

 二人は握手を交わします。

 ミンメイを「私はヒカルにすがりつくのをやめて、自分の力で、本当の歌を取り戻さなくてはいけない!」という前向きの心理に(言葉は悪いですが)とき、未沙はヒカルをタナボタ的にすんなりと手中にしたのです。

 これぞ恋の大逆転、回天の一撃でした。。

 コングラチュレーション!


 しかし、この期に及んでも、ヒカルは自分の意志で二人のどちらかを選ぶことができません。まるきり成り行き任せで、二人の恋の暗闘の結果を黙って受け入れるしかなかったのです。

 フォッカー先輩なら一喝しますよ「なさけねェぞ、ヒカル!」と。


 なんて無責任なフニャ男! と、お怒りの向きもあるかと思いますが、考えてみると、このヒカルの優柔不断こそ『超時空要塞マクロス』の大きなテーマの一部だったと思われるのです。


 作品の最大のテーマは疑いもなく、“戦争と平和”です。

 ヒカルを愛の力で征服しようと心理戦で闘う未沙とミンメイ。

 ヒカルはこの二つの、対立する軍事大国に対して、双方の顔を立て、自分もいい顔をしながら、ナアナアで付き合って、何とかしてのらりくらりと平和な関係を維持しようとするヘッポコ弱小国の外交テクニックを体現しているのです。


 作品がつくられた1980年代初頭は、まだ米ソ冷戦たけなわの時代でした。

 アメリカとソ連、二つの核軍事大国に挟まれて、両国との関係をなんとかして友好に保とうと悩むニッポン。両国に嫌われず、それなりに好かれながら、三ヵ国の三角関係を、カドを立てずにナアナアで維持し続けるしかない……


 それもまた、平和の一つの形ではなかったか……と、皮肉たっぷりに『超時空要塞マクロス』は教えてくれます。

 一国の外交としては無責任のそしりを免れないでしょう。しかし昭和の時代に平和憲法を遵守して弱肉強食の国際社会を生き延びていく手段として、“ヒカル=諸星あたる”型の外交は、当時としては、やむをえない最善のトレンドであったのかもしれません。なんとも運任せな外交なので、不本意ではありますが……

 しかし何はともあれ、戦後80年近くも、この国は戦争を回避し続けてきたのですから、その結果は評価されるべきでしょう。


 難題を先送りにして、その場しのぎで、のらりくらりと衝突を避け続ける。


 ただし、21世紀の現在でも通用するかどうかは、全く別の話です。


       *


 なお、くだんの三角関係の結末は、第17話『ファンタズム』で入院しているヒカルが夢うつつに見る不条理な妄想劇のラストで、しっかりと暗示されていたことに驚かされます。

 夢の中の話ですが、ゼントラーディ軍にさらわれたミンメイの救出に四苦八苦するヒカル、しかし苦難の果てに救出したミンメイは、じつは……といった結末。

 この時すでに、解答が明らかにされていたのですね。

 上出来ウェルダン! とスタンディングオベーションしたくなる、最高の演出でした。お見事マクロス!


        *



 さてTVシリーズの最終回、第36話『やさしさサヨナラ』の最後のセリフに注目しましょう。

 正確には、セリフというよりは、流れてくるミンメイの歌の歌詞です。

 自分の歌を取り戻してゆくミンメイの、心穏やかな美声。


 「……♪しばらく サヨナラ」


 つまり、マクロスは終わっていないのです。

 劇場版で、またお会いしましょう……ってことですね、たぶん。


 しかしこの歌詞、謎めいています。

 曲は確かに『やさしさSAYОNARA』、市販のCDでは一番と二番がありますが、じつはその歌詞に「♪しばらく サヨナラ」のフレーズは存在しないのです。

 これは正規の歌詞ではなく、最終話のラストシーン用に書かれたオリジナルではありませんか? それとも、もしかすると、“幻の三番”があるのかもしれませんね。


 だとすれば、ミンメイファンにとって、この場面だけで聴くことのできる、貴重な歌声ということになります。ありがたや……


 そして、続くエンディング。アルバムのページを繰りながら流れる『ランナー』は、いつもの一番でなく二番の歌詞、そしてヴォーカルは、ヒカルに背を向けて未来へ歩み出したミンメイの歌声に変えられています。

 その一節。


 「♪自分の道を歩むだけ……」


 彼女の決意ですね。


 なんとも小粋な幕引きに余韻を残して……


 劇場版『愛・おぼえていますか』に愛の三角関係は引き継がれていきます。





※追記……そういえば第25話『バージン・ロード』のマックスとミリアの結婚式でミンメイが歌った『ランナー』のブライダルバージョン、これもオリジナルの歌詞であり、貴重な歌唱でした。この歌も、どこかでCDになっていないかなあ……。




   【次章へ続きます】



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