148●『超時空要塞マクロス/愛・おぼ…』⑥…劇場版はなぜTV版と「話が違う」?

148●『超時空要塞マクロス/愛・おぼ…』⑥…劇場版はなぜTV版と「話が違う」?



 そして、劇場版です。

   『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』(1984)

     〈以下、『劇場版マクロス』と記述します〉


 スクリーンで見終えたとき、あまりの驚愕に仰天するばかりでした。

 脚本、演出、作画、色彩、セリフに音楽、どれをとっても、当時の常識では「この世のものとは思えない」高水準。

 それらについては、屋上屋を重ねてコメントする必要などありませんね。


 しかし、最も驚いたのは……


 話が違う!


 これ、当時の私の理解をはるかに超えていました。

 TVアニメの劇場版といえば、“TV版のダイジェスト”が普通だったからです。

 1977年の『宇宙戦艦ヤマト』は、1974年に放映されたTV版をそのまま再編集したものでした。ほぼ、単純なダイジェストです。

 1981~82年の『機動戦士ガンダム 三部作』も、『Ⅰ』と『Ⅱ』は1979年に放映されたTV版のダイジェストで、『Ⅲ』は新規映像がかなり追加されていましたが、それでもストーリーはTV版をそのままなぞっていました。


 劇場版がTV版の「増補改訂版(加筆修正版)」であるととらえるならば……

 『劇場版ヤマト』(1977)は「増補も改訂も無し」

 『劇場版ガンダム』(1981-82)は「増補が随所にあるが、改訂はほぼ無し」

 そして『劇場版マクロス』(1984)は「全部増補で全部改訂!」


 舞台設定と登場人物は同じでも、完全新作の作り直し。いや“作り変え”。

 何よりも、ストーリーの大半がTV版と異なる……つまり、話が違う!


 これがカルチャーショックというものかと思いました。

 観客としては、TV版の一部分をクオリティアップした再編集作品だと思っていたのです。

 その期待は、もちろん、度肝を抜くほど良い方に裏切られたのですが……

 観終わった感想は、一言。

 諸手もろてを上げて「デカルチャー!!」


 コペルニクス的転換、コロンブスの卵的に凄い作品だけど、こんなん作ってどーするんだろ……と言葉を失うしかありません。


 たとえれば、『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)のTVシリーズを全部観てから、その後に続く劇場版をすっとばして、『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』(2021)を突然見せられたような感覚です。


 ということは、つまり『劇場版マクロス』(1984)こそ、TV版のマクロスを“リビルド”した作品だったのですね。作品の設定や人物など大枠はそのままに、あとは全部イチから作り直し! しかも、ほぼほぼ異なるストーリー! なんと先駆的な!


 いや、21世紀の今でこそ、頭に「シン」をつけて、パラレルワールドのお話みたいに全面“作り変え”の劇場版が出てきても驚きませんが、なにせアニメ文化の興隆期に入ったばかりの1980年代初頭においては、もう、全く信じられない実験的作品に見えたわけです。

 「こんな作り方の作品もアリなんだ!?」と。

 もう、異次元の第三種接近遭遇って感じ?


 一般に、TV版の総集編、あるいは続編か外伝にとどまっていた劇場版に、破壊的というか、もはやデカルチャーなまでの革命をもたらしたと言っていいでしょう。


       *


 この常識破りで掟破りの超絶技巧の『劇場版マクロス』はたぶん賛否両論で、さすがにいろいろと物議をかもしたのでしょう。

 ウィキペディアの『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』の項では、TV版と劇場版の内容の相違について詳しく比較されるとともに、下記のように補足されています。


【「マクロスシリーズ」中の位置付け……映画予告編のナレーションでは「主演、リン・ミンメイ」「早瀬未沙、ゆれる女心を演じます」などアニメ世界内の映画(劇中劇)を思わせる演出がなされている。1990年代以降に製作された『マクロス7』などの続編作品内では、『愛・おぼえていますか』は「ゼントラーディ軍との第一次星間大戦(2009年 - 2010年)の戦勝20周年を記念して、2031年に公開された歴史映画」と位置付けられるようになった。】


 ……まあ確かに、「これは劇中劇ならぬ劇中映画であり、TVシリーズの中のカンフー映画『小白竜シャオパイロン』と同等の位置づけだ」と解釈すれば説明はつきます。


 しかし、真に注目すべきは、いわば、“後付けのつじつま合わせ”な印象もある、それらの説明の有る無しではなくて……


」という疑問です。


 劇場の大スクリーンに耐えるために、アニメとしての視覚的クオリティを上げる必要はあるでしょう。それならばTV版の絵コンテを流用して、作画レベルに不満が残る部分を作り直せば足りたはずです。

 たとえば『スター・ウォーズ エピソード4~6』がのちにCGを追加してクオリティアップを図ったように。(個人的には、やらなくてもいい余計なことをやらかした感もありましたが、それは別の話で……)


 しかし『劇場版マクロス』では、敢えて、監督はじめ制作陣の皆様は、TVシリーズの舞台や人物などの基本設定は生かしつつも、ほぼ完全な「増補改訂」に踏み切られました。

 なぜ?


 TVシリーズのストーリーそのままでも、当時のアニメとして十分すぎるほど高度な内容でした。それを承知で、“全部作り直した”、あるいは“作り変えた”のには、それなりの理由があるはずなのです。


 これが、『劇場版マクロス』の、最大の謎と言えましょう。




    【次章に続きます】



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