149●『超時空要塞マクロス/愛・おぼ…』⑦…これは「マクロス補完計画」?

149●『超時空要塞マクロス/愛・おぼ…』⑦…これは「マクロス補完計画」?



 TV版に続いて劇場版を作る際には、いろいろと内容の追加や修正が施されます。

 『劇場版マクロス』(1984)は、TV版(1982)のな「増補改訂」版だと考えてよいでしょう。

 なぜ、「増補改訂」するのか?

 それはやはり、「TV版ではできなかったことを、劇場版で実現する」ことにあるでしょう。

 TV版では不足していた内容を、劇場版で補足することで、完全な内容にする。

 いわば「マクロス補完計画」です。


       *


 TV版に対して劇場版で大幅に「増補」された内容は、何でしょうか、そして増補された理由とは?

 作品を観れば、一目瞭然ですね。



【マクロス“増補”の三大要素】


➀ 50万年前のプロトカルチャーとは何か? 具体的に見せる必要があった。

 

 ……太古のプロトカルチャー文明と、人類およびゼントラーディには、遺伝子レベルで深い関係があるとされます。TV版では第31話『サタン・ドール』で、エキセドル記録参謀とグローバル艦長から口頭で説明されていましたが、参考として役に立つイラストやフリップが出てこず、パソコンのパワーポイントも使われず(1982年では無理でしたね)、なんだかちっとも具体的なイメージが湧きませんでした。

 この点はTV版の最大の欠点といえるでしょう。第27話『愛は流れる』で戦争の推移を決定的に変える“ミンメイの歌”の大切な背景要素となるからです。

 そこで劇場版では、地球の海底に隠されていたプロトカルチャーの遺跡宇宙船が浮上することと相成りました。ついに実物を見せてくれたのです。


 やはり、実際に絵になってくれたことで、観客としてリアルにプロトカルチャーをイメージすることができたと思います。



② 「50万年前プロトカルチャーの、あたりまえのラブソング」が必要となった。


 ……50万年前のプロトカルチャーの遺伝子操作に起因して、人類とゼントラーディ人が共に“ミンメイの歌”に感情を揺さぶられ、「カールチューンが目覚める」現象が生起するのですが、じつはTV版のやり方では、今一つ納得できかねるのです。

 なぜならば、TV版の第27話でミンメイが歌うのは、物語世界における現在、つまり西暦2009年の人類社会の歌謡曲メドレーだからです。

 ゼントラーディの人々の遺伝子に眠っているプロトカルチャーの因子は、50万年前から変わらず受け継がれていたもの。人類の遺伝子にも、同じ因子が眠っている。

 ならば、人類とゼントラーディの双方に同時に文化の感動をガツンと呼び覚ますには、「50万年前プロトカルチャーの文化=50万年前プロトカルチャーの歌謡曲」が最もふさわしいことになります。

 プロトカルチャーの歌、そのものを登場させることで、人類と異星人が心をひとつにする……という設定変更は、まことに慧眼であり、納得できる展開となりました。


 よって劇場版では50万年前プロトカルチャーの遺跡宇宙船から“発掘”されることになる歌『愛・おぼえていますか』を全く新たに作詞作曲し、ミンメイが歌うことになったのですね。



③ 未沙とミンメイの心の絆を補強して、互いにリスペクトさせる必要があった。


 ……TV版の最終回、第36話『やさしさサヨナラ』で、ヒカルと未沙&ミンメイの三角関係に決着がつき、未沙とミンメイは和解と友情の握手を交わします。

 しかし振り返ってみると、TV版の未沙とミンメイはそれまでチラチラと面識はあっても、直接にじっくり語り合ったり、一緒に事件に巻き込まれるなどの共通体験がなく、互いの人間性に理解を深める場面がありません。

 ですから、最終回の二人の握手には、いささか強引な唐突感が漂います。

 ミサイルが降り注ぐ修羅場の只中で、未沙がミンメイに「誰のために歌うの?」と説教しただけですので、ミンメイがそのすぐあとで「乗せて下さいますか、あなたの船に」とお願いするのは、いささか不自然ですね。付き合いが浅いのに、一足飛びに、そこまでの心境になれるのか? ってことです。

 未沙もそうです。さすがにこの時点で、あなたは恋敵だったけど同じ船に乗せてあげます、喜んで……と、返す言葉で約束できるのか。

 だって呉越同舟になりますよ。船内でヒカルが未沙と仲たがいしたり倦怠期に陥ったら、ミンメイとの浮気が持ち上がり、三角関係が再び戦闘再開となることは容易に想像できます。なにぶんヒカルの優柔不断のフラフラぶりは折り紙つき。

 TV版の結末は、よく考えると、説得力に弱いのです。


 そこで劇場版では、「50万年前のプロトカルチャーの歌」を未沙が発見して歌詞を翻訳し、それをミンメイが歌うことで、二人の共同作業を実現させたのでしょう。

 二人の心が結びつく場面を、しっかりと用意したのです。


 そこで、あの、胸にグッとくる最後の場面です。

 ミッション・コンプリート、状況終了となったとき。

 ステージのミンメイは振り向いて、ブリッジの未沙を見上げ、すっくと背伸びすると、黙って歌詞のメモを捧げます。そして微笑み。

 “素晴らしい歌詞と曲をありがとう! あなたのおかげです”

 見下ろす未沙は、万感を込めて首を振ります。

 “いいえ、いいえ、あなたに歌っていただいたおかげです”

 決死の激戦を生き延びて、ただ黙して微笑みを交わす二人。

 このとき二人の間には、ともに死線を超えた人間同士の信頼とリスペクトが生まれ、二人の心が固い絆で結ばれたことが察せられます。

 単なる三角関係の解決をはるかに超えた、最高のエンディングでした。


 観客の私としては、TV版における二人の長い心理的対立を踏まえているだけに、劇場版のこの場面は感涙ものでした。


 TV版のラストシーンで、“自分の歌を取り戻す!”と決意したミンメイの願いが、「50万年前プロトカルチャーの、あたりまえのラブソング」によって、叶うことになった……とも受けとれるのですから。


 この時の歌『愛・おぼえていますか』の一フレーズは……


 「♪ひとりぼっちじゃない あなたがいるから」


 ミンメイにとって、この“あなた”はもはやヒカル個人でなく“歌”そのものであり、“歌を聴いてくれる人々”のことでしょう。

 このとき、ミンメイはアイドルとして、“永遠性”を獲得したのだと思います。




   【次章へ続きます】



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る