216●『おたくのビデオ』(1991)③オタク文化が亡ぶ? 恐怖の大魔王がやってきた!

216●『おたくのビデオ』(1991)③オタク文化が亡ぶ? 恐怖の大魔王がやってきた!



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第三に、欧米で高く評価されたことで、国内の賞賛をかちえたこと。


 明治時代から、欧米先進国の猿真似にいそしんできた、われらがニッポン。

 浦賀の黒船来寇から、かれこれ170年。

 いまだに日本は、欧米で高く評価される文物を無批判かつ無定見に賞賛し導入する傾向がみられます。

 (あ、あくまで私の個人的感想ですよ)


 これは欧米独自の文化に限りません。

 「日本国出身の文物人物が欧米で高く評価されたことで、それが国内に逆輸入されて絶賛、神格化されること」もあるわけです。

 実例の最たるものは“ノーベル賞”。

 日本人が欧米のノーベル賞をかちえたとき、その讃え方は、もう生き神様みたいなものですね。

 ノーベル賞でこんなに大騒ぎする国は、他にはあまり無いようですが……

 とことん、“外圧”に弱い国民性ですね。


 2024年の今、もう一つのわかりやすい実例は大リーガーのOタニサンですよね。

 六月は成績好調もあって、毎日絶賛の嵐です。

 彼の業績はもちろん偉大です。しかしTVのニュースバラエティで通常のネタを押しのけて「速報!」と、ホームラン一本でデカデカと報道するのはいかがなものか。

 さすがに食傷気味です。フツーに、スポーツコーナーで扱えばいいのに。

 というのは、Oタニサンに浮かれる前に、ソーリがもくろむステルス増税とか、警察の誤認逮捕や冤罪やもみ消しが頻発する現状とか、マイナ保険証を取得しなければ診察を後回しにされたとか、薬局で薬の販売を拒否された……といった、庶民として物凄く切実なニュースに神経をとがらせねばならないからです。なにぶん庶民の生活を直撃しますので。

 ことマイナカードについては「任意という名の強制」がふんぷんと匂ってきて、精神衛生上よろしくありません。強制なら強制できちんと法的根拠を整えて、その責任を明確にしていただきたいものです。


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 閑話休題。

 ということで、日本を発して欧米で高く評価され、あちらでブームとなった文物人物は、それまで日本国内でどれほど蔑視されていても、コロッと手のひらを返してもてはやされ、大絶賛に転じてしまうものでして……

 西暦2000年前後のニッポン発オタク文化は、まさにそれだったのですね。


 1970~80年代あたりから欧米で地道に放映されていったジャパニメーションが異国のオタクなチルドレンたちのハートをつかみ、世紀末に近づきますと、現地でのアニメやゲーム、コスプレのイベントが華々しくマスコミに紹介されます。

 するとアーラ不思議、インド大魔法団のまじないにかかったみたいに、日本国内のアンチオタクたちはコロッと宗旨替え。

「ニッポンのオタク文化は凄い! 世界に認められた! これぞグローバリズム!」と、突然にポジティブなレッテルを貼られてしまいました。

 なんとも軽薄なノリですが、ちょうどここで、ハロウィンの仮装マスカレードイベントが輸入されたことで、国内のコスプレブームにとっては、まさに火に油を注ぐ盛り上がり。

 そもそもは、お盆とクリスマスの間に消費を喚起するイベントが欲しい、という打算的な魂胆だったと思われますが……。お正月と雛祭りの間にバレンタインを仕込んだようなものですね。


【引用】「ハロウィンのパレードとしては1997年より毎年開催の神奈川県川崎市のJR川崎駅東口一帯の「カワサキ・ハロウィン・パレード」が知られる。このパレードでは約3000人による仮装パレードで約10万人の人出を数える。東京ディズニーランドでは1997年10月31日、園内に仮装した入園者が集まるイベント「ディズニー・ハッピー・ハロウィーン」が初めて開催され、2000年10月31日には400名の仮装した入園者とディズニーのキャラクターが園内をパレードする「Happy Halloween Twilight Parade」が開催された。」〈ウィキペディアより〉


 こうして、オタク文化の中でもとりわけ恥ずかしく奇異にとらえられていた“コスプレ”が晴れて市民権を獲得、むしろバブル景気崩壊後に沈滞する地域経済の起爆剤として歓迎され、各地の観光地や商店街やらで自主的に企画されていったような……


 つまり、オタク文化が、それまで「非オタク」だった人々に、資本主義的な観点からニーズを得ていったことになります。

 ハロウィンはあっさりと定着し、変な格好をした連中が街中を歩いていても、誰も不思議に思わなくなりました。


 こうした仮装イベントの裾野にわらわらと出現したのが、ご当地を振興させる「ゆるキャラ」。

 2006 年、国宝・彦根城築城 400 年祭イメージキャラクターとして、“ひこにゃん”が誕生。

 次いで2010 年に奈良県で開催される「平城遷都 1300 年祭」の公式キャラクターとして“せんとくん”が2008年に発表され、その異形ぶりに物議をかもしました。

 そして2010年より、『ゆるキャラグランプリ』なるものが開催。

 オタク文化を地方行政が採用し始めたのです、それまでの恥も外聞もどこへやら。


 「資本主義経済の振興」という錦の御旗のもと、バブル崩壊後の不景気を打ち砕くカンフル剤の尖兵として、全国の観光地に、奇妙奇天烈なゆるキャラが雨後の竹の子の如くに林立してしまいました。

 これも、オタク文化の一形態と考えられるでしょう。

 ハロウィンのイベントでコスプレが普及したことで、「年間を通して着ぐるみの仮装キャラを打ち出せば、観光地の販促に一役買うのでは」になったのですね、たぶん。その発想がなければ、おそらく、ゆるキャラの全国的繁殖は何年か遅れていたことでしょう。


 オタク文化、万歳!


 ニッポンのオタクたちは、こうして正々堂々と胸を張って歩けるようになったのです。

 コミケは、ニッポンが世界に誇るオタク文化の聖地メッカとなりました。

 まさに、向かうところ敵なしのインビンシブルな快進撃。

 ここに、超巨大なバックアップが加わります。

 日本国政府ですね。


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ネットのニュース

●世界コスプレサミット

世界コスプレサミット(せかいコスプレサミット、World Cosplay Summit、WCS)は、世界コスプレサミット実行委員会が開催しているコスプレの世界最大のイベントである。

2003年にテレビ愛知が初開催、2006年から日本の外務省が後援し、2009年度からは主催者である実行委員会の構成員となった。2006年からは外務大臣賞が授与されている。

2007年、国土交通省が所管するビジット・ジャパン・キャンペーンの一環として認められた。2009年には外務省、名古屋市、名古屋観光コンベンションビューロー、テレビ愛知、中部国際空港、大須商店街で構成される世界コスプレサミット実行委員会を設立した。

……2005年7月31日・8月7日、「世界コスプレサミット2005」を開催。「愛・地球博」EXPOドームで、初めての「世界コスプレチャンピオンシップ」が開催された。3,000人の観客が見守る中、7か国参加によるパフォーマンスコンテストが行われ、(以下略)

2006年8月5・6日、「世界コスプレサミット2006」を開催。外務省、国土交通省から後援を受け、世界9か国が参加。

2019年7月27日・28日、東京ドームシティで「世界コスプレサミット in TOKYO」が初めて開催され、(以下略)

〈以上、ウィキペディアより〉



ネットのニュース

●日本発エンタ 最新チャレンジ事情 第3回/全19回

「コンテンツは日本の成長産業」経産省の大型支援もスタート

2023年12月06日  日経クロストレンド

※日経エンタテインメント! 2023年12月号の記事を再構成

2023年10月現在、「コンテンツ産業は“日本の成長産業”として有望と考え、その振興に取り組んでいます」と話すのは、経済産業省 商務情報政策局コンテンツ産業課の(中略)「日本由来のコンテンツも近年、海外展開を拡大していて、12年から21年にかけては約3倍になっています。世界市場の成長市場を取り込むことで日本のコンテンツ産業自体を成長させていくことを、主要な政策課題として考えています」

日本のエンタテインメントの海外展開を国の政策としてしっかり支援する。(中略)が、経団連の「Entertainment Contents ∞ 2023」には「政府においては、(原文で中略)戦略的・一元的な取り組みは不十分であった」との指摘があった。日本のコンテンツの伸び率が、韓国や中国と比較して弱まっている危機感も感じられる。

そこで経産省が今、力を入れているのが、コンテンツ全体の海外展開に向けた支援だ。もともと同省は13年以降、様々な海外展開支援策をスタートさせている。「コンテンツ海外展開促進・基盤強化事業費補助金(映像制作等支援)」(JLOX)の(以下略)

JLOX(Japan content LOcalization & business transformation[X])は、「ウィズコロナに対応した経済社会や激変する世界のコンテンツ市場など、新たな市場開拓を促すことを目的」とする。本支援は、令和4年度補正予算で約200億円。23年は9月から「国内映像制作支援」「ロケ誘致支援」が始まった。コンテンツのプロモーション支援については、(中略)のメニューとして、かかる経費の2分の1、1案件2000万円を上限とした補助が行われており、例えばアーティストの海外公演におけるプロモーションにも使用されている。

「23年度からは、グローバル市場に展開していく大型作品を対象に、最大2億円の制作費の支援を始めました。我々としては、コンテンツIPを生み出す制作現場を支えることが、コンテンツの海外展開力強化につながると考えています」


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●メディア芸術(げいじゅつ)の振興(しんこう)とは?

 映画(えいが)、マンガ、アニメやゲームなどのメディア芸術は、私たちの日々の生活を豊(ゆた)かにするだけでなく、日本が世界に誇(ほこ)る文化です。これらは、海外の人々が日本に関心を持ち理解(りかい)を深めるきっかけとしても、重要な役割(やくわり)を果たしています。文部科学省では、現代(げんだい)の日本文化を世界に紹介(しょうかい)したり、アーティストの活動を支援(しえん)する取組を行っています。

(以上、文科省ホームページ2024より。同ページで“文化庁メディア芸術祭”を紹介)


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 引用が長すぎて申し訳ありませんが、要するに……


 今やオタク文化は「政府が主導している」ってことです。

 コスプレイベントで外務省と国土交通省。

 アニメやゲームで経済産業省、そして文部科学省、文化庁。


 2024年現在、オタク文化は“国策文化”と化してしまったのです。


 もちろん、オタク文化の国際的な成長拡大に資するメリットはあるでしょう。

 しかし、その一方で……

 これが、恐るべき副産物を国内に生み出しつつある……と思います。


 オタク文化を内側から亡ぼす、恐怖の大魔王。



     【次章へ続きます】


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