64●『ジェニーの肖像』(1)……謎めいた文言、時間って、何なんだ?
64●『ジェニーの肖像』(1)……謎めいた文言、時間って、何なんだ?
映画『ジェニーの肖像』(1948)、上映時間86分。
アカデミー特殊効果賞受賞。
原作はロバート・ネイサンの同名作品(1939)。
これはかなり有名な時間SFの古典作品ですので、詳しい説明は要しませんね。
国内向けDVDが出ています。
また、「ジェニーの肖像 映画」でネット検索されれば、予告編と、そして、もっとご覧になることが出来そうです!
美しくも悲しいお話。
舞台はニューヨーク。
作中にブロードウェイのタイムズ・スクエアが出てきます。
設定年代は1934年。
映画冒頭に出てくる画集の、“ジェニーの肖像”のタイトルとともに表記されていることからわかります。
1929年に始まった世界恐慌が尾を引いて、景気は芳しくない時期。
季節は冬、貧しい画家のイーベン青年は、雪に包まれた公園で、不思議な少女を見掛け、声をかけます。
どこか時代離れしたような、古風な雰囲気の美少女。
ジェニー・アップルトンと名乗るその少女は、摩天楼の間から射す光と、公園に立ち込める霧の中から妖精のように現れて、それからもたびたび、偶然に、あるいはデートの約束をして、イーベンに出逢います。
少女と出会うたび、イーベン青年は心癒され、描く絵に心がこもるようになって、画廊の評価を上げていきます。人生が変わったのです。
二人は恋に落ち、イーベンはジェニーの肖像画に取り組み、渾身の傑作を完成させます。
しかしふとしたことで、イーベンは奇妙なことに気付きます。
出逢うたびに、ジェニーは急速に成長し、年齢がイーベンに近づいていく。
変な女の子……という印象だが、イーベン以外の人には少女ジェニーの姿が見えていないようだ。
調べてみると、彼女の両親は既に亡くなっていて、ジェニーがその娘だとしたら、もっと歳を取っているはず、とすると……
二人の出逢いは時空を超えている!
なぜかわからないが、過去の時代の少女と、不思議な運命の糸に結ばれているのだと、イーベンは悟ります。
そして、大人に近づいたジェニーが、数年前に海難で死亡していたことを……
イーベンは決意します。
ジェニーが行方不明になったその場所に行けは、彼女に出逢えるかもしれない。
そうすれば、彼女を救えるかもしれない。
いや、絶対に救うのだ!
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この作品の特徴として、モノクロの映像にロマンティックな彩りを添えてくれる、ドビュッシーの名曲が挙げられます。『夜想曲』の“雲”“シレーヌ”、『牧神の午後への前奏曲』、『アラベスク第一番』、『前奏曲集第一巻』に所収の“亜麻色の髪の乙女”が使用されているそうです。
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さて映画の『ジェニーの肖像』は、原作から変更したり新設した箇所があり、半ばオリジナルの作品として観賞できます。
私の個人的感想では、原作よりも映画の方が、SFとして洗練されている、という印象ですし、視覚媒体ならではの、“見せる場面”が光ります。
近代的な都市景観の中に、ジェニーがふんわりと現れ消える、光と霧の不思議な空間が創り出され、それが、クライマックスのハリケーンと灯台の荒々しい場面と見事な双極をなしていること。
そしてラスト近くに仕込まれた色彩の演出。
イーベンがジェニーを求めて過去の時間へと移動する場面にかかる、エメラルドグリーンのフィルター。
そして1934年の現時点へ戻って来た時のセピア色。
そして最後に“ジェニーの肖像”そのものが天然色でよみがえり、現在も美術館で展示されているかのようなリアリティを放ってくれる……といったことです。
モノクロの映画だと思い込んで観ていると、突如、単色のベールがかかる。
それだけのことで、ショッキングなほどの場面転換が表現されています。
お見事ですね。
*
そしてなによりも肝心だと思うのは、作品冒頭のナレーションで語られる、“時間の哲学”。
“万物は滅びるのでなく、変わりゆくものである。
時は行き過ぎるのではなく、巡るものであり、
過去と未来は、永遠に私たちと共にある。”
この謎めいた文言のあるなしで、じつは、作品全体の印象が全く変わってしまいますね。
作品の根底をなす、“時間とはどういうものなのか”という原理原則が、明瞭に語られているからです。
この文言ゆえに、『ジェニーの肖像』はSFとしてしっかりと成立したと言えるのではないでしょうか。
つまり……
【次章へ続きます】
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