155●『ゴジラ-1.0』の疑問点と続編を妄想推理する。②マ元帥はソ連ビビリなのか?

155●『ゴジラ-1.0』の疑問点と続編を妄想推理する。②マ元帥はソ連ビビリなのか?




●疑問その2:マッカーサーが「ソ連ビビリ」のはずがないのでは?


 ……マイナスゴジラさんが日本本土へやってくる時代は、1947年とされています。

 このとき、ニッポンは敗戦によって、連合国の占領下にありました。

 実質的に、アメリカ軍中心のGHQが日本を支配、その頂点に立っておられるのがマッカーサー最高司令官(マ元帥)です。

 かつてのフランス皇帝ナポレオン並みに、絶対的な独裁者でもありました。

 とはいえ、民主化の推進、たとえば華族制を廃止、女性の参政権を認める、財閥解体に農地改革、あるいは思想犯の濡れ衣で投獄虐待されていた市民の解放など言論の自由につながる、おおむね良いことをされましたし、“ララ物資”などの食糧援助もあり、国民を飢餓から救う政策も打ち出されました。

 大本営発表しかしなかった日本政府よりも、よほどマシだと国民には高評価。

 そのアクティブさは21世紀の令和の政府よりもずっと積極的だったのでは。

 なによりも平和憲法の制定はマ元帥の最大の功績だと思います。九条に絡めて批判される向きも多いでしょうが、当時としては最善の選択だったでしょう。それに日本人に任せておけば、いつまでたってもまともな憲法はできなかったのでは?


 ともあれ、当時の日本の主権者は、実質的にマ元帥。

 いちおう日本の政府は残されていましたが、実態はGHQの言いなりのパシリに過ぎなかったでしょう。大戦中にフランスを占領したナチスドイツがフランスの南半分に作ってやった傀儡政府のヴィシー政権に似たようなものです。


 だからゴジラ襲来となったならば、奴を迎え撃つのは誰を置いてもマッカーサー(マ元帥)のはず。

 しかし……


 『ゴジラ-1.0』では、マ元帥、徹底的に消極的です。

 「ソビエト連邦との情勢を鑑み、軍事的関与は行えない」(P68)と日本政府に表明します。


 これ、素人目にみても、はなはだ疑問です。

 マ元帥、そこまで“ソ連ビビリ”でいいのか? 部下からチキン呼ばわりされるぞ!


 マ元帥は猛将です。

 戦時中、フィリピンを日本軍に奪われたとき「アイ・シャル・リターン!」と、ほぼほぼ捨てゼリフを残して逃亡? もとい撤退されましたが、オーストラリアで実に執念深く再起を期して、とうとうフィリピンを取り戻した経緯があります。

 開戦からずっと米国に戻ることなく戦線を指揮して、ついにニッポン全土の占領を成し遂げるに至った、目標粘着系の最高司令官ですね。

 のち、1950年に勃発した朝鮮戦争では国連軍司令官として、さんざんな負け戦で朝鮮半島の南端に追い詰められながら、起死回生の仁川上陸作戦を敢行、敵軍の背後を衝いて形勢逆転を実現しました。これはもう、一の谷のひよどり越えか桶狭間か、彼の頭の中は戦国時代だったのかもしれません。

 それでも共産勢力が巻き返してきたとは「原水爆を落とそう」と主張されるほど、ガンガンに強気の将軍だったのです。


 ですから、日本占領のおり、ソ連側から「北海道をくれ(できれば東北も)」と要求されたとき、ペッとばかりに拒絶したとも伝えられています。

 ソ連は意外とあっさり引き下がりました。

 なぜならこの時、核兵器はアメリカ一国しか保有しておらず、しかも日本に対して実際に使用していたからです。

 米国には核があり、ソ連にはない。

 これが当時のアメリカ優位、強気外交を物語る事実だと思います。

 1947年は、そんな時代でした。


 だからマ元帥が、ソ連に忖度して、ゴジラ退治をためらうなんて、ありえない……と思うのです。「ソ連ごときにビビっている」印象は絶対に作りたくないでしょう。 

 そんなことしたら、部下はもちろん、お友達の英軍からもコケにされますし。


 とりわけ英軍は、ソ連に対してハラワタが煮えくり返っていたことと思われます。

 大戦中、ナチスドイツに対抗してもらうため、米英はソ連に対して「援ソ船団」を組んで、大量の物資を北極海経由でソ連に送りました。戦車に航空機、燃料に食糧、それらを運ぶ貨物船は次々とドイツ軍のUボートの餌食となって、民間の商船乗組員を含めて、千人単位の犠牲を強いられたことと思います。

 英国自身もカツカツなのに、やっとの思いで軍需物資をひねり出し、しかもタダでくれてやったのに、戦後は手のひら返しで「もっと領土をよこせ!」ですね。そしてスターリンはヨーロッパに鉄のカーテンを降ろしてしまいました。


 だからマ元帥も、ソ連に対しては猛烈に腹を立てていたと思われます。


 なんデェ、イワンの野郎、日本との不可侵条約を破ったのはいいが、十日ほどしか戦っていないのに北方領土を掠め取り、北海道までよこせとは、盗人ぬすっとたけだけしいワ……と。知らんけど。

 ソ連にビビッて「ソビエト連邦との情勢を鑑み、軍事的関与は行えない」(小説版P68)というのは、まあ、IFの歴史の設定ではありますが、それにしても不自然に思えてなりません。


 それにもうひとつ、ここには言葉の罠、レトリックのトリックがあります。

 怪獣退治を「軍事的関与」と言い換えたことです。

 P73でも「うかつに軍事行動ができない」というセリフがあります。

 しかし怪獣退治は、あくまで「害獣駆除」のはず。人食いヒグマを射殺するレベルであって、軍事行動に該当するはずがありません。


 しかし、このレトリックによって、ゴジラ退治は害獣駆除ではなく「戦争行為」であると、観客の脳裏にフワッと暗示されてしまうのです。

 この暗示効果は、物語のラストで効いてきます。

 「浩さんの戦争は終わりましたか?」(P187)のセリフですね。

 ゴジラ退治は主人公たちにとって、戦争そのものだった。

 これは、作品の隠されたテーマにつながります。

 詳しくは後々の章で。


       *


 1947年5月のこの時点、米軍の駆逐艦や潜水艦、輸送船がゴジラの被害に遭い、ゴジラの背びれなどが写真撮影されて、災難の原因はソ連の兵器などではなく、正体不明の巨大海中生物と認識されていたはずです。


 ならばマ元帥は、本来ならこう対処したでしょう。

「キングコング(1933年に映画化されている)みたいなクジラじゃないか? それなら生け捕ってみろ、見世物にしてやる」と。知らんけど。


 前年の1946年秋、ニッポンの悲惨な食糧不足を補うため、南氷洋の捕鯨が開始されていました。史実です。

 二つの捕鯨船団が夏の南氷洋へ出かけてクジラを捕り、そして1947年の2月以降に帰国したところだったのです。

 大阪港と長崎港を拠点とする二つの船団に、それぞれ6隻、計12隻の捕鯨船キャッチャーボートが所属していました。それらが舳先の銛砲もりづつを整備して、クジラならぬゴジラ獲り……それも「ゴリラみたいなクジラ」と、名称に忠実な認識をもって出動できたものと思われます。


 沖縄沖で、ゴジラに対する捕鯨作戦開始。

 もちろんその結末は捕鯨船の全滅で終わるのですが、上空には米軍の偵察機が舞ってゴジラを撮影、その体形と放射熱線の威力をつぶさに観測したはずです。

 ゴジラの脅威をより正確に報告されたマ元帥は指令したでしょう。

「空爆と雷撃でゴジラを屠れ! 二年前に戦艦大和を沈めたその海で!」


 米軍が殺到します。

 沖縄からB24、硫黄島からB29による空爆。

 海兵隊のアヴェンジャー雷撃機編隊による魚雷攻撃。

 活躍したのは沖縄から飛来したB-25Hの集団でした。機首に戦車並みの75mm砲を1門 (弾数21発)、さらに12.7mm機関銃を14門 (弾数計5,800発)も備えた、ハリネズミ顔で武装強化したタイプです。ゴジラ頭部に集中攻撃し、ヤツの目を潰すのだ。

 そこへ、沖縄と佐世保から集めた駆逐艦隊による爆雷攻撃。

 重巡と軽巡による砲撃。

 幸い、砲弾も爆弾も魚雷も、大戦中の在庫が山と余っている、撃ち放題だ。

 全長260メートル、およそ七万トンの戦艦大和を沈めた米軍の誇りをかけて、身長50メートル+尻尾が百メートル、体重二万トンのゴジラを撃滅するのである。

 やってやれないことではあるまい。

 そしてこの作戦はあくまでマ元帥直接の指揮による「害獣駆除」であり、戦闘行為ではないと喧伝される。「これは実戦にあらず、演習である!」と。

 ゴジラ殲滅作戦は、大っぴらに実施された。

 もちろん、ソ連に察知させるためである。

 どうせスパイはいたるところにいるのだ。とりわけスパイ天国のニッポンでは。

 だから臆することなく「害獣駆除のための演習」と国際的に表明するのである。


 『ゴジラ-1.0』で海神作戦が実施される前に、マ元帥とGHQによって、「ゴジラ生け捕り作戦→ゴジラ撮影作戦→空爆と雷撃による殲滅作戦」のプロセスが踏まれるのは必然だと思うのですが……


 そんなマッカーサー元帥がソ連にビビッてゴジラ退治から腰が引けるのは、いくら何でもムリムリ感が満載ではありませんか?


       *


 つまり、結論として……


 『ゴジラ-1.0』は、なんらかの深い理由があって、観客からマ元帥とGHQへの関心を逸らさせて、「マ元帥とGHQが登場しない」演出にすることが必要だった……ということが推察されるのです。


 そこが、とても不自然な点です。

 『シン・ゴジラ』に至るこれまでのゴジラ映画の歴史をみる限り、在日米軍さんの介入か暗躍は、無いことが不思議なのですから。


       *





    【次章へ続きます】


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