185●『2024能登半島地震』と二つの映画『日本沈没』(1973)(2006)。⑫『沈没』は呼ぶのか、経済と政界の沈没!

185●『2024能登半島地震』と二つの映画『日本沈没』(1973)(2006)。⑫『沈没』は呼ぶのか、経済と政界の沈没!




 2006年版では、羽田を飛び立って中国へ向かう日本政府のチャーター機(ボーイング747)が、九州上空で阿蘇山の噴火に巻き込まれる場面があります。

 機体の下方から高射砲のように噴き上がる無数の火山弾、そして爆発的な噴煙!

 緊迫の場面ですが……


 B747は高度一万メートルあたりを時速900キロほどで巡航しますので、やはり普通に考えて火山弾が一万メートルに達するのはどうなのかと思いますね。

 噴煙は一万メートル以上に達するでしょうが、なにぶんヒコーキは時速900キロ。 

 新幹線の三倍という高速です。機体の下から噴煙に突き上げられるよりも、噴煙の中に突っ込む方が、描き方としては正しいでしょう。

 ブワッと前方に巻きあがる噴煙、その中に機首から突っ込み、猛烈な粉塵で肉眼もレーダーも視界を失い、エンジンは粉塵を吸い込んで大量の砂粒によってタービンブレードが破壊されて飛び散り、燃焼室に穴を開けて燃料に引火、大火災を引き起こす……といった流れになるのでは。

 つまり、まるで高射砲に撃たれるみたいに火山弾と噴火の炎に襲われる画面は、いかにもアニメ的な、デフォルメされた描写だと思うわけです。

 画面の情景は派手なクラッシュで眼を引きますが、実はあまり現実的ではない、“薄口リアリティ”のカットだと言えるでしょう。

 CGによる火炎や爆発の表現は凄いけれど、どこか現実離れして見えるわけです。

 視覚的には、そういった傾向が、作品の随所に見て取れます。


 まあ、それはさておき、ここで気になるのは、「同じB747でも、なぜ、尾翼に日の丸の政府専用機(2006年当時はB747を運用)でなく、“特別チャーター機”だったのか?」ということです。

 総理を含む要人を運んでいますので、政府専用機がむしろ、ふさわしいはず。

 ということは、なるほど……


 「政府専用機が要人を乗せて墜落するのは、縁起でもないからやめてくれ」


 ……と、その筋から横槍が入ったのでしょうね。

 映画公開の前後に、万が一の万が一でも本物の政府専用機が事故るようなことがあったとしたら、映画は公開中止か延期になる可能性があったのかも……


 それに、政府専用機はある意味“自衛隊機”でもありますしね、やはり落ちてはいけないのでしょう。


 だから“チャーター機”にしたんでしょうね。


 もしもそうだとすると、2006年版『日本沈没』は、時の政権に忖度して、いろいろと気を使って作られたのではありませんか?

 ……と、おせっかいながら、妄想してしまうわけです。


 あ、あくまで私個人の勝手な妄想ですよ。

 そんな気がするなあ……というだけのことです。


 と言いますのは……


 2006年版『日本沈没』に登場する総理のヘアスタイル。

 あのライオンヘアは、みまごう余地なく、当時の現総理のパロディ!

 そのあたり、当時の現政権に対する忖度というか、ヨイショというか、そこはかとない気遣いが見て取れます。

 となると、総理代行に昇格したもののスタコラと国外逃亡してしまう情けない官房長官は、もしかしてあの人?

 そして危機管理担当大臣を兼任で拝命し、大奮闘する女性の文科大臣は?

 当時の文科大臣は男性でしたが、それとは別に、地球環境問題も担当する環境大臣がおられて、それは女性の、あの方でしたね。

 フーンなるほど……などと妄想してみるのも、ちょっとした楽しみです。


       *


 2006年版の結末でどこか引っかかるのは、ホバークラフト揚陸艇の格納庫で臨時政府を代表する彼女が演説した新政府のスピーチ。

 “国外に避難している人たちが帰ってくる”と明言してしまいました。


 これですね、今、中途半端に残ってしまった島々に取り残されている人たちから見たら、どうでしょう?

 このまま日本が全部沈没したら、ほぼ、見捨てられていた人々です。

 運よく生き延びたものの、家族、親族、恋人や友人を亡くした人は数え切れず。

 彼らからしたら、危ないときだけ札束に物を言わせて国外の安全な場所へいち早く逃げてしまい、沈没しなかったのを幸いにシレッと帰宅するような連中を快く「おかえりなさい」と迎えることはできないでしょう。

 残された人々の多くは「避難した奴は帰ってくるな!」と叫ぶでしょう。

 しかも、残された土地の現状は悲惨そのものです。

 つまり、無政府状態のスラムと化してしまうのです。

 わかりやすいのが永井豪先生の『バイオレンスジャック』状態。

 この漫画作品は『日本沈没』と同じ1973年に雑誌連載開始。また『新バイオレンスジャック』の不定期連載も、2006年版『日本沈没』と同じ年に始まっています。

 「関東地獄地震」のその後を描く『バイオレンスジャック』は決して絵空事の漫画と片づけられるものではなく、1995年の阪神淡路大震災では、報道されなかっただけで、一時的とはいえ警察なき無政府状態が生まれ、窃盗・強盗・婦女暴行の事案が頻発したという噂も耳にします。

 そしてこのたびの能登半島地震でも、被災地と避難所の治安を憂慮する声がちらほらと聞こえてきます。

 実態は世間に知らされないだけで、実は相当に酷いことになっているのでは? と気がかりなのですが……


 それはさておき、2006年版では、たぶん『バイオレンスジャック』状態に陥ってゆく日本列島、いや「日本群島」にまともな治安が回復するまで、サバイバルな内戦状態が続くのではないかと思われます。


 最終的には、それぞれの島を暴力で支配する反社なボスたちを、政府が懐柔して手を結ぶ…という、かなり汚い手法で統治してゆくことになりそうな気がしますね。

 『バイオレンスジャック』の世界観で言えば、悪の親玉スラムキングを、そのままお代官様として合法化するやり口です。

 そうなると、もう21世紀でなく江戸時代ですが、日本沈没の後日談は、決してきれいごとでなく、血みどろでドロドロの争いが待っているのでしょうね。


 人の心は決してユートピアではなく、その底辺にはディストピアが潜むのです。




       *


 そういえば……

 映像作品としての『日本沈没』の大ヒットと、そのすぐあとの政界や経済の事件を気にかけてみますと、なにやら偶然の一致とか、ノストラダムスの予言的な因縁がありそうな……


 と言いますのは……


 西暦1923年、関東大震災。

 くしくもその50年後の1973年に、『日本沈没』の小説が出版され、映画が公開されました。

 おりしもニッポンは列島改造ブームの好景気に沸く一方で不動産価格はバカ上がり、つまり、当時はそう呼びませんでしたが、“角栄バブル”だったんですね。

 しかし……

 同じ1973年の10月、第四次中東戦争が勃発。

 そして12月23日。OPEC加盟の産油6カ国が、1974年1月より原油価格を5.12ドルから11.65ドルへ引き上げると決定しました。

 第一次オイルショックです。

 翌1974年、石油価格の高騰に端を発して、あらゆる物価が高騰し、国内ではトイレットぺーパーの買い占め騒動が勃発。この「狂乱物価」をもって、ニッポンの輝かしい高度経済成長は終わりを告げました。

 政府は節電を呼びかけ、百貨店のエスカレータが止まったり、飲食店、映画館、商業施設の営業時間は短縮を余儀なくされました。2020年のコロナ禍全盛期の市井しせいのように、夜の都市は閑散としたのです。


 また政界では1976年にロッキード事件が表面化、同年夏に前総理が逮捕されて永田町に激震が走りました。


 1973年の『日本沈没』は、絶頂期にあった高度経済成長がつまずいてコケる、並行して政権の権威もコケる、ある意味「もう一つの日本沈没」な事件と足並みをそろえていたんですね。


       *


 さて、その33年後、2006年の映画『日本沈没』はどうだったでしょうか。

 2006年と言えば、ほかに、1973年版の続編にあたる小説の『日本沈没 第二部』が出版され、一方でパロディ映画の『日本以外全部沈没』が公開されるなど、「沈没祭り」と称したいほどの「沈没大当たりの年」でした。

 ただし、映画の2006年版の結末は、小説の『日本沈没 第二部』のオープニングとリンクしておらず、各自バラバラに『日本沈没』を描いたことになります。やや脈絡がないというか。読者や観客にとっては三種類の沈没物語が開帳されたわけで、いささか面食らった年でもあるでしょう。


 で、この時のニッポンは、ITバブルの崩壊を乗り越えて、経済が復活しつつありました。

 少しばかり、未来に明るい展望が見えてきた時代であります。

 しかしそうはなりませんでした。

 言わずと知れたリーマンショック、2008年のことです。

 これで日本の株価は爆下がり。経済のデフレ化が顕著になりました。


 そして政界では……

 2007年2月に社会保険庁は基礎年金番号への過去記録の統合・整理を進めるとしたものの、2006年6月時点において、コンピュータに記録があるものの、基礎年金番号に統合・整理されていない記録が約5000万件あり、社会保険庁が年金記録をまともに管理していないことが判明しました。

 あの「消えた年金問題」です。

 当時の自公政権はこの問題の後処理でつまづき、国民の信頼を失って2009年に政権交代を許してしまいました。


 2006年の『日本沈没』も、ある意味、経済と政界の“沈没”と足並みをそろえていたわけです。


       *


 それでは、さらにその14~15年後の、アニメ『日本沈没2020』と、TVドラマ『日本沈没 希望のひと』(2021)では、どうだったでしょうか。


 アニメ『日本沈没2020』は、作中で東京とパリの五輪が扱われるなど、「2020東京五輪」の開催による景気の盛り上がりを意識していたのではないかと思います。

 しかしまさにその2020年の年頭、コロナ禍が私たちに襲い掛かりました。

 しまった! 『日本沈没』でなく『復活の日』をリメイクしときゃよかった! ……と、誰かさんが後悔したかもしれませんが、後の祭り。

 とはいえ両作品とも視聴率はかなり良かったようですね。

 2020東京五輪は一年延期されて2021年に開催されましたが、観客ゼロの環境でやらざるを得ず、だれかさんが巨額の開催費用から巨額の“中抜き”のポッポナイナイをしたのかどうか知りませんが、予算の割にはすごく安っぽくてショボい印象の開会式となりました。

 やはり日本経済はがくんと沈没。

 ただし、庶民の生活は苦しいのに、株価だけはウナギ登りという、ちょっと奇妙で不気味な展開となっております。

 政界では、2020年9月に歴代最長政権を誇った総理が退陣し、二年後の2022年7月に、あの事件でお亡くなりになりました。そこでワッとばかりに表面化したのが、あの宗教団体と政治の癒着問題、そして2023年には今を騒がす裏金問題で政権が揺れています。


       *


 まあ、コジツケは百も千も承知なのですが、『日本沈没』ブームが巻き起こると、実態の経済や政界でも“沈没現象”が巻き起こるという、ノストラダムス的な破滅の予兆が『日本沈没』につきまとっているのでしょうか?


 小松左京先生の御霊みたまは、そんな日本国民のオタオタぶりを、天国から笑ってみそなわしておられるのかもしれませんね。


 それでは、次なる『日本沈没』の大激震は、いつやってくるのでしょうか。

 楽しみに……したら不謹慎ですが、さてはて、どうなることやら……





      【次章へ続きます たぶん】



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