愛すべきサウンド・オブ・ムービーミュージックと、その作品たち

103●おすすめ映像音楽(1)…ステラデウスの“Holy Spirit piano version”

愛すべきサウンド・オブ・スクリーンミュージック



103●おすすめ映像音楽(1)…ステラデウスの“Holy Spirit piano version”




 映画音楽、というジャンルがございます。

 2017年のドキュメンタリー映画『素晴らしき映画音楽たち』に続いて、NHKが映画史に残る名曲を東京フィルハーモニー交響楽団ほかの演奏で楽しむ特番『映画音楽はすばらしい!』を不定期で放映するなど、マイナーながら、ちょっとした懐かしブームになっているようですね。


 世界で最初の映画音楽は、1908年に、大御所のクラシック作曲家サン=サーンスが『ギーズ公の暗殺』という映画のために作曲したものとされています。

 といっても、当時のフィルムはサイレントの時代。無声映画です。上映に合わせて、たぶんピアノとか弦楽器で生演奏したんでしょうね。

 それはそれで、贅沢なたしなみ。


 やがて映画は音付きのトーキーとなり、フィルム上の画面を示すコマの横にサウンドトラックなる録音信号の帯が添付されて、画面の動きに完全に同期して、セリフも音楽も楽しめるようになりました。あの細いフィルムのはじっこに記録された、極細のギザギザ稲妻が縦に走っているみたいな光学的な模様を読み取って音声に変換するのですから、たいした技術だと思います。

 つまり、音を光に変えてフィルムに焼き付け、その光を読み取って音として取り出す……という、どことなく魔法的なプロセス。

 光学的錬金術……みたいな魔力を感じますよ。

 およそ百年もの昔、1920年代のことです。当時は本当に魔法的な技術だったでしょう。いや、21世紀の今でも、魔法的と言っていいのかもしれません。


 しかしサントラは、あくまで画像の伴奏。映画を視覚的に満喫するための音楽要素だったわけですが……

 それはまた逆に、サウンドトラックの部分だけを分離してレコード盤に移せば、音楽だけを切り離して鑑賞できることになりますね。

 家庭にVTRが普及する1980年代までは、映画の記憶を心に蘇らせる手軽なツールは、サントラのレコード盤だったわけです。



 で、思えば21世紀の私たちも、ごく日常的に、ここ百年の間に産み出された数々の映画音楽を、映像とは切り離した音楽として、ごく普通に聴いていますね。

 私も、作業のBGMや気分転換のイージーリスニングとして、映画やアニメ、TV番組など映像作品のサントラを室内に流します。

 愛用のソニー製中古セレブリティにオンキョーさんの中古CDプレーヤーを外部入力でつなぎ、なんともロートルな前世紀の音楽環境でありますが……。


 サントラ、というものを意識して聴き始めた最初のころ、私は昭和の子供でしたが、当時はサントラと言えば、映画の感動を思い出すためのメモリーツールでした。

 サントラはあくまで、映像を引き立てる召使だと思っていたのです。


 でも、VTRを購入し、続いてDVDの時代がやってくると、映画の感動はすぐさま映像で再体験できるようになりました。

 では音楽のだけのサントラCDは不要になるかと言えば、そうではなく、新たに購入しています。飽きることなくサントラを聴き続けたということは、映画音楽が映像やセリフとは分離した、それ自体独立した芸術媒体として認識できるようになったということでしょう。


 映画本体の映像よりも、音楽そのものを楽しむためのサントラ。

 年月を経て、本棚にサントラのCDソフトが蓄積するにつれ、映画のストーリーはあらかた忘れてしまい、視覚的な要素はほとんど意識しなくなっても、サントラを音楽そのものとして耳で味わう機会が増えてきました。


 映像を見ずにサントラのCDだけを買って、音楽を堪能する。

 ちょっと奇妙ですが、そういうことも多いのです。

 ゲーム音楽がそうです。私はてんでゲームをやりませんので、ドラクエやグラブルなどは、CDだけを聴き惚れています。

 特に良いのは、ファンタシースターユニバースの『SAVE THIS WORLD』。

 東京五輪は延期すべきだったと今でも思いますが、開会式にこれが流れたときには、おお、さすが名曲だと感激しました。讃えるべきはファンタシースターであり、五輪ではありませんので。


 また特別な一曲として、ステラデウスの非売品『Stella Deus BGM ReArrange Album』の最初の曲『Holy Spirit piano version』は忘れられません。涙にじむ名曲だと思います。

 (ネット検索で聴けるかも。この後の章でご紹介していく数々の曲も映像も、たいていはネットのどこかにあると思います)


 ゲームは全く未見なので、この曲は、私なりに勝手なイメージをあてはめて聴いています。

 それはアーサー・C・クラークの処女長編『宇宙への序曲』のラスト近くから浮かんでくる場面。

 時は架空の1960年代。

 舞台は、人類初の有人月ロケットを打ち上げる発射場です。

 オーストラリアの荒野に敷かれた、数十キロにもわたる長大な電磁カタパルト。

 その軌条を滑って大気を切り裂き、ソニックブームを轟かせてスキージャンプ勾配を駆けあがると、水蒸気の渦を引いて夜空の闇へ躍り上がる白銀の宇宙船。

 昔ながらの紡錘形に翼を広げたデザインの母船、その背中には、真空を駆けるために翼を持たないルナロケット。

 衛星軌道上で母船を離れ、わずか三人の人類代表を他の天体へ初めて送り届けるための、小さな渡し船です。

 母と子のように助け合う親子宇宙船は、空中で両方の主機関に点火。

 まばゆい原子の炎、衝撃波が雲海を放射状に吹き飛ばす。

 降り注ぐ月光を天使の階段に例えて、ひたすら天頂へ昇りゆく。

 飛び立つ宇宙船の航跡ウェーキが押し分け、千々にちぎれた雲の間から、満天の星々が静かに姿を現してくる。

 よみがえる闇、しばし沈黙して、地表で見送る人々。

 冷涼な夜風にいだかれて、ただ、無事な船出を祈るのみ。


 そんな情景です。


 自明のことではありますが、映画音楽はただの伴奏にあらず、それ自体が映像とは別に豊かな霊感インスピレーションをもたらしてくれるものなのでしょう。


 完全に個人の主観と偏見に基づきますが、そんなイチオシの映画音楽(とその周辺音楽)について、ご紹介させていただきます。





※映画タイトルに付した年代は、制作年と公開年をきちんと区別できておりません。

 作品が世に出た時期の、おおよその目安とお考え下さい。



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