141●2007年の『SPY×FAMILY』!?…『0093女王陛下の草刈正雄』①
141●2007年の『SPY×FAMILY』!?…『0093女王陛下の草刈正雄』①
アニメ『SPY×FAMILY』が一躍、盛り上がりを見せて、この2023年10月から第二シーズンの放映が始まりました。
主人公は名うての敏腕スパイ“黄昏”氏。世間を欺く仮面家族である妻や娘と同居しながら秘密任務を遂行するという、サスペンスタッチのホームコメディ。
自分が本物のスパイであることを愛娘役のアーニャに悟られずに(といってもアーニャの超能力でバレバレなんですが)デンジャラスな任務をこなさねばならないところが「パパはつらいよ」的な面白さ……
で、スパイファミリーなら、こちらもお忘れなく。
『0093女王陛下の草刈正雄』。
公開は16年前の2007年10月13日。上映時間88分。
全編ほぼ爆笑のパロディ巨編???
とはいえ見た目は激安のチープ感あふれるB級どころかC級な味わい。
いやとにかく、不思議な作品です。
そもそもタイトルに「草刈正雄」とは、これ如何に?
主人公は文字通り、草刈正雄さん、その人。
ニッポンを代表する「二枚目俳優」(作品ナレーションより)でありながら、じつは英国の女王陛下に任命された敏腕スパイ、コードネーム“0093”なのである……という設定。
芸能界で大活躍しながら、裏稼業はスパイ。
というわけで、ご本人がご本人を演じるという、類を見ないユニークな作品です。
しかも、実の娘の草刈麻有さんが娘さんの役で出演、つまり初の父娘共演が、それぞれ「本人を演じる」形で実現しているところがさらなるレア要素となっています。
ではお母さんはどこにいるかというと、オープニングタイトルの影絵芝居から、どうやら浮気(?)がバレて愛想をつかされ、海外旅行に飛び出して行ってしまわれたらしいですね。
ということで、作品では実の父と娘が、中年オヤジと年頃の反抗少女を本物ソックリ(当然、本物ですし)に演じておられ、もう虚実ないまぜといった感じの微笑ましい演技が見どころとなっています。
これもひとつの『SPY×FAMILY』では? しかも、なんだかんだで、お父さんは正体を隠し通そうと頑張っている様子がうかがえるのです。
*
作品公開の2007年、草刈正雄さんは年齢50代に入っておられますが、アクションのキレは冴えわたり、スパイの貫禄十分です。
本作の22年前、1985年にはNHKの新大型時代劇『真田太平記』で準主役の真田幸村を好演されました。若かったですねえ。
このとき父・真田昌幸役である丹波哲郎さんの妖しいオーラ満々の“怪演”が光っていましたが、草刈正雄さんは、なんという運命か31年後の2016年には大河ドラマの『真田丸』で昌幸を演じられ、丹波哲郎さんの向こうを張った“怪演”を存分に披露されました。名実ともに丹波哲郎さんの超自然なオーラを引き継がれたのではないかと思います。
そして『美の壺』のレギュラーや養命酒のCMで、得も言われぬ円熟感を漂わせた大御所になられたクサカリ氏、だからこそ2023年の現在になって『0093女王陛下の草刈正雄』を観賞しますと、その独特の違和感が絶妙に美味な隠し味となることに驚かされます。
今や押しも押されもしない大スターが、16年前とはいえ、なにゆえかくもチープでC級めいた駄作、もとい、珍作に主演なさったのか、そのギャップの不可解さが……もう、素晴らしい!
『0093女王陛下の草刈正雄』のご本人の演技力、その芸域の広さと奥深さは十分すぎて、この手のC級(?)パロディ作品には、明らかにオーバースペック。しかしそのオーバースペックぶりが、これまた魅力なのですね。
例えば、ビルの一室に閉じ込められて灼熱地獄を仕掛けられる場面、どうみてもそこいらの雑居ビルの自販機コーナーでしかないのですが、草刈正雄さんの演技力、それだけで見事に本物の灼熱地獄になってしまいます。いわば最強の“独り芝居”を見せていただけるわけでして、観客冥利に尽きる名シーンです。
それだけに、脇を固める役者さんはガチガチの名演技というよりは、肩ひじ張らずに適度にスペックダウンした軽いノリで楽しませてくれる……という印象。
ほぼ全編ボケを決め込む草刈正雄さんと、ツッコミまくる脇役の皆さん、物語の前半はギャグがいささか退屈なのですが、それに慣れる、というよりもこちらが慣らされて、後半は笑いの連続射撃、と相成ります。
にしても、徹底したC級的低予算感覚が半端ない。
むしろ、わざとチープ感を演出しているように見せて、本音でガッチリと低予算のコスパを実現したみたいな。
おそらく作品公開時の2007年には「こんなに安っぽい作品に出るとは、クサカリさんもとうとう落ち目になったのでは?」とファンを混迷のるつぼに叩き込んだのではないかと思います。
しかし2023年の今になると、すっかり大御所になられたクサカリ氏が隠し持っていた、真逆のギャグキャラクターを堪能できる貴重作に大化けしたのではないでしょうか。
2007年には、ただの「C級ギャグ作品」だったものが、映画史の地中に埋もれて16年、ここで発掘してみると、香り豊かな「ヴィンテージ・ギャグ作品」に熟成していた……。
そんな、不思議な逸品といえるのではないでしょうか。
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【次章へ続きます】
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