168●『ゴジラ-1.0』の疑問点と続編を妄想推理する。⑯ゴジラ上陸は何月何日? そして録音テープの謎。

168●『ゴジラ-1.0』の疑問点と続編を妄想推理する。⑯ゴジラ上陸は何月何日? そして録音テープの謎。




 『小説版ゴジラ-1.0』に感じる「謎」の続きです。


       *


 ゴジラが東京へ上陸したのは、1947年のいつでしょうか?

 作品中で極めて重要な歴史的事件なのですが、残念なことに、小説版を見る限り、正確な日付が特定されていないようです。


 手がかりは、「ゴジラの横顔は五月の夕日を浴びて」(P109)という描写。

 日付は不明ですが、ゴジラが銀座で暴れたのは「1947年の5月」と特定できます。


 そして、その直前には……

 「ラジオからはのんびりと、最近流行している『鐘の鳴る丘』の主題歌が流れていた」(P100)と書かれています。これはゴジラが上陸し、品川方面から銀座へと暴れまくることになる当日のことです。


 『鐘の鳴る丘』の放送時刻は「初年は毎週土曜日と日曜日の午後5時15分から15分間の放送だった」(ウィキペディアより)とあり、五月の東京の日没時刻は18時30分頃なので、「ゴジラの横顔は五月の夕日を浴びて」(P109)という描写に一致します。


 これにより、ゴジラの銀座襲撃は「1947年5月の土曜日か日曜日の午後5時15分以降」と推定できますね。典子の勤務先は銀座の「デパート」ですから、定休日は水曜あたりで、土日は勤務していたと考えていいでしょう。


 ですが……


 ウィキペディアでは、『鐘の鳴る丘』について「1947年(昭和22年)7月5日から1950年(昭和25年)12月29日までNHKラジオで放送されたラジオドラマ」と記述されています。

 つまり、七月から放送される番組が、五月に流れていたわけです。


 まあ、いいといえばいいのですが……

 山崎監督の傑作『ALWAYS三丁目の夕日』(2005)の第一作では、年代が1958年なのに、翌年の1959年10月以降に発売された型式のミゼットが登場していましたので、この程度の誤差はアリアリで結構なのですが、どーせならゴジラの上陸記念日を放送に合わせて 七月にしてほしかったなア……


       *


 次に「録音テープの謎」です。

 『ゴジラ-1.0』では、「マツダビルの屋上には(中略)実況をテープに吹き込もうとするアナウンサー達が上がってきていた」(P107)とあり、この時の録音テープが、後日、ゴジラをおびき寄せるトリックに役立てられます。


 しかし……

 ウィキペディアの『鐘の鳴る丘』の項には、このような文言があります。

「1948年(昭和23年)の4月からは週2回から週5回へと放送回数を増やし、(中略)録音放送へと変更した。CIEはNHKに対して、当時最新であった連続15分の録音を可能とする録音機を提供したが、それはまだNHKが所有していない機材であった。」


 CIEはGHQの一部門です。

 この記述から推測できるのは「1948年の時点では、連続15分の録音ができる機械は、NHKですら持っていなかった」ということです。


 なのに1947年の五月、マツダビルの記者は、テープレコーダーを使用していた。


 ウィキペディアの『テープレコーダー 歴史』の項では、録音テープの技術はドイツが発祥であり「ドイツの敗戦後、テープ録音技術がアメリカに移転され、民生用途に広く転用されるようになった。1947年には3M社が磁気録音テープを発売した。」とあります。


 録音テープが米国で発売された1947年に、敗戦国日本の記者たちがテープレコーダー、それも据え付け型でなく手に持って移動できる可搬式のタイプを持っていたとは、ちょっと考えにくいのではないでしょうか。


 ちなみに、「デンスケ」の商標でソニーが開発した、たぶん肩掛けの可搬式と思われるテープレコーダーが発売されたのは1950年代に入ってからのことです。それでもボストンバッグくらいの大きさはあったようですね、ズッシリ感満載です。


 となると、ゴジラ上陸時に使用された録音機は、テープ方式でなく、NHKスペシャル『“戦い、そして、死んでいく” ~沖縄戦 発掘された米軍録音記録~』(2023年7月20日)にみる、「金属ワイヤー方式の録音機」だったほうが現実的であると思われます。

 これは、米軍兵士が戦場で現場の音声を収録するために使用した携帯録音機であり、その一台がゴジラ上陸に備えてGHQから供与されたとすれば納得できる設定ではないかと……


 それに、おそらく録音媒体の耐久性も、テープよりはワイヤーの方が丈夫だったでしょうし。

 テープよりワイヤーの方が、時代感があったのでは?


       *


 細かいことではありますが、こんな歴史探偵な感じで『ゴジラ-1.0』を観察するのも、一つの楽しみ方ではないかと思います。



   【次章へ続きます】


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