第290話 ボレイリョウ(9)
本当に美味しい肉は塩でも美味しい、というチーズさんの教えにより、ハーブソルト、シーソルト、梅塩などが準備される。それ以外でわさび醤油、バーベキューソースもあり。こんなに味変をつくってくれるとまた食べ過ぎるじゃないか、と考えつつ目の前の肉にみんなで夢中になる。
「まだまだいっぱいあるから、しっかり食べてね」
「さっきあんなに牡蠣食べたのに…」
「まあまあ消化されてるでしょ?運動したし」
「ところでだな、チーズ。いつもこんなもの食べてるのか?」
「なに、テミス美味しかった?」
「いつもなんというかだな、焼くとか煮るとかしないからな、こう、工夫がいるんだなって学んだ、今、まさに」
チーズさんや
もうチーズさんたちが転写されてくる前の食生活なんて、思い出せないところまできている。
「これ、山に入っていったら山菜、あるかな。タラの芽とかコシアブラとかふきのとう、ウド……」
「?それは食材ですか?」
「そう、食材。あったら食べたいなあ、近しいものであれば同じような調理でいけるだろうし。あ、味噌もそのうち造るかな」
チーズさんは何やら造りたいものが沢山あるようで、それがほぼ食生活に直結してるみたいだ。狩猟にしてもそう、美味しい肉を美味しく食すには下処理が重要、人任せにせず自分でやって腕を磨くというのはなんというか、普通の事ではないように思う。
食に貪欲な兄妹だなあ。かなり僕も毒されてるけど。
「デザートは……いつものミルクアイスはあるけど、ちょっと別の方がいいよね。えっと…あ、太いストローあったあった」
「何を作るんですか?」
「見てて」
そう言うと「これ、ミキサーって言うんだよ~本当はバイミックスマシーンがあればいいんだけどあんなの一般のご家庭にはない。兄は持ってるかもだけど」といいつつ、大きなガラス容器、容器の下に刃がついた謎アイテムを虚空から取り出す。本当にこのチーズさんの【無限フリースペース】は万能すぎて当たり前に使わせてもらっているけど意味が分からない。転写チートとでもいっていいものか。
「電源は……電圧のつよいモバイルバッテリーみたいなの魔法使いさんに造ってもらったんだよね。これこれ」
僕も初見のそのボックスに電源を繋ぎ、ガラス容器に氷とシロップと牛乳、を入れて攪拌が開始される。そうか、これはパワフル攪拌マシーンだったんだ?!
その様子に僕はもとより、他の3人も注目している。
「チーズはなんか不思議な仕事をしよるなあ。楽しい楽しいそして美味しいから最高だな」
このどっから湧いたかよくわからないこの「テミス」という女性、見た目は大人だけれど、どうも生まれた時期は大黒天と同じぐらい、言語の学習もどこからしたのかすらよくわからない、言葉を解する魔族。存在自体が疑問の塊ではあるけれど、とりあえず僕たちに今のところ害はないから、いいことにしてるけど。ただ、情報は知っていたけど初見だったイオだけがものすごく最初は警戒していた。
『この女性は一体何なんだ?』
『多分魔族。ただ、悪さをすると救国の魔法使いからの鉄槌が入るっぽいから現状害はないから』
『は?!すごいな師匠の幼馴染は。先手は打ってあるってことか』
『まあ、完全に警戒を解くわけにはいかないけど、チーズさんと一緒に温泉入ってるぐらいだし、まあ……』
『懐いてるってわけね』
『そゆこと』
兄弟会話をしていたら渡されたストローの刺さった紙コップを渡された。
「さあ、出来た出来た。アイスドリンク。まあ、寒くなるかもしれないけどそれはゴメンってことで」
「ありがとうございます」
受け取った流れでみんなで「いただきます」と言い、吸ってみる。
甘い、冷たい。
一気に行き過ぎたせいで頭がキーンとする。それにしても、美味しい。
「どうこれ、美味しいでしょ?今度バイミックスマシーンないか兄さんに聞いて見ようかな。これよりもっと美味しく出来るんだよね、あれあれば」
「充分おいしいですけど」
「カロリーがバカ高いから、勉強のお供とかにはいいかもしれないね。今回は乗せてないけど上に蜂蜜をのせたり、生クリームを乗せたり、色々しても美味しいんだよ?……ってそうか。機械さえあればミルクスタンドで売れるよね?」
「確かに」
そう言い笑いあったところで、突然僕の【ステータスボード】が開き、【緊急連絡:コウコ】の表記。
なんだろう緊急連絡って。今の今までものすごく楽しかったのに、急に血の気が引く。
王になにかあった?いや、コウコさん、それとも王の影武者?!
イオには僕の様子のおかしさは悟られてる。
耳元で心臓が脈打つような音を聴きながら、連絡を、開いた。
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